呪い
俺は人間国国王と話をすべく、宮廷に来ていた。
まずは窓口に対して要件を伝える。
国王と接点があるとはいえ、正規の手続きを踏むのが礼儀だ。
だが、おそらくすぐには謁見ができないだろう。
その場合は、手紙を渡すようにしている。
「ロイ様。ただいま申請を受理いたしました。
陛下はご多忙により、立て込んでおりますので、いつ頃謁見が可能になるかはすぐにお答えが難しい状況でございます」
「それであれば手紙だけお渡し頂ければ構いません」
「それでしたら、検閲後に問題無ければ陛下にお渡しいたします」
「お願いします」
ひとまず用件は済ませた。
俺は足早に次の目的地へ向かう。
元あった修道院についた。
やはりと言うべきか、誰もいなかった。
寂れた礼拝堂がそれを物語っている。
それに修道女の数も目に見えて減っていた。
「しょうがないとはいえ、寂しいな……」
特に強い思い入れがあるわけではないが、対比を見てしまってはそう思えてしまう。
本堂の方に近づくにつれて、ようやく人に出会えた。
「あれ?ロイさん、どうされました?」
対面からプリムさんが箒を持って歩いてきた。
「盲巫女様にお話しがあって」
「あー新しい修道院のことでしょ?」
やはりプリムさんたちの耳にも届いていた。
プリムさんの表情を見れば心なしか元気がないようだった。
「子供の頃から人がいたこの場所しか見た事ないから、なんだか新鮮だよ。
ここってこんなに広かったんだなって」
気丈に笑って見せるが、明らかに作り笑いだった。
ヒドラの時にアンジェさんが見せた表情と同じで、胸が痛くなった。
「じゃあ私は掃除に行くから」
そう言ってプリムさんと別れた。
どうしてもプリムさんのあの表情が頭から離れなかった。
俺は絶対に解決しなければならないと心に誓った。
しばらく歩き、盲巫女のいる部屋にたどり着いた。
「余に会いに来てくれるなんて嬉しいじゃないか」
「……!?」
扉を叩く前に声をかけられる。
ここに来たことはお見通しのようだった。
俺は改めて扉を叩いて中に入る。
「ようこそ。何の用かな?」
盲巫女はこちらを振り向く。
以前つけていたヴェールのマスクをつけていなかった。
目を閉じてはいるがマスクが無い素顔は、やはりアンジェさんとプリムさんに似ていた。
「新しい修道院のことです。
俺の知っている情報をお伝えするので、盲巫女様が知っている情報を教えて欲しいです」
「ほお、それは問題ないが、どうして余たちに助力してくれるんだい?」
「どうしても放っておけない事実を知ってしまったのと、プリムさんのあの表情を見せられたらどうしても解決しなくてはと思って」
盲巫女は微笑みかけるような表情を浮かべて頷く。
「そうか、彼女を思いやってくれるのか」
盲巫女は目を開いた。
その目は宝石のように美しい輝きを放っていた。
だが、その美しさに反するかのように内側は光を失っていた。
「その目は……」
「盲巫女の瞳だよ。
この世界を視ることができなくなる代わりに、力を得ることができる。
余は望まなかったが、姉弟の中で聖の魔力を持つのは余しかいなかったからね」
そう語る盲巫女の表情は悲し気だった。
姫巫女の時にも思ったが、一種の呪いのようなものだと思った。
本人は望まなくとも、生まれた時に人生が決まってしまう。
おそらくアンジェさんも無理やりに盲巫女を継がされてもおかしくなかった。
そうしなかったのは、盲巫女の優しさだったのだろう。
「余が知りうる情報を伝えようではないか。
まず、この新しい修道院を造って乗っ取りを画策した奴は、余の実の姉だろう。
姉は先代盲巫女に憧れておって、私が継ぐと意気込んでおったからな。
まあ、聖の魔力を持っていなかったからその資格はなかったのだが」
「残酷な話ですね……」
望んだ姉は継ぐことができず、望まなかった方が継ぐことになった。
もしこれが真逆であったならば、どれほど良かったことだろうか。
「でもそうして姉だと断言できるのですか?」
「最後に会った時に言われたのだ。
お前のすべてを奪って、私が盲巫女になってやるとな。
それにあの修道院を建てて、治療師まで雇える資産があるのも限られるからな」
盲巫女の姉は資産家と結婚し、先日その遺産を相続したらしい。
おそらくその機を狙って行動を起こしたのだろう。
「それでロイ殿が知っている情報というのは何かな?」
「新しい修道院で行っている治療についてですが、あれは治療ではありませんでした」
盲巫女の代理人を名乗るものが、盲巫女の加護として治療を行っていたこと。
その治療がヒールではなく、闇属性の魔法である認識改変を使い、治療に見せかけていたこと。
近いうちに盲巫女が姿を見せるという話をしていたこと。
俺の知りうる限りの情報を伝えた。
「なるほど……もう戻れないところにまでいってしまったようだな」
盲巫女の落胆した声だった。
やっていることは盲巫女に対する冒涜でしかない。
「念のため国にはこの話を伝えましたがどうなるか」
「まあ、国も動けないだろうな。
姉は狡猾ゆえ、その辺も織り込み済みだろう」
国の対応の遅さである程度想定できるのだろう。
それくらいやり手であるようだった。
「そこでな、ロイ殿に折り入って頼みがあるんだが」
「俺にですか?できることであれば」
盲巫女は真剣な表情でこちらを見据える。
そして衝撃的なことを口にする。
「ロイ殿に盲巫女を継いでもらえないだろうか?」




