ルナの試練
力試しの日。
俺たちは竜人国の渓谷に来ていた。
天気はあいにくの雨模様。
戦闘に影響が無ければよいが。
「お待ちしておりました」
カムイさんが正座で出迎えてくれた。
武士のような佇まいに、見ている方も背筋が伸びる。
「ルナ頑張れよ!」
俺はルナに声援を送る。
ルナは緊張しているのか、顔が引きつっている。
「ルナサマ……」
「ルナちゃんファイト!」
「ルナちゃん、特訓を思い出して!」
「ルナ!あたしは信じてるぞ」
「ママ!がんばれ~」
みんなもルナの応援をする。
ルナは深呼吸をすると、自分の頬を手で叩く。
表情は戻り、前を見据えた。
「お願いします!」
ルナは前に進み、カムイさんとの間合いに入る。
こうして、力試しが始まった。
「《土壁》」
ルナが詠唱し、地面が隆起する。
土壁によって防御を固める。
「いい魔法だ」
カムイさんは剣を振ると、風が起こり、土壁を吹き飛ばす。
「《大火球》!」
土壁が壊されてすぐに、火球を飛ばす。
ネモが教えていた戦術だ。
防御を展開しつつ、不意をつく攻撃を入れる。
身を守りつつ、攻撃につなげられる。
「あたしが教えたこと実戦してくれてるな」
ネモが嬉しそうに語る。
「なるほどな」
不意を打つ形となるが、カムイさんは軽々かわす。
「次はこちらの番だ」
カムイさんが剣を振る。
ルナはそれを回避し、反撃に転じる。
だが、カムイさんは素早く詠唱すると。
「《水瀑布》」
水が滝のように降ってくる。
ルナは反応しきれない。
「うわぁ!」
水を思い切り受けてしまう。
なんとか風魔法で水から抜け出すが、体勢を立て直せない。
カムイさんは容赦なく斬り込んでくる。
「《障壁》!」
ルナはなんとか障壁で剣を防ぐ。
だが、勢いまでは殺しきれず、吹き飛び地面に叩きつけられた。
うまく受け身を取って衝撃を逃がす。
カトレアが教えたものだ。
「ルナちゃん、うまくできているね」
カトレアもルナを褒める。
「しっかりと近接対策はしているようだが、甘いぞ!」
「《土礫》」
ルナは攻め込んでくるカムイさんに向けて土礫を放つ。
カムイさんはそれを剣ですべて薙ぎ払った。
「そんな……」
「どうした、もう終わりか?」
カムイさんが剣を振るい、風を起こす。
ルナは回避も防御も間に合わず、再び吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。
「かはっ!」
「ママ!」
ルナは口から吐血する。
雨によって木が濡れていなければ、それだけでは済まなかっただろう。
実力差もさることながら、圧倒的な戦闘経験の差。
剣術も魔法も使いこなせるカムイさんに対し、魔法だけで戦闘経験が浅いルナ。
結果は歴然だった。
ルナを見るリンちゃんも泣きそうな顔になっている。
「私は殺すつもりはない。
降参して娘を返してもらえればそれでいい」
カムイさんは冷淡に言い放つ。
期待外れとでも言いたげな様子だった。
「ま、まだです。まだ負けていません」
ルナは立ち上がり、構える。
既に満身創痍だったが、闘志はまだ死んでいなかった。
「そうだ、それでいい。いくぞ《風の刃》!」
「《土円蓋》!」
ルナの周りを土で出来た円蓋が覆う。
風の刃を土の円蓋で防ぎ、受けきる。
それを見たカムイさんは円蓋に剣で斬り込む。
「なかなか防御の高い魔法だ」
なかなか剣の刃が通らない。
カムイさんは感心する。
アーティに教わっていた魔力制御。
円蓋の形を小さくすることで、防御を上げている。
「ルナサマ……」
ルナの身体を心配する気持ちと、教えたことができるようになった喜びが入り混じった感情を抱いている。
複数の感情を同時に抱いた時の処理は苦手なようだった。
円蓋はしぶとく剣の衝撃を抑えていた。
だが、その円蓋も最後には剣の前に崩れ去る。
「《豪炎球》!」
ルナが使う最上級の魔法。
先ほどと同じ、壁で作った隙を狙った攻撃。
だが、今回は威力が大きく、カムイさんでもかわすことはできないだろう。
「いい魔法だ。
想像以上に考えて戦っている。
だが、これはどうかな《水龍弾》!」
カムイさんは詠唱すると、龍の形をした水を撃ちだした。
豪炎球は飲み込まれ、そのままルナへ向かう。
ルナは咄嗟に防御するが、水に飲み込まれる。
「ルナ!」
「ルナちゃん!」
ネモとカトレアが声を上げる。
「もう見てられないよ……」
「ルナサマ、心配デス……」
シアとアーティは互いに抱き合いながら見守る。
そうでもしないと、目を背けてしまうからだろう。
「ルナ……」
俺は無理しなくていい、降参していいと言ってあげたかった。
だが、ルナが諦めるまでは、それを口にすることは憚られた。
「勝負あったか……」
カムイさんは、倒れるルナを見て、背を向けようとした。
その時。
「ま、まだ……、まだルナは……」
ルナは立ち上がる。
意識も朦朧とし、本来なら立ち上がることすらできないほど負傷している。
リンちゃんへの思いだけが身体を動かしていた。
「根性はあるな。
娘を守りたいという気持ちは本当のようだ。
だが、身体は限界だろう。
なら、今楽にしてやろう」
相当無理をしていることが痛いほど伝わってくる。
このまま続けたら、二度と戦えない身体になってしまうかもしれない。
カムイさんはさらに魔力を身に纏い、ルナへ向かって一直線に走り出した。




