辞退
俺は耳を疑った。
唖然としてしばらく言葉が出なかった。
「俺が盲巫女……!?」
盲巫女の冗談だと思った。
だが、盲巫女の表情は真剣なものだった。
「俺男ですよ?巫女って女の人がなるものじゃないんですか?」
苦笑いが顔に張り付く。
冷静さを装うが、動揺が隠しきれない。
「余は元々男として生を受けた。
盲巫女を継いだ時に、女の姿へと変わったんだ」
とても信じられる話ではなかった。
目の前にいる少女の姿をした人物は元々男であったのだ。
だが、そもそも巫女の容姿は全員が年若であり、不老という時点でありえないのだ。
性転換くらいあってもおかしくはない。
「で、でも俺は盲巫女の血筋ではないですよ。
こういうのは部外者がなれるものでは……」
姫巫女は血筋により遺伝するものだった。
盲巫女も同様であると考えるのが自然だった。
「いいや、あくまで盲巫女の継承条件は、聖の魔力があること。
そして、純粋な人間であること。
それだけじゃ」
俺の体内には聖の魔力が宿っている。
そして純粋に人と人の間に生まれている。
継承の条件は満たしていた。
「でもどうしてわかるのですか?
盲巫女様は盲巫女の血筋ではないのですか?」
「いや、余は盲巫女の直系よ」
「ならば、どうして?」
「先代の盲巫女が二人おってな、片方が無関係の血筋だったからな」
次々と判明する事実に頭が追い付かなかった。
盲巫女が複数いたという事実。
「余と姉は腹違いの姉弟だからな。
余は直系の盲巫女の子で、姉はその傍系の盲巫女の子だ」
確かにそれであれば俺でも盲巫女を継ぐことはできるのだろう。
それでも俺は受け入れることはできない。
「すみませんが、視力を失う訳にも、これからの人生を盲巫女として捧げる訳にもいきません。
なので謹んで辞退させていただきます」
盲巫女を途絶えさせてしまうのは忍びないが、俺にはとてもその使命を抱えきれない。
それに、大切な人たちを守るためには縛られるわけにはいかなかった。
「そうか……まあそうだろうな。
いや、無理を言って済まなかった」
盲巫女は笑ったが、とても寂しそうだった。
自分の代で終わらせてしまう負い目なのかどうかはわからない。
だが、この決断は軽々しく行えるものではない。
「それじゃあ、また何かわかりましたら」
「そうだね、その時はまた来てくれ。
やはり老いると寂しいものだからな」
見た目は少女と言っても差し支えがないはずが、この時の盲巫女は年相応に見えた。
俺は踵を返して修道院を後にした。
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ロイが帰った後。
「やっぱり受けてもらえなかったか……」
話す前から想像はついていた。
盲巫女の力に利を感じない限りは、到底看過できるような代償ではない。
実際この目で娘や孫の顔を見ることができていないことが、今でも胸につっかえている。
「余もこの力は持て余しているからな」
盲巫女の持つ天の魔力は、他の巫女と比べても特別である。
視力を失い、人が視覚できるものを視ることができなくなる。
その代わりに人が視覚できないものを視ることができるようになる。
「あえて見えないようにこれで隠してはいるが」
手にはヴェールのマスクがある。
普段はこれで視覚を覆っている。
そうでもしなければ、瞳が映す世界に自分は耐えられなかった。
視えるものの一つに対面した相手の心がある。
余はロイ殿の心を視たのだ。
「彼に背負わせるべきではないだろう」
視てしまったからこそ無理強いはできない。
自分の選択を酷く後悔している。
「余でケリをつけるしかないか……」
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人間国の宮廷。
父上の負の遺産を払拭すべく忙しい日々を送っていた。
そんな中、私宛に一通の手紙が届いた。
「陛下。ロイという者から陛下宛に手紙が届いております。
いかがなさいますか」
「構わん。持って参れ」
彼からこちらにコンタクトを取るなんて珍しい。
余程のことなのだろう。
臣下から受け取った手紙を読む。
「なるほど、やはりあの件か」
新しく建てられた修道院のことについて書かれていた。
ちょうど頭を悩ましていた問題についての情報を持ってきてくれていた。
「やはり何か企んでいたか」
あの場所で行われている治療は、偽りのものだった。
それでようやく合点がいった。
治療で治したはずの患者の症状が再発したのか。
「認識改変か……どうりで」
修道院を監査させた際に、暴動が起きた。
我々のせいで症状が再発したという理由で。
そのため我々では手を出せない状況になっていたのだ。
「認識改変ということはおそらく魔人国の者だな。
ラナンに調査を命じてくれ」
「はっ!」
ラナンとは魔人国にスパイとして送り込んだ腹心。
今は魔人国で給仕として働きながら任務をこなしてもらっている。
「完全に看過できない問題のようだ」
国民の命が危ぶまれる案件だった。
犠牲者を出さないためにも早い解決が必要になる。
「からくりが分かれば話は早い」
国民に危害を加えることなく制圧する。
そして、治療師を偽る魔人族と、主犯格を捕縛する。
「特殊部隊の編制を急げ」
「はっ!」
作戦遂行のための準備を行う。
軍の編制、調査。
「彼にも情報を共有しておくか」
独自で動いている彼も利用させてもらう。
国の面子を潰されたままで終われるはずがなかった。
「必ず不届きものを捕らえる。
国王の名にかけて」




