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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第二章 深淵の森
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夜明け

「なっ……!?

 死んだはずじゃ……!」


あの時、確かにロイは穢れの羽で胸が貫かれていた。


「これが……守ってくれた……」


ロイは、

砕けたペンダントを握っていた。


アンジェの形見。


魔石部分が砕け、

代わりに致命傷を受け止めていた。


「でも、あいつに俺の魔法は……」


実体を持たない相手に魔法は通用しない。


「いえ、あなたならできます」


エリスが言う。


「霊体化魔術」


ロイの目が見開かれる。


三秒だけ、

自身を霊体へ変える魔法。


霊体は実体を持たない。


故に、

同じく実体を持たない存在へ干渉することができる。


ルナ越しに話を聞いていたエリスは、

その存在を認識していた。


「馬鹿な……!」


根源が後退る。


「そんな魔法が――!」


必死で藻掻くが、エリスが離さない。


「でもそれだとあなたがっ!」


このまま封印すれば根源もろとも封印してしまうことになる。


「構いません、娘を守るためであれば」


覚悟を決めた者の言葉だった。


「さあ、私ごと封印してください!」


ロイは覚悟を決める。


「《霊体化魔術》」


身体が透ける。


そして。


「《封印術》!!」


霊体化したまま、

鎖を放つ。


今度は、

すり抜けない。


光の鎖が、

根源とエリスを同時に拘束した。


「やめろおおおおおおお!!」


絶叫が響く。


「せっかく、蘇ったというのに!!!!!」


身体が、

ロイの中へ吸い込まれていく。


その直前。


エリスは、

穏やかに微笑んだ。


「ロイ様。

 娘を――ルナを、お願いします」


そして。


光ごと、

完全に封印された。



無事、根源を封印することができた。


だが――


「っ……」


霊体化魔術の制約で、

身体がうまく動かない。


力が抜け、

足元もふらつく。


それでも、

ロイは必死にルナの元へ向かった。


「……ルナ?」


眠っているように見えた。


だが違う。


呼吸をしていない。


胸が、

上下していなかった。


根源そのものは封印した。


だが、

ルナの身体は既に限界だった。


長時間に渡る根源の侵食。


さらに、

エリスの聖魔力が消えたことで、

体内の魔力均衡が完全に崩れている。


()()()()()()()


体内魔力の急激な枯渇によって、

生命活動そのものが停止しかける症状。


命の灯が、今にも消えようとしていた。


「まだ温かい……!」


体温は残っている。


まだ間に合う。


気合で身体を動かす。


「頼む、俺の身体、今だけは動いてくれっ!」


少しずつ身体の感覚が戻ってくる。


急いで、

超回復薬生成で作っていたポーションを取り出した。


病であれば、

どんな重症でも癒やす。


これなら、

命を繋ぎ止められるはず。


ルナの口へ流し込む。


だが――


ポーションは喉を通らず、

口端から零れ落ちていった。


「そんな……」


呼吸を失った人間は、

上手く嚥下できない。


このままでは飲ませられない。


「託されたものを、守れないのか……」


今回は間に合っているはずなのに――


あの時の後悔の念が沸き上がってくる。


その時。


図書館で読んだ救命本の内容が脳裏をよぎった。


呼吸停止した相手への応急処置。


人工呼吸によって魔力を送り込む。


急性魔力欠乏症への処置方法である。


そして、

嚥下できない患者への投薬方法。


口移しで、

少しずつ薬を流し込む。


加えて、

体温程度まで温めることで、

嚥下反射を起こしやすくする。


「……とはいえ」


一瞬だけ、

躊躇が生まれる。


年頃の少女相手に、

そんなことをしていいのかと。


だが――


助かるなら……

一生恨まれたって構わない

命さえ救えるなら


迷いを振り切った。


ロイは、

ルナの唇へ自分の唇を重ねる。


魔力を送り込む。


そして、

口に含んだポーションを、

少しずつ流し込んでいった。


ゆっくりと。


何度も。


繰り返し。


やがて――


「……っ、はぁ……!」


小さく、

ルナの胸が上下した。


呼吸が戻る。


青白かった顔色にも、

少しずつ血色が戻っていく。


ロイはその場に座り込み、

安堵の息を漏らした。


数時間後。


目を覚ましたルナは、

ぼんやりと天井を見つめたあと、

小さな声で呟いた。


「……ママが、守ってくれたの」


精神世界で起きた出来事を、

覚えているのだろう。


ロイは静かに頷く。


「ああ……。

 ……とても、偉大な人だった」


今回、

自分一人では何もできなかった。


無力さを痛感した。


自分にもっと力があれば、

違う結果があったのかもしれない。


それでも――


大切な存在を守ることができた。


ロイは、

穏やかな寝息を立てるルナを見つめながら、

静かに胸を撫で下ろした。


こうして――

深淵の森を覆っていた長い夜は、終わりを告げるのだった。


――第二章 完――

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