黒幕
ロイくんと分断された私たち。
これからどう動こうか決めかねていた。
「ダメだ、岩が大きすぎて埒があかない……」
カトレアちゃんが短剣で岩を砕いているが、道を開けるには時間がかかりそうだった。
「私たちこういうの苦手だからね……」
俊敏性を生かして致命的な一撃を与えるタイプのカトレアちゃん。
そしてヒーラーで攻撃は魔力のメスを使う私。
どちらも巨大な岩を破壊するのには不得手だった。
「一度引き返して、もう片方の道から進むか。
それとも地上に出て応援を呼ぶか」
「後者が安全ではあるけど……」
もう片方にも阿修羅像のようなものがいたら私たちでは太刀打ちできない。
あえてこちらの道だけに罠を仕掛けているとは考えにくかった。
とはいえ応援を呼んで戻ってきて、岩を破壊するまで考えれば時間がかかりすぎる。
ロイくんの身に何かあった時のことを考えると良い選択ではない。
「とにかく分かれ道まで引き返そう」
「そうだね」
誰かが様子を見に降りてきている可能性もある。
無理にここに留まっておく必要もない。
ひとまず動くことにした。
暗がりを進むことになるかと思っていたが。
「《火球》」
カトレアちゃんが指先に小さな火球を出す。
行きにロイくんがやっていたことだった。
「カトレアちゃんいつの間に魔法が!?」
「私の中の魔力をロイに弄られたらできるようになった。
でもこのくらいしか出せないから、戦闘は使えないけどね」
前に羞恥の表情でロイくんの元から走り去ったのを見たことを思い出した。
いつの間にか彼は人の魔力を弄ることができるようになっていたのだ。
少しモヤっとしたが心の中に留めておく。
「私も、もっと魔法を使えるようになりたいな」
そんなことを考えながら引き返していたその時。
魔力が炸裂したような音がした。
「何だこの音は……」
「私も聞こえた!」
隣の空間で大きな音がした。
振動も感じる。
おそらく隣の道を進んだ先で誰かが戦っている。
「私たちも合流しよう」
「それがいいと思う」
私たちの方針は決まった。
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エルフの像と対峙しているルナたち。
立てた作戦を実行している。
「《大火球》!」
「《大水球》!」
ルナとリンちゃんで魔法を撃ちこむ。
エルフの像を狙うように見せかけて、地面に魔法を放つ。
足元狙いを学習されたのか回避行動を取られる。
だけど、それが狙いだった。
体勢を崩させることではなく、落とし穴を作るのが狙いだ。
それに回避行動を取る時は攻撃は止まる。
一石二鳥の作戦だった。
「対魔法特化の盾デス」
エルフの像の魔法攻撃をアーティちゃんが防ぐ。
これで安心して魔法を撃つことに専念できる。
「順調だよ!」
地面に穴がいくつかできる。
これで落とし穴の本命をカムフラージュできている。
だが、このままでは魔力が足りなくなることに気づいた。
ルナとリンちゃんの魔法の威力では穴を十分に作るために数が必要。
だが、その数を撃てるほど魔力に余裕があるわけではない。
お兄ちゃんならこんな時どうするだろう。
「《風起こし》」
リンちゃんが風魔法を放つ。
水属性適性持ちだが、副適性に風も持っている。
「そうだ!その方法があった」
リンちゃんの風属性の魔法に重ねて、ルナの炎属性の魔法を放つ。
風の力で炎の威力が高まる。
二人でそれぞれ魔法を放つより効率が上がる。
「リンちゃんもう一度風起こしを撃って」
「わかった!《風起こし》」
リンちゃんが風起こしを撃つ。
威力はあまりないが、その分消費魔力も抑えられる。
「《大火球》!」
リンちゃんの風に重ねて火球を放つ。
思惑通り火が大きくなる。
「わぁ!すごい」
「さすがです、ルナサマ」
火球自体はエルフの像には回避されてしまう。
だが、地面に大きな穴を残した。
これを繰り返せば。
「リンちゃん!もう少しだけ頑張って」
「うん!」
同じ方法で地面に穴を開けていく。
一つエルフの像が完全に埋まるくらい深い穴ができた。
後は陽動して落とすことができれば。
「アーティちゃん、リンちゃんお願い!」
「了解デス」
「うん!」
まずアーティちゃんがエルフの像を穴の方へ誘導する。
「遅いデス!」
攻撃を回避するように見せかけた誘導。
穴の方へと誘い込めている。
「《大水球》!」
リンちゃんが足元に魔法を放つ。
回避行動として飛び上がろうとする。
「《豪炎球》!」
そこを狙って撃ち落とす。
ルナが使える一番強い魔法。
回避しきれずに穴へと落ちていく。
修復されるが問題ない。
「《土壁》!」
「《水球》!」
ルナの土壁にリンちゃんの水球を合わせる。
すると土壁は泥となり、穴を塞ぐ。
エルフの像も抵抗し、よじ登ろうとするが、暗闇で力が出ない。
そのまま完全に埋もれていった。
「やった!!!」
「すごいですルナサマ!リンサマ!」
「みんなの力だよ!」
ルナたちはエルフの像を倒すことができたのだ。
心の中に達成感が芽生える。
お兄ちゃんに話したら褒めてくれるかな?
ふと、そんなことを考えるのだった。
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その頃。
「二人とも無事でいてくれ……」
二人と分断されてしまった。
心配で仕方がないが、信じるしかない。
とにかく問題を早く片付けて、合流しなければ。
「あれ?ロイさん?」
突然思いもしない人物から声をかけられる。
「プリムさん!?どうしてここへ?」
信じられないことにプリムさんがそこにいた。
「盲巫女様がこちらにいると兵士の方に伺いまして。
ルナちゃんたちと一緒に地下へ」
「ルナたちが!?」
どうやらルナたちも来ていたようだ。
俺たちが選ばなかったもう片方の道を通ってきたのだろう。
「ルナたちはどうしたんだ?」
「エルフの像が突然襲い掛かってきまして。
ルナちゃんいわく、ゴーレムと言うみたいなのですが。
私を先に行かせてくれて、今戦っているところだと思います」
ルナたちはゴーレムと交戦中のようだ。
急いで引き返してルナたちと合流する考えが浮かぶ。
だが、カトレアやシアも待たせている。
それにルナたちが送り出したプリムさんだけを一人で先に行かせるわけにもいかない。
ここはルナたちを信じて、先に進むべきだと思った。
「先を急ごう!」
「はい!」
俺たち二人は先へと進む。
そうしてしばらく進むと、奥の部屋へとたどり着く。
「なんだここは……」
「祭壇でしょうか……」
目の前には祭壇がある。
それに血で描かれた魔法陣の形跡がある。
何かの儀式で使われたようだ。
「よくここまでたどり着いた。
褒めてやろう」
突如闇から一人の人物が姿を現す。
「なっ……」
「えっ……」
その声、その姿に見覚えがあった。
胸が苦しくなる。
動悸が止まらなくなる。
隣のプリムさんも目を見開いて言葉を失う。
そう、目の前にいるのは。
「アンジェさん!?」
「お姉さま!?」
ソルヌで殉職したはずのアンジェさんがそこにいた。
姿形、声までもがアンジェさんそのものだった。
だが、アンジェさんからは到底考えられないような邪悪な笑みを浮かべ、阿修羅像から感じたような禍々しい魔力を纏っている。
「誰だお前は!何故アンジェさんの姿をしている!」
「何を言っておる。
どこからどう見てもアンジェ本人だろう?」
言葉からして本人であるはずがなかった。
偽る気などはなから無い。
ただ俺たちを嘲笑っているだけだった。
「盲巫女様!」
プリムさんが悲鳴に似た声を上げる。
声がした方向に視線を向けると。
「そんな……」
心臓を貫かれ、息絶えた盲巫女が横たわっていた。
プリムさんが盲巫女に触れた瞬間、泣き崩れた。
おそらく、既に亡くなっている。
「お前は一体何者だ?」
「私か?私は新しい盲巫女。
この世界を支配する者さ」
その人物は嘲り笑いながらそう答える。
アンジェさんの尊厳を踏みにじり、盲巫女に手をかけた。
絶対に許せる相手ではない。
俺は久々に怒りに支配されそうになっていた。
――第十二章 完――




