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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十一章 リリーネ家
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生き写し

 カムイさんとの力試しから数日。

 今は新しい家を建設している。


 元々は簡易的な小屋に住んでいたが、手狭になっていた。

 リンちゃん用に一部拡張したが、正式な家族になったことで、もっと広い場所を用意する必要もあった。

 カムイさんに住宅の建設費用を一部負担して頂けることになったので、立派な家の施工図を起こした。


「ロイくん、資材は買ってきたよ」


 今は全員で協力して資材を用意している。

 シアには買い物を頼んでいた。


「切断は任せてくれ!」

「組み立ては任せてクダサイ」


 カトレアには木をひたすらに切ってもらい、アーティには組み立ててもらっている。


「ロイ!木はこのくらいで良いか?」

「うんしょ!うんしょ!」


 ネモとリンちゃんには資材の運び出しをお願いしている。


「《火球(フレア)》!」

「《水球(アクア)》!」


 俺が石灰を熱し、ルナが水を加える。

 何度も材料を混ぜ合わせ、固まったものを建材として使っていく。

 魔法があるおかげで、材料の加工には困らなかった。

 前の小屋とは比べ物にならないほど、しっかりとした家になりそうだった。


 何日もかけて作業を続け、約一月で家は完成した。

 三階建ての立派な建物だ。

 木材だけで組んだ小屋とは違い、壁には膠灰を使っている。

 簡単に壊されるような造りではない。


「本当にここに住むんだな……」


 俺は完成した家を見上げる。

 以前の家は、雨風を凌ぐだけで精一杯だった。

 今度の家には広い部屋があり、食堂も台所も風呂場もある。

 何より、みんなのために作った家だ。


「すごいな……」


 建築本を参考に俺が施工図を描き、アーティが問題点を修正してくれた。

 みんなで力を合わせたからこそ、ここまでの家を作ることができた。

 今日はゆっくり休むことになり、早速各々自分の部屋へ向かう。


「俺の部屋だ……」


 自分の部屋を見て、感無量といった気持ちになる。

 ちゃんとした家に住み、ちゃんとした部屋がある。

 それは生まれて初めての経験だったからだ。

 俺は布団の上に横になった。

 見慣れない天井が妙に落ち着かない。


「なあルナ」


 ルナに話しかけようとしたが返事がない。

 隣を見てもルナの姿はなかった。


「そうだった、ルナとは別々の部屋だった」


 今まではルナと同じ部屋で寝ていた。

 リンちゃんが来るまでは同じ布団で寝ているくらいだった。

 もうかなりの期間、寝る時は一緒だった。


「なんだか寂しいな……」


 ルナをリンちゃんに取られたような喪失感。

 ルナとの距離が少し離れた気がしてしまう。

 年齢を考えれば別々に寝る方が一般的である。

 だが、俺は寂寥感を覚えてしまっている。


「驚いた……。

 俺にもこんな感情があるんだな」


 急に胸が苦しくなる。

 あの結界の中で見た、幼い頃の記憶が脳裏をよぎった。

 愛されたくて、誰かと一緒にいたくて、それでも叶わず、一人で眠っていた夜。

 あの頃の寂しさまで思い出してしまった。

 孤独には慣れたつもりだった。

 だが、慣れたのではなく、感情が麻痺していただけだったのだろう。

 みんなと過ごすうちに、その麻痺は少しずつほどけていた。

 だから今、一人になった途端、忘れたはずの寂しさが胸を締め付けてくる。


「ダメだ眠れない!」


 俺は部屋を飛び出していた。


 外の風は涼しかった。

 改めて新しい家を見る。

 とても立派な造りだった。

 今まで俺たちとは別々だったネモとシアも一つ屋根の下で暮らしている。

 カトレアや客人が泊まりに来ても良いように空き部屋もいくつか作っている。

 二人ともとても喜んでいた。


「せっかく建てたけど、慣れるまでは……」


 俺は前の家に戻ってきていた。

 一人なのは変わらない。

 だが、少しは気持ちが落ち着いた。

 快眠はできなかったが、眠ることはできた。


 翌日。

 俺は一人で人間国に出ていた。

 毎日のように眠れない状況を続けるわけにはいかなかった。

 いろいろと役立ちそうなものを見て回っていた時、茶葉を扱う店の前を通りかかった。

 そこで前にネモから貰ったお茶に癒されたのを思い出して、店に入ることにした。


「茶葉って色々あるんだな」


 たくさん並ぶ茶葉を眺める。

 それぞれ風味も効能も淹れ方も異なる。

 しばらく見て回ったが不眠に効く茶葉にも種類があり、素人の自分では決めかねてしまう。


「すみません、眠れない人向けのおすすめはありますか?」


 この店の店員は物静かで口数が少ない。

 だからこそ俺からでも話しかけることができた。


「あ……それでしたらカモミールのハーブティーはいかがでしょう」


 店員に勧められたお茶を試飲させてもらう。

 甘く優しい香りがして、気持ちが落ち着くようだった。


「ありがとうございます。

 こちらをいただけますか?」

「はい……お買い上げありがとうございます」


 目的のハーブティーも購入し、帰ろうとしたその時。

 茶葉を見に来た女性客とすれ違った。


「えっ!?」


 すれ違いざまに一瞬だけ見えた顔に驚愕した。

 思わず振り返ると、そこには懐かしい顔があった。

 胸が締め付けられる。

 その人は俺にとって初めてできた大切な人であり、恩人。

 そして、俺に名前を与えてくれた人。


「アンジェ……さん?」


 とても信じることができなかったが、ソルヌで亡くなったはずのアンジェさんの姿がそこにあった。

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