↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
28/144

五大国会議

 根源の問題が去った今。

 俺たちは、新たな問題に直面していた。


「本当に……瘴気が消えたんだな」


 深淵の森の空気は、かつてとは別物になっていた。

 重苦しく淀んでいた瘴気は、もうどこにも存在しない。

 澄んだ風が木々を揺らし、森には静かな生命の気配が満ちている。

 根源を封印したことで、瘴気そのものが完全に消滅したのだ。


 だからこそ危険だった。

 この豊かな土地を、五大国が放っておくはずがない。

 結界の異変についても、恐らく既に各国上層部へ伝わっているだろう。

 今はまだ、不可侵条約という枷によって均衡が保たれている。

 だがそれも時間の問題だ。


「できれば……ルナには、この森で暮らしてほしいんだけどな」


 母との思い出が残る場所。

 ようやく取り戻した居場所。

 だからこそ、何か手を打っておきたかった。


 ルナは、もう聖魔法を使えない。

 母から受け継いでいた聖魔力も、あの戦いで完全に失われた。

 だからといって、魔法そのものが使えなくなったわけではない。

 俺の魔力が、今もルナの中に残っている。


「《火球》~!」


 ぽん、と小さな火球が飛び出す。

 威力こそ弱いが、ちゃんと発動していた。


「おお、成功したな」

「えへへー!」


 まだ身体に完全には馴染んでいないのか、制御には苦労している。

 だがルナは、元々とんでもない魔法センスの持ち主だ。

 そのうち、すぐ自在に扱えるようになるだろう。

 そして、それに関連して、俺には別の悩みも生まれていた。


 《ステータス開示》

 半透明の画面が目の前に浮かぶ。

 改めて見ても、俺の基礎能力値は平均より低い。

 これだけの戦いを経験したというのに、上昇幅は微々たるものだった。


 だが、問題はそこじゃない。

 属性欄。

 元々は、『火、水、風、土』。

 人間が扱える一般的な四大属性だけだった。

 それが現在、『聖・穢・闇』。

 その三文字が、新たに追加されていた。


「……なんだよ、これ」


 フードの商人に、聖魔力を感じると言われた時。

 あの時確認したステータスには、こんな表示はなかった。

 つまり根源と、ルナの母エリス。

 封印した二人の魔力が、俺の中へ取り込まれているということだ。


 さらに、スキル欄にも変化があった。

 封印術の説明文に、新しい一文が追加されている。


『封印したものの魔力を得る』


「……進化したのか?」


 魔法創造で生み出した魔法が、戦いを経て進化したのだ。


「こんなこと、あるのか……」


 闇属性については、恐らく変異ヒドラのものだろう。

 新月の夜になるたび、身体の内側を何かが這い回るような感覚がある。

 封印術の制約。

 精神が闇へ侵されていくような、あの苦痛。

 しかも今回は、根源まで封印した。

 次の新月に何が起きるのか想像もつかない。


「どうなっちまうんだろうな……」


 不安だけが募っていった。


 反対に森での生活自体は順調だった。

 図書館で読んだ建築本を参考にしながら、ルナと一緒に資材を集める。

 木や石を組み合わせて、試行錯誤しながら小さな小屋を建てた。


「うわぁ、お家だー!ルナたちのお家~♪」

「そうだな……感無量だ」


 キャンプ用のテントより少しマシ。

 そんな程度の粗末な掘っ立て小屋。

 それでも、俺たちにとっては大切な帰る場所だった。

 胸の奥が熱くなる。

 前世では、こんな感情を抱ける場所なんてなかった。


「この森を……この場所を守らなきゃな」


 自然と、そんな言葉が漏れていた。


-----------------------------------------------------------


 その頃。

 五大国では、深淵の森についての緊急会議が開かれていた。


「結界に破損が見つかった件は、既に周知されていると思うが」


 口火を切ったのは、獣人国の王だった。


「ああ。こちらでも把握している。

 しかも外側ではなく、内側から壊れていたそうだな」


 竜人国の王が腕を組みながら答える。


「異様な瘴気で、中の様子は確認できなかったらしいぞ」


 魔人国の王も険しい顔を浮かべていた。


「お外に漏れ出して、誰か呪われてないといいのだけれど……」


 不安げに呟いたのは、人魚国の女王だ。


 本来であれば、国家機密級の情報。

 だが今回は完全なイレギュラーだった。

 どの国も、積極的に情報共有を行っている。

 ただ一人を除いて。


「ふん。そんなに気になるなら、兵でも送り込めばいいだろう」


 椅子にふんぞり返り、傲慢に言い放ったのは人間国の王。

 五大国最強の国。

 ゆえに、他国も強く出られない。


「不可侵条約をお忘れですかな」


 獣人国の王が低く言う。


「それに瘴気だ。呪いを外へ出す気か?」


 竜人国の王も睨みつける。

 だが人間国の王は鼻で笑った。


「結界の状況を知りたいのは、どの国も同じだろう?

 なら互いの利益のため、特例を認めるべきじゃないか?」


 正論だった。

 誰も即座には否定できない。


「しかし、呪いについてはどうするおつもりです?」


 今度は魔人国の王が問いかける。

 すると人間国の王は、まるで些事のように言った。


「使い捨てればいいだろう。

 調査団に中の報告だけ送らせて、外へ出る前に始末すれば済む話だ」


 空気が凍りつく。


「囚人でも傷持ちでも使えばいい。恩赦や報酬をちらつかせれば喜んで従うだろ」


 その言葉に、他国の王たちの表情が変わった。


「……貴様、自国民を何だと思っている」


 獣人国の王が怒気を滲ませる。


「そうよ、あまりにも横暴だわ」


 人魚国の女王も声を荒げた。

 民を何より大切にする二国にとって、その考えは到底受け入れられるものではない。

 だが。


「ふーん?」


 人間国の王が口角を吊り上げる。


「なら先に、お前らの国へ攻め込んでもいいんだぞ?」


 脅迫。

 もはや王とは思えない物言い。

 だが、それでも成立してしまう。

 人間国は、それほど圧倒的な軍事力を持っていた。


「……失礼した」


 両国王が、悔しげに矛を収める。

 国民を守るためには、ここで衝突するわけにはいかなかった。


「本当は今すぐ兵を送り込みたいんだがなぁ」


 人間国の王は退屈そうに頬杖をつく。


「準備に時間がかかるのが面倒だぜ」


 その姿に、他国の王たちは苦々しい表情を浮かべるしかなかった。

 平穏を取り戻したはずの深淵の森へ、新たな脅威が、静かに迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。