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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第二章 深淵の森
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デート

外出の日。


《変身魔術》


魔力が身体を包み込み、姿がゆっくりと変わっていく。


鏡代わりの水面に映ったのは、金髪に澄んだ瞳を持つ少年だった。


どこかルナに似ている。


いや――そのまま男にしたような顔立ちだ。


変えたのは首から上だけ。

完全な別人になるほどの変化ではない。


それでも元の自分とはまるで違う。


「うわぁ……わたしのお兄ちゃんみたい……」


ルナが目を輝かせる。


その言葉に、少しだけ胸が引っかかるものがあった。

もしかすると、失われた記憶の欠片なのかもしれない。


続いてルナにも変身魔術をかける。


変えるのは耳だけだ。


長く尖った耳が、人間と同じ丸みを帯びた耳へ変わっていく。


「へんなのー」


ルナはくすぐったそうに耳を触りながら笑った。


その姿は年相応の少女そのものだった。


今日は、以前買ったマリンワンピースを着ている。

白を基調とした清楚な服に、淡い青のスカーフ。

揺れる金髪ともよく似合っていた。


水面に映る自分の姿を見ては、くるりと回って嬉しそうにしている。


「……ねぇ」


もじもじしながら、こちらを見上げてきた。


「お兄ちゃんって呼んでもいい?」


お兄ちゃん。

自分には縁のなかった言葉だ。


生前も、今も。


兄弟というものに、どこか憧れていた。


親とは違う、近くて温かい家族。


そんな存在を見てきたからこそ、胸の奥が熱くなる。


「もちろん、いいよ」


断る理由なんてなかった。


「お兄ちゃんも、ルナのことルナって呼んで」


そういえば、今まで名前を呼ぶ時はどこか遠慮していた気がする。


「わかったよ……ルナ」


呼び捨ては少し照れ臭い。


そういえばカトレアの時は、いつの間にか自然に呼んでいたっけ。


「むー、お兄ちゃん今、他の女の人のこと考えた」


女の勘は恐ろしい。


ルナは頬を膨らませながらも、すぐに笑った。


「でも、お兄ちゃんも服似合ってるよ!」


あの後、自分用の服も買っていた。


以前とは別の姿で店を訪れたせいで、途中うっかり「あの時は」と口にしてしまい焦ったが、なんとか誤魔化せた。


店員に勧められつつ、自分でも選んだ結果――


黒を基調とした軽装に、白い上着を羽織った動きやすい服装になった。

ローブ姿よりも年相応に見える。


「ありがとう」


そんな何気ないやり取りが、妙に嬉しかった。


生前には無かった時間。

失ったはずの温かさ。


「それじゃあ行こう、外へ」


二人は結界を抜け、深淵の森の外へ踏み出した。



深淵の森の外へ出た直後――


「……聖の魔力が消えた」


闇の中で、何者かが呟いた。


待っていたと言わんばかりに、深淵の森へ向かう。


「ついに……ついに……」


結界の揺らぎを抜け、その存在は森の内部へ侵入した。


「これで……この世界は終わりだ……」


不気味な笑みを浮かべながら、ある場所へ向かっていく。




「お兄ちゃんとデートー♪ お兄ちゃんとデートー♪」


ルナは上機嫌で歌いながら歩いている。


「……あの子かわいい」

「お人形さんみたい……」

「本当だ、妹に欲しい……」


道行く人々が思わず振り返っていた。


ルナの容姿は、それほど目を引く。


エルフという種族補正を抜きにしても、整いすぎているのだ。


「見て見て、隣のお兄さんもかっこいい……!」

「わたしと結婚してー!」


今度は自分に黄色い声が飛んでくる。


もちろん、本当の姿ではない。

そう思うと少し複雑だった。


「お兄ちゃんはルナのなの!」


ルナがぎゅっと腕に抱きついてくる。


「あらあら、仲良しの兄妹ねぇ」


主婦や老夫婦が微笑ましそうに見守っていた。


視線は集めている。


だが、魔力に違和感を覚えている者はいないようだった。

魔力隠蔽の指輪も、変身魔術も問題なく機能している。


「うわぁ、早い~!」


旅客用の大型魔石車。


窓の外を流れる景色を見ながら、ルナが目を輝かせている。


「本当だな……」


実は自分もかなり興奮していた。

魔石車に乗るのは初めてなのだ。


外の景色もそうだが、それ以上に内部構造が興味深い。


「魔法制御すごいな……」


刻まれた魔法陣。

魔石の出力調整。

技術の結晶だった。


運転手の魔法制御の精度も凄い。


違う方向性で目を惹かれていた。


目的地へ到着すると、次は腹ごしらえだ。


「うわぁ、お肉おいしい!!!」


ルナが幸せそうに頬張る。


口元にはソースがべったりついていた。


「こらこら、はしたないぞ」


布で口元を拭ってやる。


「えへへ、ありがとう」


傍から見れば、本当の兄妹にしか見えないだろう。


「これも食べるか?」


自分の皿の料理を差し出すと、


「あーん!」


当然のように口を開けてきた。


「……はいはい」


苦笑しながら食べさせる。


「これも美味しい!!!」


心から幸せそうに笑う。


その顔を見ているだけで、こちらまで満たされていく気がした。


次に訪れたのは図書館だった。


知識を得るためだ。


「うわぁ、本がいっぱい!」


ルナは並んだ本棚に釘付けになっている。


やがて恋愛小説の棚を見つけると、目を輝かせながら読み始めた。


「俺も色々読むか……」


中級魔導書。

戦術書。

建築関連。


そして――


「救命医療本」


ヒーラー向けだけではなく、ヒールが使えない者向けの応急処置まで書かれている。


超回復薬生成の制約で、一週間ヒールが使えなくなる。


ヴァントでの戦いでは、それが大きな弱点になった。

万が一に備える必要がある。


俺はその本を手に取った。



それからしばらく時間が経ち。


「そろそろ帰るか」


ルナに声をかける。


すると――


「うぅ……ヒロインの子、不憫すぎるよぉ……」


顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。

感受性が豊かなものだと感心した。


「今日は楽しかったか?」


答えはわかっていた。

それでも聞いてみたくなった。


「もちろん!」


満面の笑みが返ってくる。


帰りの魔石車。


ルナは遊び疲れたのか、いつの間にか眠っていた。

俺の膝を枕にして、小さな寝息を立てている。


金色の髪をそっと撫でる。


安心しきった寝顔だった。


こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに。


そんなことを思いながら、目的地へ着くまで静かに寝顔を眺めていた。



その頃。


深淵の森では――


「見つけたぞ……エルフが遺した魔法陣を……!」


ロイが気づかなかった場所。


世界樹の遥か上部。


瘴気に紛れるように刻まれた巨大な魔法陣。


「この封印を解けば……世界に瘴気が解き放たれる!!!」


狂気じみた笑い声が、静かな森に響いた。

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