盲巫女の闇
絶望的な力の差に膝をついて動けなくなっていた。
プリムさんも放心状態で立ちつくしている。
「おやおや、覇気がなくなったね。
まあこの力の前じゃしょうがないか」
反論ができなかった。
間違いなくやられる。
どうにか突破口を探そうとはするものの、何も思い浮かばない。
蛇に睨まれた蛙状態である。
「まあせっかくだし、冥途の土産に昔話をしてやろう。
盲巫女の闇について」
気を良くしたのか、黒幕は語り始めた。
少しは時間が稼げる。
それに話の中から糸口が見つかるかもしれない。
「盲巫女の闇……?何のことだ?」
黒幕の気が変わらないように、興味を示す。
その反応に満足げだった。
「先代の盲巫女は二人いた。
そのことは知っているか?」
「盲巫女が二人?そんなことがあり得るのか?」
「私も初めて聞きました」
盲巫女になる条件は聖の魔力を持っていること。
血筋や性別は関係ないこと。
そう、現代の盲巫女からは聞いていた。
「私は傍系の先代の盲巫女の娘であり、そこでくたばっている盲巫女は、直系の盲巫女の息子。
つまり奴とは腹違いの姉弟にあたる存在だったのさ」
「息子!?盲巫女――おばあ様が男……?」
プリムさんは愕然とした表情を見せた。
その事実を知らされていなかったようだ。
盲巫女様が元男であることを。
「私は生まれつき聖の魔力を持っていなくてな。
盲巫女の資格がなかった。
だからこそ、盲巫女となった弟のあの体たらくが許せなかった」
「……」
何も言い返せなかった。
俺も生まれつき魔法の適性がなかった。
選ばれなかった存在だったからだ。
選ばれし者への羨望や嫉妬心については理解できる。
「ここからが本題だが、盲巫女の闇。
代々受け継がれし禁術について話してやろう」
「禁術……」
「そんな……禁術が受け継がれているなんて聞いたこと……」
プリムさんは盲巫女が自分に何も教えてくれなかったことに対して、悲しんでいるようだった。
知らなくても良いこと、知るべきではないこと、そのどちらかの可能性が高い。
それでも、伝えられていなかったことには少なからずショックを受けているようだった。
「一つ目の禁術 《リィンカーネーション》。
死者の肉体の一部を媒体とし、朽ちた器を修復する。
そして修復した器に自身の魂を転生させる魔法。
私がアンジェの姿をしているのもこの禁術の力よ」
「そんな死者への冒涜が許されるはずが……」
「やはり禁術の力だったか……」
アンジェさんの亡骸は埋葬時に火葬したはず。
どこから身体の一部を手に入れたかわからないが、ここまで精巧に復元できるなんて、禁術以外考えられない。
「そして二つ目の禁術 《リザレクション》。
死者を蘇らせる、いや……正しくは器から抜けてしまった魂を元に戻す魔法。
器が無事な場合だけだがな。
例えば、あそこの盲巫女に使ったところですぐに魂が弾き出されてしまう」
「そんな……」
「心臓が貫かれているからか……」
おそらく、本来の使い方は魂の移し替え。
これも厄介な魔法であることには変わりなかった。
「そして最後の禁術 《フェイト・オーグメント》。
人に強制的にスキルを付与する。
これについては未完成とされている。
盲巫女になる儀式はこの魔法の簡易版といったところか」
「スキルの付与までできるのか……」
規模が違う。
もはや人智を超えた神の領域。
そう言わざるを得ない魔法の数々だった。
「この魔法の最終目標は、元祖であるエルフの男と女の復活。
そのために、人から魔力を吸い上げ続けなければならない。
だからこそ、魔力を蓄えるために代々修道院を開いて信者を集めていたのだ。
だが、そこの盲巫女は信者に一切手をつけず、結果としてほとんど力が残されていない状態だった」
「そんな使命があったなんて……」
もはや情報量の多さに、ついていくので精一杯になる。
プリムさんも同じ反応だった。
「まあそうなってしまった原因は、奴の娘、そこの孫娘の母親を失ったのが原因だがな」
「お母さまは病で亡くなったはずじゃ!?」
「それは嘘だ。
盲巫女の力のための犠牲になったのだ」
「そんな……そんなことが……」
プリムさんは頭を抱えてうずくまってしまった。
もはや立ち上がる力も残されていないようだった。
俺もかける言葉が見つからなかった。
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その頃地上では。
人間国国王と彼の師匠が対峙していた。
「殺し合いをするつもりはないぞ。
国王を殺したなんてなったら、なおさら肩身が狭くなる。
このまま逃走させてもらうよ」
「そうはさせません」
確かに師匠からは殺意が感じられない。
だが、うまく隠しているだけだ。
油断すれば食われてしまうだろう。
私は剣を振りかざして戦う。
「うーん、ダメだね。
そんなんじゃ全然わしを捉えられないぞ」
「やってみないとわかりませんよ」
師匠は幻術も使わず、体術だけで剣をいなしてくる。
純粋な戦闘能力にも差をつけられている。
息が上がってきてしまった。
明らかに体力不足を露呈してしまっている。
「座り仕事ばかりで鍛錬を疎かにしているな。
あの頃の方がまだ戦えていたのではないか?」
「そうかもしれませんね」
図星だった。
内戦あたりから鍛錬を疎かにしている認識はあった。
それを実感するような実力の差だった。
「うーん、それじゃあ可愛い弟子にチャンスをあげようじゃないか。
わしが兵士の一人に化けるから、それを見つけてくれれば良い。
時間は日が沈むまで。
それまでに見つければ、素直に処罰を受けよう。
だが、見つけられなければ、そのまま無罪放免としてもらおうか」
国王としての面子のためにも見つけなければならない。
「わかった、その勝負飲もう」
「陛下!良いのですか?」
臣下が心配するが、受けるしかなかった。
このまま受けなければ何が起こるか未知数だった。
「そうこなきゃな、では《変化》!」
師匠の姿が消える。
兵士の集団に紛れ込んだようだ。
国王として負けられない戦いが今始まった。




