失念していた制約
先々代姫巫女の発言に困惑させられる。
プリムさんを抱くか、俺が盲巫女になるか。
簡単に決められる問題ではない。
そして前者は俺だけの意志で決められるものでもなかった。
「答えに窮するのは勝手じゃが、この空間もあまり長くもたぬ。
せいぜい後十分といったところかの」
あまり時間は残されていなかった。
より一層焦りが募っていく。
「そう言えば俺は、盲巫女の儀式のやり方なんて知らないぞ
プリムさんもおそらくは聞かされていないだろうし」
詳細を盲巫女から聞く前に戦死してしまった。
先々代姫巫女は知っているのだろうか。
「それなら心配には及ばぬ。
盲巫女が死に際に魔法陣を残しておる。
それが盲巫女の儀式となる《フェイト・オーグメント》じゃ。
そこに聖の魔力を注げば発動する」
「盲巫女様はそこまで考えて……」
俺が来ることを想定して残していたのだろうか。
なおのこと退路が塞がれていく。
「おい小娘。
いつまでぼさっとしとるつもりじゃ。
お主は何がしたいのだ」
虚ろな目をして立ち尽くすプリムさんに声をかける。
だが、やはり何も反応しない。
「ダメじゃな、急激な精神的ショックで心を閉ざしてしまっておる」
もはや何を考えて、何を見ているか、それすらもわからない。
俺にはどうしていいかわからなかった。
「ええい、まどろっこしい!
こうなったら強硬手段しかあるまい」
「えっ……?」
先々代姫巫女が俺の身体を押し出す。
体勢を崩した俺はプリムさんの上に跨るように倒れ込む。
俺がプリムさんを押し倒すような形になる。
「……」
プリムさんはそれでも何も反応しない。
このまま彼女を抱こうとしても、抵抗もないだろう。
「無理だ!俺にはできない……。
こんな状況の彼女を抱いたら、一生後悔する」
一人の人間をこの手で完全に壊してしまうことになるだろう。
二度と元には戻らない、そんな気がした。
「まあ、そうじゃな。
あの調子じゃ、例え聖の魔力を受け取って盲巫女になったとして、戦えはせんじゃろ。
もはやあやつの心は壊れてしまっておるからの」
先々代姫巫女も諦めた表情をしていた。
もう俺が盲巫女になるしかない。
魔法陣に魔力を流そうとした。
「あれ?おかしいな、発動しない……」
魔法陣に聖の魔力を流そうとしているが、一向に発動しなかった。
「何かわかるか?」
「いや、わからん。
お主の魔力量なら発動しないはずがないんじゃが……」
原因について心当たりを探す。
その時、ある一つの事実を思い出す。
「あ……海妖女の歌声」
海妖女の歌声の制約に、丸一日その魔力が使えなくなるというものがある。
そして俺が発動するのに使用したのが聖の魔力だった。
俺の顔はみるみると青ざめる。
「無理だ……俺は盲巫女になれない」
俺が盲巫女になるという選択肢が完全に消失した。
このまま打つ手なく終わるのか、何か他に策が残されているのだろうか。
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その頃地上では。
「陛下!陛下に言われた通り、兵士全員を集めました」
「ご苦労だった」
師匠を見つけること。
それが師匠に挑まれた勝負だった。
一度全兵士を集めて、一人ひとり確認させている。
一人ひとりを確認する臣下は、事前に本人であることを確認している。
「全員名簿の通りです。
一人たりともおかしな言動をしている者はいませんでした」
「そうか、わかった」
やはり師匠は完全に成り代わっている。
正攻法ではボロは出さないだろうと思っていた。
「さて、どう動くべきか」
総当たりで確認するには時間も魔力も足りない。
兵士百数十人に対して、確認できるのは多くても二十人といったところだ。
「実力を見るか、いやそれは無駄だ。
かといって全員に話しかけることもできないし」
師匠は認識改変魔法は確実に使っているとみている。
だから、実力や知識、声色などは問題ないものとして認識させられてしまう。
その中の小さな綻びを探し出すしかなかった。
「負傷者を一か所に集めて治療をしろ。
そしてレウィシア殿が残したメモと負傷した部位を照合し、怪しいものがいれば報告してくれ!」
「ははっ!」
一度負傷者と衛生兵を隔離する。
おそらく負傷者と成り代わっている可能性は低い。
認識改変だけでなく、自己暗示、それに行動の制限。
負傷者のトレースには手間が多い。
怠惰な師匠は手間がかかる選択肢を嫌う。
それに衛生兵は治療を行う都合上、粗が見つかりやすい。
それを都度認識改変で誤魔化すのも手間なはずだ。
「次!無事なものは撤収作業を開始しろ!」
「はっ!」
とにかく手持無沙汰にはならないようにさせる。
師匠は肉体労働を嫌う。
サボっている奴を見つけたら報告するように隊長には伝えている。
隊長は当人であることを確認済だ。
常に働いているように見せる認識改変は費用対効果が悪すぎる。
師匠の性格から最小限の認識改変で、最大限の効果を生むのを好むはず。
裏をかいて敢えて手間を取る可能性はあるが、その時の師匠は粗を出しやすい
「後はこの目で確認して回るか」
要所に布石を打っておく。
それが、この勝負の行く末を握る鍵となる。
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地下のルナたち。
エルフの像を倒して、一息ついているところだった。
「ある程度魔力が回復したら、先に進まないとね。
プリムちゃんのことが心配だし、お兄ちゃんたちも」
「そうデスネ、心配デス」
「しんぱーい」
ルナは魔力ポーションを飲む。
リンちゃんにも分けてあげた。
美味しそうに飲む。
「おいしいね」
「そうだね、果物の味がするみたい」
リンちゃんにも飲みやすいように果物の味のポーションを持ってきた。
正規品より効果は落ちるものの、味が良い方が優先だった。
ポーションを飲み終わると、魔力が十分なほどに回復した。
「じゃあそろそろ行こうか」
休憩も終わり、先へ進もうと歩き出したその時。
反対の道から何者かが近づいて来る気配がした。
「リンちゃん!アーティちゃん!誰か来るよ」
「本当デス、気配がしマス」
「音がするね」
向こうの道からは二人の人物が現れた。
誰かに似ているような気がするが、何故か認識できない。
敵か味方かそれすらわからなかった。
「あなたたちは誰?敵なの?味方なの?」
話しかけるが反応はない。
こちらの声が届いていないようだった。
ゆっくりと近づいてくる。
そして短剣を持った手が持ち上がった。
「反撃しなきゃ!リンちゃんお願いできる?」
「うん、大丈夫だよママ」
ルナとリンちゃんで魔法を詠唱する。
「《大火球》!」
「《大水球》!」
二人の魔法が二人の人物に向かって放たれる。
すると、短剣を持った方がフォローする動きを見せた。
攻撃はかわされる。
「速いね……」
「当たらなかったよ~」
「あの動きどこかで見たような気がするデス……」
正体不明の二人組と対峙することになってしまった。
果たしてこの二人組は何者なのだろうか。




