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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十章 竜人国の厄災
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 ルナは実力の差を痛感していた。

 カムイさんに隙がない。

 反撃を狙おうとした時には既に相手は動いている。

 圧倒的な戦闘経験の差。


 口の中には血が混じる。

 骨も何本か折れているみたいだった。

 身体を動かすと痛い。

 自分の身体じゃないみたいな感覚だった。


「ネモちゃん、カトレアちゃん、アーティちゃん。

 特訓してくれたのに、ごめんなさい」


 みんなルナのために時間を使ってくれた。

 それが無駄になってしまうかもしれない。


「シアちゃん、お兄ちゃん。

 心配かけちゃって、ごめんなさい」


 ルナを見守るシアちゃんとお兄ちゃんの表情は痛々しかった。

 そんな表情をさせてしまっていることが申し訳なかった。


「リンちゃん、泣かせちゃってる。

 ママなのに守ってあげられない……」


 リンちゃんはボロボロになったルナを見て泣いている。

 その姿が、一番心にくるものだった。


 正面からカムイさんが斬り込んでくる。

 ルナには受け止めることも、避けることもできない。

 振り下ろされる剣が、ひどくゆっくりに見えた。


「ルナはリンちゃんのママになれて幸せだったよ。

 リンちゃんはどうだったのかな?」


 ルナの瞳には涙が流れていた。

 視界が歪む。

 せめて最後まで全力を尽くす。

 それがママとして果たせる最後の使命だった。

 残ったすべての力を振り絞り魔法を唱えようとした。

 その時。


「ママを泣かせるな!」


 リンちゃんが、一直線にルナとカムイさんの間合いに入ってくる。

 あまりの速さにみんなが反応できないでいた。

 後ろからカトレアちゃんが飛び出す。

 でも、その俊足ですら追いつけない。


「リンちゃん危ない!」


 ルナは叫ぶと、無意識に動いていた。

 その時、温かい魔力が自身の魔導回路を巡るのを感じた。

 なんだか懐かしさを覚える。

 この力ならリンちゃんを守れる。

 ルナは身をゆだね、詠唱を開始する。


「なっ!」


 カムイさんは視界の外からリンちゃんが駆け込んでくるのに気付いた。

 その動きは今までに見た誰よりも速く感じた。

 周囲が止めきれないのも無理もない。

 そして、既に剣は振り下す寸前だった。

 止めきれなさそうだった。

 このままではリンちゃんが斬られてしまう。

 その瞬間。


「《聖天使結界》!」


 ルナの前に天使が出現し、結界を展開した。

 天使の羽で包み込むようにルナとリンちゃんを守る。


「聖魔法……!?」


 お兄ちゃんが驚いた表情をしていた。

 聖魔法……ルナのママが助けてくれたんだ。


「ぐっ……!」


 カムイさんは結界に弾き飛ばされ、奇岩に身体を叩きつけられる。


「リンちゃん……危ないことしちゃダメだよ……

 でもルナのせいだよね、ごめんね。ありがとう」

「ママごめんなさい、ママ死んじゃうかもって思ったら」


 ルナはリンちゃんを抱き締めた。

 周囲はみんなその光景を見て涙していた。

 お兄ちゃんも顔を伏せている。


「痛てて……」


 カムイさんは起き上がるとこちらに歩いてきた。

 深手は負っているが、しっかりした足取りだった。

 カムイさんはまだ動けるようだった。


 それに対してルナはもう魔力の限界だった。

 もう戦うことはできない。

 リンちゃんをこれ以上悲しませたくはなかった。

 ルナは負けを認めることにした。


「ルナの負けです。

 これ以上、リンちゃんを悲しませたくない。

 でも、リンちゃんの元に毎日会いに行くことをお許しください!」


 ルナは頭を下げた。

 自分の力で守り切れない。

 それがとても悔しかった。

 リンちゃんは一族に返すべきだろう。

 本当は片時も離れたくなかった。

 だからこれがせめてもの願いだった。


「ルナちゃん……」

「ルナサマ……」


 シアちゃんとアーティちゃんも、ルナの表情を見て察してくれた。

 それ以上は何も言わなかった。


 カムイさんは少し考えるようにして目を閉じた後、口を開く。


「姉上の娘はあなたたちに託します。

 娘をよろしくお願いします」


 カムイさんの言葉が信じられなかった。

 想像とは反対の内容だった。


「ルナは負けたはずじゃ……」


 相手にもならないくらいに惨敗だったはずだ。


「私はそもそも力を試すとは言いましたが、勝負とは言っておりません。

 私は姉上の娘を斬りそうになった。

 それをあなたが守ってくれた。

 それで十分、娘を託すに値します」


 カムイさんは穏やかな表情だった。

 剣も収められており、戦意はなかった。


「それじゃあ……」

「はい、娘を守っていただきありがとうございました」


 ルナはカムイさんに認められた。

 それが何より嬉しかった。

 みんなもルナたちの元に駆けつけてくれた。


「やったなルナ!」

「ルナちゃんおめでとう!」

「ルナサマ、信じてマシタ」

「ルナかっこよかったぞ!」

「ルナちゃんの根性見習わないとな」


 みんなが祝福してくれる。

 自然と笑顔になっていた。


「ママ、元気になった。うちも嬉しい」


 リンちゃんも笑顔になった。

 その瞬間、雨が上がり、雲間から光が差し込む。

 祝福するかのように空は晴れ渡り、大きな虹が渓谷に架かった。


「リンちゃん!これからもずっと一緒だよ」


 ルナはリンちゃんのママとして認められた。

 これからは命に代えてでも守り抜く、そう心に誓った。



 ――第十章 完――

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