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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第二章 深淵の森
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贈り物

外へ出る前に、いくつか準備が必要だった。


まずは《変身魔術》の制約について。


半日ほどの外出に耐えられるのか、

実際に試しておく必要がある。


最初は数分だけ。


問題がないことを確認して、次は三十分。


少しずつ時間を延ばしながら、精神への影響を確かめていった。


変身を解いた直後は、違和感が残る。


背丈の変化による視界の不安定感。

自分の声ではない錯覚。


まるで他人の身体を無理やり借りていたような、

気味の悪さが数秒だけ続く。


だが、半日程度なら問題は無さそうだった。


これなら外にも出られる。


もう一つは物資の調達だ。


衣服、工具、生活用品。

特に服は必要だった。


変身魔術では姿は変えられても、服装までは変化しない。


俺のローブ姿は問題ない。

冒険者としては一般的だ。


だが、ルナの修道服に似た衣装は目立ちすぎる。


外へ出れば確実に視線を集めるだろう。


だからまずは服屋へ向かった。


……本当は下見だけのつもりだった。


「娘への誕生日プレゼントを探している」


そういう体で店に入った。


「あの……すいません」


声をかけるだけで緊張する。


生前、仕事を探して店に入った時、暴力で追い出された記憶が蘇る。


「はい、いらっしゃいませ!」


返ってきたのは、明るすぎるくらいの笑顔だった。


ぐいぐい距離を詰めてくる。

対人恐怖以前に、単純に押しが強い。


「娘へのプレゼントを……」


何とか言葉を紡ぎ出して、店員に伝えることができた。


「娘さんへの贈り物ですか?

 でしたら年頃や雰囲気を教えていただけますか?」


「あ、ああ……」


少し考える。


ルナのことを説明するのは、なんだか妙に気恥ずかしい。


「その……清楚というか、大人しい感じで、

 でも笑うと年相応で……可愛いものは好きだと思う」


言っているうちに、何故か自分の方が恥ずかしくなってきた。


店員はふむふむと頷きながら話を聞いている。


「なるほど、でしたら――」


案内されたのは、白を基調としたワンピースだった。

セーラー襟の入った、どこか海を思わせるデザイン。


「こちらは人魚の国発祥のマリンワンピースです。

 元々は人魚国の女性兵士の制服を元にした衣装なんですよ。

 それを普段着用に可愛らしくアレンジしたものになります」


なるほど。


だから上品さの中に、どこか凛とした雰囲気があるのか。


「最近は若い女の子の間で大流行してるんです。

 当店一番の人気商品ですね」


……確かに似合いそうだった。


白を基調にした清楚感。

可愛らしさと美しさを兼ね備えている。


ルナの雰囲気にも合っている。


気付けば、着ている姿を自然と想像していた。


「娘さんに絶対似合いますよ!」


店員が自信満々に言う。


「なるほど……」


……確かに似合いそうだ。


「お気に召しませんでしたか?」


店員が不安そうな顔をする。


慌てて、娘に選ばせるつもりだったと説明すると、


「いけません!」


勢いよく否定された。


「プレゼントはサプライズが一番なんです!」


圧が強い。


だが女心などわからない俺は、結局その勢いに押し切られた。


服屋とは恐ろしい場所だ。

別の意味で再認識した。



森へ戻ると、ルナに服を渡した。


「っ……かわいい!」


目を輝かせながら服を抱きしめる。


「ねぇ、着てもいい……?」

「もちろん」


そう答えた瞬間、ルナはぱたぱたと走っていった。


その姿を見て、自然と笑みが零れる。


出会った頃のルナは、感情を押し殺したような話し方だった。


だが今は違う。


年相応に笑って、驚いて、喜ぶ。


それがどうしようもなく嬉しかった。


「お待たせ!」


振り返ると、そこには別人のようなルナが立っていた。


白を基調としたワンピースが、彼女の透明感を際立たせている。

ベレー帽まで嬉しそうに触っていた。


「どうかな?」


くるりと一回転する。


「……すごく似合ってる」


素直にそう思った。


「ほんと!?」


ぱっと花が咲くように笑う。


その笑顔を見て、買って良かったと心から思えた。


魔力隠蔽の魔道具も購入できた。

指輪型のアーティファクトだ。


年頃の少女が持っていても、違和感がないものを選んだつもりだ。


ルナが装着した瞬間、周囲に満ちていた聖の魔力が嘘のように消えた。


「すごい……全然わからなくなった」


これなら外へ出ても問題ないだろう。


「ありがとう!」


ルナは嬉しそうに、左手の薬指にはめた指輪を見つめた。


「その……不束者ですが、よろしくお願いします」

「え?」


意味がわからず固まる。


だがルナ本人は満足そうだった。


……まあ、喜んでいるならいいか。



その頃。


深淵の森の外では――


結界の揺らぎを感知した何者かが、森をじっと見つめていた。


徐に結界の中に立ち入る。


「……聖の魔力か」


微かに漂う聖の気配に気づき、眉をひそめる。


「まだ、時期ではないな」


森の様子を観察しつつ、結界の外へと退いた。


だが、確実に弱まっていく気配は感じ取れる。


低くつぶやく声は、闇に溶けて消えていった。


その存在は、森の奥深くを見つめたまま――


静かに姿を消した。

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