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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十三章 黒幕
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立ち直り

 海妖女の歌声の制約で儀式が不発に終わる。

 これでもう選択肢は一つしかなかった。


「聖の魔力を分け与えるのは、発動とは関係ない。

 今のお主でも問題なかろう。

 だが、小娘をどうにかせねばならん」


 視線の先には虚ろな表情のプリムさん。

 本当にこのままどうにもならないのか。

 俺の持つ魔法の中で可能性がありそうなものは――


「使えそうなのは海妖女の歌声しかないか……」


 込める魔力の種類や量で効果が変わる未知数な魔法。

 これに賭けるしかないだろう。

 だが、使用した魔力が使えなくなる制約がある。

 下手に使えば命取りになりかねない。


「その魔法、聖の魔力を込めた時は何が起きたのじゃ?」

「癒しの効果でしたね。

 気持ちを落ち着かせて、信者の洗脳を解きました」


 先々代姫巫女は首を傾げて考えている。

 最初は同じ方法を検討していた。

 だが、制約で聖の魔力が使えなくなっている。

 俺の中で選択肢から外していた。


「その魔法を使えばいいのではないか」

「でも制約が……」

「本当に海妖女の歌声でも聖の魔力が使えなくなっているのか?

 他の魔法はともかく、海妖女の歌声でも使えなくなっているとは思えんのだがな」


 言われてみれば試したわけでもないのに決めつけていた。

 確かに先々代姫巫女の言うことも一理ある。

 試してみる価値はある。


「とはいえ、あの小娘は相当重症じゃ。

 先ほどの話だと海妖女の歌声でもちと足りぬ気がする。

 何か一つ後押しするものはないかの?」

「何か一つ……」


 俺はプリムさんのことを深く知らなかった。

 あくまでアンジェさんの妹であり、盲巫女の孫ということくらいだ。

 盲巫女のことをかなり慕っていたようで、この危険な場所まで来ていたのも盲巫女を心配してのことだった。


「そうか、その手があるか」

「何か思いついたみたいじゃの」


 この方法はかなり危険な賭けになる。

 海妖女の歌声のもう一つの制約に、生物学的に女である必要がある。

 先ほど信者たちを鎮めるのに使った時は変身魔術で女へと姿を変えた。

 だが、その変身魔術にも制約はある。

 特に実在の人物に変身した時はかなり重い制約がかかる。

 一歩間違えればロイという自身の人格が消滅しかねない。

 でももうそれしか方法はなかった。


「先々代姫巫女に頼みがある」

「何じゃ?」


 俺は先々代姫巫女に耳打ちする。

 先々代姫巫女は一瞬驚いたが、頷いてくれた。

 万が一の保険。

 これで一歩踏み出せる。


「《変身魔術》」


 俺は自身の姿を変化させる。

 その姿は――盲巫女。


「おお、すごい魔法じゃな。

 盲巫女にしか見えぬ」


 先々代姫巫女が感心している。

 本人と言っても差し支えないくらいにはなっていた。


「《海妖女(セイレーン)の歌声》!」


 聖の魔力を込めて歌う。

 先ほどより魔力を多く込めて。

 この密室空間では音は反響する。

 それだけ多くプリムさんに集まる。


「うわあああああああ」


 プリムさんが頭を抱えて悲鳴を上げる。

 悲しみから身を守るため閉ざした心が開かれていく。

 その過程で感情が押し寄せてくるのだろう。

 正直酷なことをしたと思う。

 このまま何も考えられない方が幸せなのかもしれない。


「ごめんよプリム。

 勝手に置いていなくなってしまって。

 だけど余ももうよい歳だ。

 ちょっとお迎えが早く来てしまっただけだと思って欲しい」


 口から自然と言葉が出ていた。

 俺の意志ではない。

 盲巫女の人格が侵食している。

 だが、まだ解除はできない。

 プリムさんが正気に戻るまでは続けなければならない。


「アンジェが家を出たのを機に盲巫女は余の代で終わらせるつもりだったのだ。

 盲巫女について何も教えてこなかったのは悪いと思っている。

 プリムには普通に生きて、普通に幸せになって欲しかった。

 わかってくれ」


 これも俺の意志ではない。

 あまりにもデリカシーの無い発言に呆れてしまう。

 先々代姫巫女も怪訝な顔をしている。

 プリムさんがどんな思いでいたのか、まるで考えていない。

 盲巫女のエゴしかなかった。


「どうして……どうしてそんなこと言うの!

 私の人生なんだから、生き方は私に決めさせてよ!

 それにお母さまのことだって……」


 顔を真っ赤にしてプリムさんが反論する。

 目に見えて怒っていた。

 心の傷は完全には癒えてはいないだろう。

 それでもプリムさんの瞳には光が宿っていた。


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 その頃、手前の部屋では。


 どういう訳かルナちゃんたちは、私たちを敵だと思い込んでしまっている。

 おそらくは認識改変魔法のせいだろう。

 私たちを認識できないようにしているのだ。

 うまく聞き取れなかったが、ルナちゃんが何かを呼び掛けたのには気づいた。


「ルナちゃんたちは気づいてくれるかな?」


 私はあえて自身の癖を露骨に見せるような形で立ち回った。

 従来の戦闘では決してしてはいけない行動の一つ。

 だけど、これで気づいてくれたらという淡い期待を抱いていた。


「アーティちゃんが首を傾げてるね」


 レウィシアさんがアーティちゃんの仕草に気づいた。

 これならまだ望みがある。

 気づけば認識改変も解けるはずだ。

 だが、期待も虚しく、再び構えられてしまった。


「カトレアちゃん、ダメみたいね……」

「うん、そうだね」


 こうなったら三人を無力化させるしかない。

 傷をつけないように、気絶を狙う。

 心は痛いが、お互いに共倒れになるよりかは幾分かましだ。


「レウィシアさん頼みがある」

「シアって呼んでくれたら考えるかも」


 あまりレウィシアさんと二人になる機会がなかった。

 そのため、距離のある接し方になっていた。

 それをレウィシアさんは気にしていたのか。

 だけどこれは良いきっかけだった。


「シア!頼みがある」

「わかったよ、カトレアちゃん」


 シアに作戦を伝える。

 私は短剣を置き、手刀に切り替える。


「《身体強化》!」


 シアが動いたのを確認した。

 私は呼吸を整え、構えを取るのだった。

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