↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十章 竜人国の厄災
114/144

娘の幸せ

 盟約により身柄を一時的に預けていたリンちゃんが、

 厄災の解決に伴い解放された。

 兵士たちに付き添われながら歩いていた。

 そこで俺たちの姿を見つけて、一目散に走って来る。


「ママ!ママ!」


 リンちゃんはルナに飛び掛かるように抱きつく。


「リンちゃん!怖くなかった?怪我してない?」


 リンちゃんを受け止めて抱き返すと、母親のような心配の言葉をかける。


「全然平気だったよ、みんな優しかった。

 それに美味しいもの、たくさんもらったんだ」

「それは良かったね」


 抱き合う二人は正真正銘、本物の親子に見えた。

 俺たちは二人のことを微笑ましく見守っていると。


「この子が姫巫女の娘か……。

 若い頃のわらわにそっくりじゃのう」


 先々代姫巫女がこちらに近づいてきた。

 確かに同じ白髪に目元の形がそっくりだった。

 リンちゃんも先々代姫巫女と同じ姫巫女装束を着せられているため、

 傍から見れば姉妹にしか見えなかった。


「先祖や後代は自身の娘をよく手にかけられたものだ……」


 先々代姫巫女は静かに空を見上げた。

 子に恵まれなかった先々代姫巫女にとって、初めて見る末裔だった。

 先々代姫巫女はリンちゃんの頭を撫でると、慈愛の表情を浮かべる。

 リンちゃんはされるがままに目を細めていた。


「む……、そろそろ時間か。

 お主は良き家族に恵まれたのう。

 家族は大事にするんじゃぞ」

「うん、わかってるよ」


 そう言うと先々代姫巫女の姿が消えた。

 俺が分け与えた魔力が尽きたからだろう。

 せっかくだし、再び呼ぼうとした瞬間。


「魔力が使えない……」


 体内の魔力が扱えなくなっていることに気付いた。

 魔力自体は体内に存在している。

 うまく制御ができなくなっているだけだった。

 大量の魔力の出力に魔導回路が耐えられなかったのだろう。

 いずれは治るが、時間はかかりそうだった。


「みんな楽しそう!うちも行きたい!」

「そうだね、リンちゃんも踊ろうか」

「ワタシも行きマス」


 リンちゃんが歓喜の輪を見て、はしゃいでいる。

 そのまま駆け出そうとしていたので、ルナとアーティが連れて行こうとした時。


「ロイさん、皆さん」


 カムイさんたちがこちらに歩いてきた。

 同じ姫巫女の関係者らしき人物も引き連れている。


「この度は、姉上の娘を救っていただき、誠にありがとうございました」


 カムイさんが深々と頭を下げる。

 それに合わせ、周りの人々も頭を下げた。


「いえいえ、俺たちも大切な家族のために尽くしたまでです」


 その言葉に周囲の人々の表情が険しくなった。

 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

 カムイさんが周囲を窘めるように制すると。


「折り入って話があります。

 姉上の娘のことです」


 大体察しはついた。

 到底飲めない要望がくるだろう。

 俺は険しい表情を作る。


「娘を私どもにお引き渡し願いたい」


 その一言で空気が重くなった気がした。

 ルナとアーティが警戒するようにリンちゃんの前に立つ。


「我々としては同じ一族であり、亡き姉上の形見を守る義務があります。

 厄災が解決した今、犠牲にするようなことは致しません。

 一族、いえ……国の力をもって、守り育てるつもりです」


 言いたいことは理解できる。

 一族という言葉は重い。

 姫巫女の直系の子はリンちゃんしかいない。


「ですが、今回リンちゃんを守ったのは俺たちです。

 俺たちも守ることはできるはずです」


 周囲の視線が痛い。

 だが、今まで使命で犠牲を強いることを良しとするような、勝手な連中には不信感がある。

 実際、リンちゃんを守ろうと動いていたのはカムイさん一人だった。


「もちろん娘を救ったのはあなたたちであり、我々は力及ばずでした。

 ですが、それは厄災という未曾有の相手であるところが大きかったかと。

 一般的な問題であれば国の力に勝るものはないでしょう」


 国を相手にすれば、俺たちの戦力では見劣りするのも事実だった。

 かたや六人だけの力、かたや国そのものの力。

 どちらがより守ることができるかは明白だった。


「リンちゃんは楽しそうに毎日を過ごしています。

 それに笑顔が絶えない。

 俺たちの方がリンちゃんを幸せにできると思います」

「では、あなた方は竜人の子を育てることはできますか?

 不自由ない暮らしをさせてあげることはできますか?」


 痛いところをつかれてしまった。

 充実した居住空間、栄養のある食事、それに必要な学習の機会。

 俺たちでは与えられないものになる。

 ふと振り返ると、リンちゃんは怯えるようにルナの後ろに隠れている。

 ルナは意を決したようにリンちゃんの肩に手を置く。


「リンちゃんはどうしたい?

 リンちゃんの願いがルナの願いだよ」


 ルナが真剣な表情でリンちゃんのことを見る。


「姫巫女の娘が外で育つなど前例がありません」

「血筋より大事なものなどないでしょう」

「よそ者などに我々の高貴な一族を任せられるか!」


 一族の者たちから横やりが入る。

 中にはあまりにも聞くに堪えない言葉もあった。

 リンちゃんは完全に委縮してしまっている。


「黙れ!」


 カムイさんが一喝する。

 膨大な魔力を前に一族の者たちがしり込みする。


「やめんか、無礼者どもが。

 仮にも国を救った英雄たちに向ける言葉ではない」


 カムイさんはこちらを振り返ると、膝をつき、地に頭をつける。


「娘があなた方にどれだけ愛されているかは存じ上げております。

 無理に引き離すような真似はしたくない思いはあります。

 ですが一族の代表として、いえ……姉上の娘の幸せを考えるのであれば、

 恨まれるような役回りだって上等です」


 彼なりの葛藤もあるのだろう。

 周囲の一族の者とは違い、俺たちに歩み寄りたい気持ちはあるのだろう。

 だが、娘の幸せを願うのであれば俺たちに預けるという選択肢を取れない。

 もし俺がカムイさんの立場でも同じことをしている。


「うちはママと一緒がいい。

 それにあの人たち、うちのことを人として見てないもん」


 リンちゃんは答えた。

 やはり、子供は顔色に敏感だった。


「お気持ちはわかりますが、リンちゃんは俺たちにとっても大事な家族です。

 彼女の意志なくお渡しすることはできません」


 俺は断固とした態度を取る。

 カムイさんもリンちゃんの意志表示を見た手前、俺たちが折れないと察したのだろう。


「ならば最後に一つだけ」


 カムイさんは俺たちを真っ直ぐ見据え、懐の剣を抜いた。


「それでは、あなたたちが本当に娘を守れる力があるか、試させてもらいたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。