師弟
目の前にはアンジェさんの姿をした黒幕。
そして傍らには盲巫女の亡骸。
状況は最悪だった。
「どうして……どうして盲巫女様を殺めた!」
プリムさんが怒気をはらむ声で投げかける。
「どうしてって言われてもな。
というかお前は確か、盲巫女の孫か」
飄々とした態度で答える。
プリムさんのことを知っている口ぶりだった。
「それがどうしたというのですか!」
はぐらかされてプリムさんが声を荒げる。
俺はその迫力に圧倒されていた。
「気にする必要はないよ。
すぐに盲巫女のところに送ってやるからな」
嘲り笑うと、黒幕は手の平に魔力の球を作り出す。
これは阿修羅像と同じ禍々しい魔力。
「その力は一体何なんだ!」
「ほう、なかなかお目が高いね。
この力は忌の魔力といって、深淵の森を漂っていた魔力を進化させたものとでも言えばよいかな?」
その言葉に愕然とした。
この人物は穢の魔力のことを知っている。
そしてそれを自由に扱うことができる。
ただでさえ、苦戦を強いられた力。
その上を行く力はもはや未知のものだった。
全身が総毛立つようだった。
「忌の魔力だと……」
この人物は危険だ。
死者を蘇らせるような世界の理に反する力。
そして盲巫女を屠るほどの強さ。
「おやおや、このくらいで驚かれちゃ困るよ」
黒幕はもう片方の手の平に魔力の球を作り出した。
この魔力には見覚えがある。
プリムさんも目を見開く。
そう、この力は。
「そんな……聖の魔力まで」
規格外だった。
俺の想像を遥かに超える存在。
その力に圧倒され、膝をついてしまった。
「こんな相手にどうやって勝てばいい……」
弱気な声をぽつりと漏らす。
それくらいに絶望的な状況だった。
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その頃地上では。
「陛下!修道院一帯をすべて探したのですが見つかりません!」
「そうか、ご苦労だった」
遠くへ逃げているとは考えにくい。
何故ならば幻術使いの素性は掴んでいるからだ。
魔人国に送り込んでいる間者により情報を得ている。
「何か手がかりはないのか……」
おそらく認識改変で見つからないように潜伏している。
どこか違和感に気づけない限り、見つけることはまずできない。
「陛下!怪しそうなところについていくつかまとめております」
小さな違和感でも見つければ、報告するよう指示を出している。
おそらく大半が気のせいや勘違いだろう。
それでも、その繰り返しこそが肝要なのだ。
「よし、一つずつ当たっていくぞ」
「はっ!」
部下の案内を受けて、一か所ずつ回る。
壁の染みから、石像の配置まで確認する。
大体が徒労に終わった。
だが、一か所だけ具体的な記載がある場所があった。
「このエルフの像か」
修道院で祀られているエルフの像。
私が見る限り、違和感はない。
どこからどう見ても普通だった。
「だが、部下の報告だと」
このエルフの像は誰かを監視している。
石像ではない異質な物体。
正直意味がわからなかった。
精神に異常を抱えているのではないかとさえ思う。
だからこそ、この報告の信憑性は高い。
「《解》!」
認識改変の解除を試みる。
空間が捻じ曲がった、次の瞬間。
「よく見つけたな、さすがは我が弟子」
エルフの像は魔人の姿へと変貌する。
九つの尾をもつ、狐の魔人。
「お久しぶりです、師匠」
私の幻術の師匠であり、魔人族の元四天王の一人。
九尾の妖狐ハオルシア様。
「殿下も大きくなったなあ。
いや、今は陛下と呼んだ方が良いか」
「いえ、呼びやすい方で結構です」
会うのは十年ぶりくらいだろうか。
当時とまったく変わらない姿。
そして、相変わらずの幻術の精度だった。
「どうしてあなたはこんなことを」
「生きるためだよ」
間者からある程度の情勢は聞いていた。
魔人国国王の求心力の低下で、四天王が離散したこと。
後ろ盾を失った国政はボロボロであること。
「幻術使えば、飯はタダで食えるし、魔力も吸えるけどね。
その分消耗するから、かけた手間に見合わないんだよね。
だから稼ぐために、雇われて仕事をしたまでさ」
師匠は野心がない。
今回も仕事以上の意味はないだろう。
「人間国に来ていただければ、宿や食事くらい。
それにお力添え頂けるのであれば仕事も」
「それはできないんだよね。
わしらは魔人国のお尋ね者だからさ。
それを匿ったとなれば、他国からの印象を悪くするよ」
私たちのことを考えてくれていた。
最低限迷惑はかけられないということだろうか。
しかし、違う形で迷惑を被っているわけだが。
「結局、人間国に迷惑をかけてるんですがね」
「見つかるとは思ってなかったからね。
腕を上げたよ」
師匠は笑って私の頭を撫でる。
この懐かしい気持ちに心が動きそうになる。
だが、今は国王として毅然とした態度で臨まなければならない。
「ですが、人間国に被害を与えたこと。
それに尊い国民の命を危険に晒したこと。
国王としてあなたを許すことはできません」
「おおいいね。
前の国王より、ちゃんと国王してんじゃん。
とはいえ、わしもそう簡単に捕まるわけにはいかないのだよ」
師匠の目つきが変わった。
表情から笑みが消える。
戦いは避けられそうになかった。
「師匠!お覚悟を」




