混血
盲巫女にある一室に連れられてきた。
隠し部屋のような場所だった。
目を引くのはエルフの像。
外で見たものとは違い、着色されている。
エルフの象徴であるブロンドヘアーだった。
「ロイ殿はこれが何かわかるかね?」
「エルフですよね」
俺は即答する。
この像を見た時の反応が露骨だったのだろうか。
「何故その名前を知っているのだ?
一般の者は知る由もないのに」
「俺たちの家族にエルフがいるからですね」
ルナがいなければ、俺もエルフなんて知らなかった。
「そうか……なら次の質問。
何故そんなに歪な魔力を持っているのだ。
それに聖の魔力まで」
エルフのことを知っているということは、聖の魔力を知っていてもおかしくはない。
それに俺のような魔術師には不相応なものである。
「それは……」
俺は深淵の森で起こったことを話した。
ルナというエルフの王女が封印されていたこと。
瘴気や根源のこと。
そしてルナの中にエルフの女王の力が残されていたこと。
その女王ともども根源を俺の中に封印していること。
「なるほどな、通りで……」
盲巫女は納得している。
俺の話が理解できるのだろう。
「ならロイ殿には伝えないといけないことがある。
我々リリーネ家は遡れば、エルフと人間の間に生まれた混血なのだ」
衝撃的な事実だった。
確かにアンジェさんもプリムさんも盲巫女もルナと同じブロンドヘアーだった。
「確かにみんなルナと同じ髪色だ」
だが、耳は人である。
それに盲巫女から纏っている魔力は聖の魔力とは異なるものだった。
「昔エルフの男と人間の女が恋に落ちて、子を儲けたそうだ。
だが、五大国とエルフの国との戦争で男女は戦死。
子は生き長らえたが、エルフの血が原因で迫害された。
最終的には捕らえられ処刑を宣告された」
盲巫女が昔話を始めた。
この話は俺も初めて聞いた。
「だがある時、当時の人間国王が不治の病に侵されてな。
もし治すことができたなら赦免ということになり、自らの視力と引き換えに天と契約し、その力で病を治した。
それを奇跡などと持て囃し、盲目の巫女――つまり盲巫女として祀り上げたのが盲巫女である余の一族の始まり」
「では盲巫女様が持っている聖の魔力とは違う、その魔力は……」
「余が盲巫女になった時に授かった天の魔力だね」
三大巫女がそれぞれ異なる魔力を宿していることは知っていた。
盲巫女は天の魔力だったのか。
そして、何故聖の魔力を宿していないかについては理解できた。
だが、他にも疑問が浮かぶ。
「あれ?じゃあプリムさんは……?」
「聖の魔力を受け継いだのは孫の中だとアンジェのみだった」
アンジェさんに聖の魔力。
その言葉で俺の中で腑に落ちたことがあった。
「だからあのペンダントに聖の魔力が……」
何故アンジェさんから貰ったペンダントに聖の魔力が宿っていたか。
ようやくその謎が解けたのだった。
「本来ならアンジェが次の盲巫女になるはずだったのだが、盲巫女になるということは視力を失うことを意味する。
あの子はそれを良しとせず家を出て行ってしまった。
まさか亡くなっているとは思わなかったが……」
盲巫女は悲しげな表情を浮かべた。
相当大事に思っていたことが伝わる。
「アンジェさんにそんな事情が……」
あの気丈で優しかったアンジェさんからは想像もできなかった。
俺は何も知らなかったのだ。
「もしあの時に戻れるのであれば、盲巫女を継がなくて良いと言ってあげたかった。
余の代で盲巫女が途絶えようとも、あの子が生きていてくれればそれで良かったのだ」
盲巫女からは後悔の念を感じる。
俺はかける言葉が見つからなかった。
「すまないな、湿っぽい話をしてしまって。
ロイ――その名前を受け継いだ者として聞いておいて欲しかったのだ」
それ以上話すことはなく、俺は部屋を後にした。
あの時の俺は、盲巫女の言葉をそのまま受け止めていた。
その裏に、もう一つの理由が隠されていることなど知る由もなかった。
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その頃、修道院の裏手に別の修道院が建設されていた。
小規模だがれっきとした造りで礼拝堂もある。
表向きは普通の修道院だ。
その礼拝堂にもエルフらしき像があった。
「盲巫女には跡取りがいない。
ならば私が次代の盲巫女になる」
盲巫女にそっくりな女がほくそ笑む。
違いがあるとすれば、銀髪の髪色と光を失っていないその両目である。
「だが、この髪色では信仰は得られない。
表向きには盲巫女にはなれない」
先ほどまで笑っていたかと思えば、自虐を始める。
盲巫女はエルフと同じブロンドヘアーであることが信仰に繋がっている。
その髪色は染髪では表現できない繊細な色合いであるため、偽ることができない。
「さて、私の計画も次のフェイズに進む」
その女は修道院の隠し扉から地下室へ潜る。
しばらく階段を降りてたどりついた場所は祭壇だった。
見るからに儀式を執り行う場所に見える。
地面には血で描かれた得体の知れない魔法陣が刻まれている。
そこからどす黒い魔力が立ち込める。
「お前の天下ももうすぐ終わりだ。
精々今を楽しんでおくんだな。
なあ盲巫女?」




