リィンカーネーション
修道院の地下室。
祭壇の前で佇む。
禁術の準備が整ったのだ。
「ようやく魔法陣が輝きだした……」
百人あまりの生贄。
それにより目に見えて魔力が満ち溢れてくる。
「ついに……ついに完成する……」
魔法陣の中に入る。
そして、自身の腹を裂く。
血が飛び散るが、この心の昂りのおかげか痛みは感じない。
死体から集めた眼球、そしてある人物の肉体の一部。
それらを腹に収める。
「あとは詠唱をするのみ……」
自身の魔力を魔法陣に流し込もうとしたその時。
「そうはさせないよ」
その声に聞き覚えがあった。
忌々しい腹違いの弟。
自身が望んでも手に入らなかった力を持つ者。
「久しぶりだなあ!盲巫女ぉぉぉ!!!!」
怒りで我を失いそうになる。
その存在を視認しただけでも全身が憎悪に染められていく。
「お姉も久しぶりだね。
とても余……いや、僕と年子とは思えない容姿だね。
若作りかい?」
私は舌打ちをした。
盲巫女は私の心を視ているのだろう。
若い女の奴隷の血を浴びて手にしたこの美貌を侮辱する言葉を投げかけてくる。
「男のくせに女に染まった奴なんかに言われたかないよ」
だが、今は構っている暇はない。
儀式の猶予、私の命が刻一刻と過ぎているからだ。
魔力を流し始める。
「その魔法陣。
禁術 《リィンカーネーション》だね。
それを使わせるわけにはいかない」
盲巫女の瞳が光る。
魔力の干渉。
盲巫女の能力の一つ。
魔法陣に天の魔力を注ぎ無効化を図る。
「信者の生贄で得た力がそう簡単に無効化できるものか!」
「くっ……」
いくら盲巫女の力が常軌を逸しているとはいえ、この生贄により得た力も同じく常軌を逸する。
穢の進化形態である忌の力。
そう簡単に打ち消されるわけがなかった。
そして、発動するに至るところまで進んだ。
「盲巫女よ、お前の抵抗も無駄だったな。
禁術である《リィンカーネーション》は完成した!」
魔法陣から魔力が噴き出る。
自身の肉体が塵芥のように崩れていく。
「あははは!この身が朽ちた後、新たな命へと昇華する。
盲巫女と同じ聖の魔力を得た姿として」
視界が下へと落ちていく。
頭が地へと落ちたのだろう。
少しずつ意識が遠のいていく。
次に目覚めた時は、新たな姿になっているだろう。
そして、意識は完全に途切れた。
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お姉の声が途切れる。
生命反応が消えた。
「間に合わなかったか……」
リィンカーネーションが発動してしまった。
肉体と思われる器が崩れ、そこから魂が抜けたことを確認した。
盲巫女の瞳は魂の形を視ることができる。
「一体何が起こるのだろうか」
リィンカーネーションは存在しか知らない。
何が起こるか見当もつかなかった。
「……これは!?」
先ほどから新たな器が作られている。
だが、その器は自分のよく知る形へと姿を変えている。
「まさか……そんなことが……」
悪い冗談かと思った。
夢ならば醒めて欲しいとも思う。
それはあまりにも残酷で。
受け入れがたい事実だった。
「やめろ……やめてくれ……」
思いに反するように器の形が出来上がっていく。
そして最後に器の中に魂が戻っていく。
「盲巫女よ、お前の考えうる最悪の結末はどうだい」
吐き気が止まらない。
声色、魔力の質、器の形、すべてがあの子と完全に一致する。
魂だけがお姉のものになっている状態。
儀式の際に体内に取り込んだもの、それはアンジェの身体の一部だったのだ。
「よくも……よくもやってくれたな……」
「実に愉快。久しぶりの大切な孫の姿はどうだい?
ふふふ、まさかアンジェとして転生するなんてね」
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新しい方の修道院の前。
俺たちは、国王軍とともにいた。
目的は首謀者及び幻術使いの捕縛のためだ。
「まず先遣隊が催眠魔法で信者たちを無力化する。
その後、首謀者をロイ殿、幻術使いを我々で捕縛する。
その方針でいかせてもらう」
「わかりました」
陛下が直々に軍を率いている。
それくらい本気で動いている。
「ロイ殿。
首謀者は地下に潜んでいるようだ。
修道院の隠し扉を見つけて欲しい」
「わかりました」
国軍の調査隊から、地下に怪しい儀式用の祭壇があるという情報を貰っている。
まずはそれを探すところから始める。
「それでは突撃!」
陛下の号令で国軍が一斉に修道院に雪崩れ込む。
「なんだなんだ!」
「国軍だ!盲巫女様に対する宣戦布告だ!」
「反撃しろ、反宗教主義を倒せ!」
信者たちも一斉に武器を取る。
信者の半数近くは軍人である。
「何?こいつら軍人だ」
「催眠だけじゃ対応しきれないぞ」
「武器を持ったものはどうする」
国軍は動揺する。
軍人も一般市民も武装をしている。
それに動きが全員洗練されている。
「まずいな、幻術使いの洗脳だ。
一般市民といえど、達人レベルの腕前があると考えた方が良さそうだ」
陛下が司令官に作戦の変更を指示している。
確かに簡単には目的地にたどり着けそうもない。
「みんな聞いてくれ。
信者はみんな洗脳されている。
軍人じゃない一般人も相当強くなっているみたいだ」
俺の言葉にみんな頷く。
「そうだな、あの主婦があんな動きできるわけがない」
「あの少女も隙がないね」
ネモとカトレアは真っ先に見抜いていた。
「お兄ちゃん、どうすればいい?」
「どうする?どうする?」
「どうしますか?ロイサマ」
ルナとリンちゃんとアーティが指示を仰ぐ。
俺は少し考えた後に作戦を伝える。
「ネモとカトレアは身体強化で、できる限り強行突破を狙ってくれ。
攻撃もできればみねうちで。
身の危険を感じた場合以外は回避や防御優先で」
「わかった、任せろ!」
「任せて」
ネモとカトレアは頷くと、武装した信者の中へ走っていく。
「ルナとリンちゃんとアーティは空から探して欲しい。
リンちゃんは竜の姿に変身してルナを背中に乗せて飛んで欲しい。
できるかな?」
「はーい!」
リンちゃんが竜の姿へ変身する。
そしてルナが乗りやすいように屈む。
リンちゃんも立派に人を乗せられるくらいに大きくなっていた。
「リンちゃんお願いね」
「うん!ママとお空飛ぶの大好き」
ルナがリンちゃんの背中に乗る。
リンちゃんが羽ばたくと上空へ飛び上がった。
「ワタシも行きマス」
アーティも背中の羽を広げて飛び上がる。
リンちゃんとは真逆の方向へ向かった。
「俺とシアは国軍に合流して動こう。
負傷者の手当をしつつ、隠し扉を探す方針で」
「わかったよ!」
俺たちはそれぞれの形で捜索に当たる。
そしてこの時をもって、国と信者による宗教戦争が開戦したのだった。
――第十一章 完――




