苦戦
宗教戦争の火蓋が切られた。
東に西に剣戟の音が響く。
兵士と信者が激しく鍔迫り合いをしている。
強さはほぼ互角といったところだった。
だが、信者は洗脳されており、心に隙がない。
それに疲れすら感じることはない。
長期戦は圧倒的にこちらが不利だった。
「お前どうしちまったんだよ!」
「……」
顔見知りの相手に戸惑う兵士もいる。
それに他にも。
「母ちゃん!何やってんだ!
目を覚ませよ!」
「……」
自身の母親と対峙するものまでいる。
だが信者たちに共通して言えるのは今は自我がない。
完全に洗脳された操り人形だった。
「軽傷の方はこちらへ!」
「重症の方は私の方へ」
俺とシアで症状ごとに人を割り振る。
適材適所に動いている。
「それにしても怪我人が多いね……」
「全力で向かってくる相手に無力化だけ狙うのは至難の業だからな」
元軍人の兵士を相手にしている分にはある程度全力は出せるが、一般市民を相手にしている場合にはそれができない。
操られているため、痛みで怯ませることもできない。
あくまで気絶による無力化か、抵抗できないレベルに縛り上げるくらいしか方法がなかった。
「くそ……気絶を狙おうにも急所に対する隙がまるでない」
「縛り上げようにも捕捉できるような動きじゃない」
難航すればするほど怪我人が増える。
そして、抵抗する相手がいなくなれば自ずと医療班に向かってくる。
「ロイくん危ない!」
シアが叫ぶ。
俺の目前まで信者が近づいてきていた。
だが気配で既に気付いている。
「《黒暗視》!」
「うわあ!目がぁ目がぁ」
信者が目を抑えて狼狽え始めた。
おそらく視界を失ったショックで洗脳が一部解けたのだろう。
少なくとも自我を取り戻していた。
「《催睡眠》」
兵士が睡眠の魔法を使うと、信者が眠りにつく。
そのまま地面に倒れ、いびきをかき始めた。
「申し訳ございませんロイ殿。
危険に晒してしまって。
ですがおかげで一人無力化できました」
兵士が信者を武装解除した後、どこかへ運び出す。
だが、医療班を狙う信者はまだまだ押し寄せてくる。
「すまんシア。ちょっと俺も前線に行く」
「了解!気を付けてね」
軽傷者もシアに任せて、俺も前線に立つ。
隠し扉の探索にはまだ向かえそうにもなかった。
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その頃、ネモとカトレアは。
「なんとか無力化できているが、キリがない」
「なかなか骨が折れるね」
ネモと私は着々と信者の無力化を進められている。
だが、すればするほど新たな信者が襲い掛かってくる。
あまりにも人数が多い。
おそらくまだ五百人近くは信者がいそうだった。
「一旦退いて息を整えるか?」
「そうだね、結構魔力も消耗してきているし」
建物の陰に隠れて息を整える。
手持ちの魔力ポーションも惜しみなく使う。
「みんなは大丈夫だろうか……」
遠くで負傷した兵士が次々と下がっていくのを見ている。
みんなのことが心配になる。
「大丈夫だよ、あいつらなら」
心配はしているのだろう。
だが、それ以上に信じているのだ。
「弱気じゃダメだな、気持ちを切り替えよう」
自分の頬を手で叩く。
痛いが、その分気合が入る。
「ネモ!次はどう……」
ネモの手から剣が零れ落ちる。
それを見て最後まで言い切ることができなかった。
「どうして……」
ネモの顔を見ると明らかに動揺している。
その視線の先には女性が立っていた。
年はネモと同じくらいだろうか。
凛と佇むその構えは隙がまるで感じられない。
相当の実力者だった。
だが、片足が義足であり、歩行が覚束ないようにも見える。
とても戦えるような状況には見えなかった。
「ネモ!あの人は知り合いなのか?」
ネモは苦々しい表情で頷く。
「あいつはあたしの一番の親友さ」
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その頃、空の部隊は。
「うーん隠し扉ってどこだろう?」
「どこだろー」
リンちゃんに建物の周辺を飛んでもらっている。
だけど特にそれらしき物は見つからなかった。
そうこうしているうちに修道院を一周する。
「ルナサマ!リンサマ!そちらはいかがデス?」
逆側を飛んでいたアーティちゃんとちょうど合流する地点についた。
「ダメだよ、何も見つからない。
アーティちゃんはどう?」
「ワタシもダメデス。
やはり上空から見つけにくい場所なのかもデス」
アーティちゃんも手がかりはなさそうだった。
「一旦お兄ちゃんたちのところに戻ろう」
「そうデスね、それが良いデス」
「帰ろうー」
話もまとまり、お兄ちゃんがいた方に向かってもらう。
だけど、信者の人たちがこちらを見ている。
「ルナサマ、リンサマ。
お気をつけくだサイ。
着地したところを襲うつもりデス」
明らかに敵意を向けられている。
このまま着地したら一斉に襲い掛かってきそうだった。
「どうしようアーティちゃん?」
「一度修道院から離れた場所に着地して、徒歩でロイサマのところに行くのが良いと思いマス」
時間はかかっちゃうけどそれが安全だった。
リンちゃんを危険な目には遭わせられない。
「リンちゃん、遠い方の修道院に向かってくれるかな」
「おっけー」
リンちゃんにも疲れが見え始めている。
修道院についたら少し休憩しよう。
「アーティちゃん、遠い方の修道院に向かうね」
「わかりマシタ。ワタシも向かいマス」
ルナたちは遠い修道院に向かった。
一時的に戦地から撤退する形となった。




