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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第二章 深淵の森
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侵入者

森の近くへ戻ってきた。


運転手に礼を言い、魔石車を降りる。


周囲に人目がないことを確認してから、二人で結界の中へ戻った。


《変身魔術》を解除する。


魔力がほどけ、見慣れた自分の姿へ戻っていく。

水面に映った顔を、一瞬だけ自分のものだと認識できなかった。


だがすぐに、これが本来の自分だと理解し直す。


制約の影響は軽微。

半日程度なら問題なさそうだった。


「今日は疲れたし、早いところ飯にするか」


住処へ向かって歩き出す。


――その途中だった。


「……っ」


地面に残された痕跡に気づき、足を止める。


自分たちのものではない足跡があった。


「誰かが……この森に入ってる」


油断していた。

結界の異変に気づく者がいてもおかしくない。


不可侵条約がある。

瘴気への恐怖もある。


それらがあったとしても、侵入者が絶対に現れない保証にはならない。


嫌な胸騒ぎがした。


「探そう!」


ルナも緊張した表情で周囲を見回す。


すると突然、ルナが立ち止まった。


目を閉じる。


空気の流れを読むように、ゆっくりと呼吸したあと――


世界樹の方向を指差した。


「あっち……!

 世界樹の方に、知らない魔力がある!」

「急ぐぞ!」


二人は森の奥へ駆け出した。



「何故だ……何故破壊できない!」


世界樹の上で、侵入者は焦燥に歯噛みしていた。


刻まれた魔法陣。

聖魔法による封印。


本来なら、異なる属性の魔力を流し込めば崩せるはずだった。


だが何も起きない。

破壊できない。


それどころか――


「聖の魔力が濃くなっている……?」


完全に消えたはずだった。

森を覆っていた聖の気配。

それが再び強まり始めている。


撤退するべきか。

それとも、このまま強引に突破するか。


逡巡した、その時だった。


気配を感じる。


「……来たか」


封印の破壊に集中しすぎて、接近への反応が遅れた。


ゆっくりと振り返る。


「かくなる上は……」


戦うしかない。



「お前は誰だ!」


世界樹の上空へ向かって叫ぶ。


人影が、枝の上から飛び降りてきた。


地面へ着地したその姿を見て、ロイは目を細める。


額から伸びる黒い角。

人に近い体格。


だが、人ではない。


魔人族。


知性を持つ魔物が、長い年月をかけ進化した種族。

そんな魔人族の男が、目の前に立っていた。


男はロイではなく、ルナを見た瞬間に目を見開いた。


「なぜだ……何故エルフがここにいる」


その言葉に、今度はロイが驚愕する。


「何故エルフを知っている」


忘却魔法によって、存在そのものが歴史から消された種族。

本来、知っている者などいるはずがない。


だが魔人は鼻で笑った。


「オレの一族は代々、魔法耐性を持っていてな」


低い声で語り始める。


「五大国がエルフを滅ぼした戦争でも、

 その力は大いに役立った」


魔法に強い耐性を持つ一族。


エルフたちの聖魔法に対抗できた数少ない存在。

だからこそ、戦争で重用された。


「だが、戦争は忘却魔法で歴史から消された」


受け取るはずだった褒章も消えた。

一族の功績も歴史から消された。


すべて白紙にされた。


「オレたちは忘却魔法にすら耐性があった」


完全には記憶を消されなかったのだ。


だから国へ訴えた。


戦争の事実を。

受け取るべき褒章を。


その結果――


「一族は皆殺しだ」


空気が張り詰める。


「戦争の記憶を持つ危険因子として処刑された」


感情を押し殺した声だった。


「オレだけは逃がされた」


幼かったから。

記憶も曖昧だろうと判断され、見逃された。


だがその後に待っていたのは、放浪と飢えだった。


「そんなオレを保護してくれた人がいた」


一族と縁のあった人物。


そして成人した日、託されていた手紙を受け取った。


そこには真実が書かれていた。


戦争について。

一族を滅ぼした世界への憎悪。


そして――


エルフたちが、世界樹へ呪詛を残していたこと。


「封印を解けば、瘴気は世界へ広がる。

 だからオレは、その宿命を果たしに来た」


静かに告げた。


「……っ」


隣で、ルナが頭を押さえた。

苦しそうに息を乱している。


記憶を取り戻そうとする時と同じ反応だった。


戦争、エルフ、滅亡。


その言葉が、封印された記憶を刺激している。


「ルナ!」


支えようとすると、小さく震えていた。


「お前がどれだけ辛い思いをしたとしても」


ロイは魔人を睨む。


「それを許すわけにはいかない」


気持ちだけは理解できた。


もし、ソルヌのみんなに出会う前だったら。

カトレアに出会う前だったら。

ルナと出会う前だったら。


自分もまた、世界を滅ぼす側へ立っていたかもしれない。


だが今は違う。

人の優しさを知った。

守りたいものができた。


だからこそ――


無関係の命を巻き込むやり方だけは、認められなかった。


「お前たちに邪魔されてたまるか!!!!」


魔人が魔力を解放する。


大火球(ハイフレア)!」


灼熱の火球が放たれた。


ロイは咄嗟にルナを抱き寄せ、回避する。


その前へ一歩踏み出し、ルナを庇うように立った。


そして、目の前の敵を見据え、静かに構えを取る。

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