手口
後日。
俺は新しくできた修道院に来ていた。
建物は真新しく綺麗なものだった。
古い修道院を模倣したような造りになっている。
エルフの像も設置されており、傍から見れば老朽化による建て直しに見えなくもない。
そういう意図が見えた。
「それにしてもあっちの修道院より人が多くないか?」
古くからある方の修道院にも人はいたが、こちらはその比ではなかった。
明らかに異常な信者の増え方をしている。
俺は気になって、信者の一人に声をかけた。
「すみません。すごい信者の数ですね。
不勉強で申し訳ないのですが、何かすごいご利益でもあるのですか?」
新しくできたものに興味本位で見に来たように振る舞う。
「ああ、盲巫女様の加護と言ってな。
どんな病気や怪我でもタダで治してくれるんだよ。
それに運も良くなって、幸せなことが増えたんだ」
興味本位で訪れる人間が多いのか、特に訝しまれることもなく教えてもらえた。
だが、いかにも怪しい内容だった。
一旦お礼を言って別の人にも聞き込みをする。
「ああ、奇跡かなんだか知らないけど、それはどうでもいいんだ。
どんな病気や怪我でも治るのは、ハイ・ヒールやグレート・ヒールみたいな高度な治療魔法を使ってもらえるからで、俺自身に信仰心はないよ」
信者全員が盲目的に信仰しているわけでは無さそうだった。
だが、戦時中以外で国民にハイ・ヒールやグレート・ヒールを無料で使うのは人間国の法に反している。
なるほど、それであれば国民の支持は得られるはずだ。
だが、それであれば国はどうして動いていないのだろうか。
「まあ軽い肩凝りとかでも診てもらえるから行ってみるといいよ。
どうせ無料だし、順番待つ気があればだけどな」
そう言われて俺は列に向かう。
凄まじいほどの長蛇の列だった。
特に多いのが人間国の兵士である。
この前の戦争で負傷した人や、精神を病んだ人が多いと言われている。
国王の交代に伴う諸々の事情でで、戦争従事者への補償が追い付いていないという話である。
そういう不満や治療の遅れがこの状況を生み出しているのだろう。
俺は素直に並ぶことにした。
数時間並んでようやく俺の順番が来た。
そこにはフードを被った占い師のような人物がいた。
似たような風貌の人物に心当たりがあって苦笑してしまった。
「迷える民よ、悩みを聞かせておくれ」
胡散臭い口上だった。
隠蔽魔法がかけられているのか素顔が見えないようになっている。
「その前に一つ聞かせてくれませんか?
盲巫女の加護という話でしたが、あなたが盲巫女なのですか?」
「いいえ、私はあくまで盲巫女様より力を授かっただけの者です。
新たな盲巫女様はいずれ顔をお見せできると思いますが、まだその時ではないので」
煮え切らない反応だった。
代理人を名乗っている以上、本人がすべてを知っているとは限らないのだろう。
「そうですか、ありがとうございます。
実は前の内戦で負傷した肩の痛みがなかなか癒えなくてですね。
どうにかなりませんか?」
内戦は嘘だが、実際に訓練時に肩を怪我していた。
「わかりました。
それでは迷える民に救いを。
《盲巫女の加護》」
盲巫女の代理人は手を翳すと俺に魔力を注ぐ。
確かに肩の痛みは感じなくなっていた。
一見ヒールに見えなくもなかった。
だが、実際は異なるものであることに俺は気付いている。
体内に注がれたものはヒールなどに使われる無属性の魔力ではなく、闇属性の魔力だったからだ。
事象と魔力の形質から過去に読んだ闇属性の魔法の文献に照らし合わせると、これは魔人族が使う認識改変の魔法だろう。
この者は実際に治療を行ってはいない。
認識改変の魔法により痛みなどを感じなくしているだけだった。
「どうでしたでしょうか」
「ええ、肩の痛みが楽になりました。
ありがとうございます」
「それはよかった。
よろしければ入信しませんか?」
俺は一瞬悩んだ。
ただ俺に対しては効いていないだけで、この認識改変が洗脳の類であるのならば、ここで入信を断れば疑われる。
だが、ここで入信をすると答えることで、誓約が洗脳のトリガーになる可能性もある。
「申し訳ありませんが、まだ信仰する盲巫女について詳しく知りません。
よく勉強した上で入信するか考えさせてください」
ひとまず無難な方を選択した。
疑われたところで逃げれば良いのだから。
「そうですか、それは残念です。
ですが、我々はあなたのことを待っておりますので、是非考えが変わればまたお越しください」
特に疑われることもなく解放された。
少なくとも今のところ、洗脳されたような感覚はない。
今回の治療では洗脳まではされなかったようだ。
「それでもこれは由々しき事態だな」
少なくとも傷や病気そのものを治しているわけではないことがわかった。
そうなれば病気はそのまま体内で進行しているはず。
つまり手遅れになった状況でも気付くことなく、ある日突然死ぬことになるだろう。
それに大きな怪我も適切な処置をしなければ、大変なことになる。
「これはまずいな」
この修道院を放っておくことはできない。
俺は大急ぎである場所へ向かった。
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修道院の地下。
特に信仰心の高い信者が数十人、祭壇で祈りを捧げている。
ここに連れてくる際に念のため洗脳魔術を施しておいた。
「さて、皆の者よ、真の盲巫女様の復活のため祈りを捧げよ」
信者たちは一斉に祈りを捧げる。
ほとんどが狂信的な信者である。
それゆえに洗脳魔術の効きも良かった。
「最後に盲巫女様に供物となりなさい!」
魔人族の男が信者の首を刎ねて回る。
飛び散った鮮血が魔法陣に吸われていく。
「臓物や眼球なども集めておきなさい。
残りは焼却処分で」
眼球は儀式に必要となるため確保しておく必要がある。
そして臓物は闇に流せば売り物になる。
「これでもまだ足りぬというのか」
数十人程度では発動には足りそうにもない。
「やはり一筋縄ではいかないか……。
この禁術 《リィンカーネーション》は……」




