成就
俺の中の負の感情は跡形もなく消えていた。
そして、目の前の負の感情たちも力なく蠢いている。
正の魔力が俺を守ってくれていた。
身体に正の魔力が溢れてくる。
温かい。
心の底まで浸透するようなぬくもり。
竜人国の国民、兵士、それに国王や宰相、カムイさん。
誰かを愛する気持ち、国を愛する思いが流れ込んでくる。
そして全員が俺のことを応援してくれているのも伝わってきた。
先々代姫巫女、それに海巫女の思いも流れ込んでくる。
言葉ではそっけなかったが、本心では俺の無事を願ってくれていた。
一人ひとりは小さいかもしれないが、みんなの思いが集まって、とても強大な魔力になっていた。
「カトレア、ルナ、ネモ、シア、アーティ……」
みんなの気持ちも流れてきた。
全員が俺の身を案じてくれている。
それに必ず帰ってくると、信じてくれている。
一度でも諦めかけた自分が許せなくなった。
そして幼い頃の俺。
心の奥底に残っていた、小さな願い。
負の感情に完全に飲まれなかったのも、その存在があったからだ。
ならば、彼の願いを叶えてあげなければ。
「幼き頃の俺よ、見てるか?
お前が描いた魔法がみんなを癒すところを!」
過去の記憶でみた魔法陣の形を思い浮かべる。
子供が見よう見真似で書いた魔法陣なんて、本来は成立するはずがないものである。
だが、俺には確信があった。
絶対にこの魔法は発動する。
魔導回路でその形を再現し、魔力を込める。
正の感情が生み出した魔力が呼応する。
「《慈愛と祝福》!」
詠唱すると頭上に魔法陣が展開される。
幼き日に壁に描いたものだ。
魔法陣は輝きを放ち、聖歌のような音色となる。
その音色が負の感情を浄化していく。
浄化される間際、みんな笑顔を浮かべているようにも見えた。
音色は結界の外にも響き渡り、人々の心を優しく包み込む。
ある者は涙を流している。
心に燻る負の感情が、涙として流れ落ちていくようだった。
最後にはみんな穏やかな表情になっていた。
心の中で、幼い頃の俺が微笑みながら「ありがとう」と言ったような気がした。
「やってくれたのう」
「奇跡を見せてもらったね」
二人の巫女も結界の中に温かい視線を送っていた。
ようやく二人の表情が和らいだ。
彼は負の感情に打ち勝ったのだ。
音が止む頃には厄災の本体だけが残されていた。
もう負の感情は残っていない。
本体だけが力なく立ち尽くしていた。
「これで終わりだ!」
俺は刀を振り下ろす。
抵抗もなく、本体は二つに裂かれた。
魔導回路が完全に分断されたのを確認した。
目的は果たせた。
後は巫女の二人に任せるだけだ。
「すみません!封印お願いします!」
俺は結界から飛び出して叫ぶ。
それを見た、二人の巫女が詠唱を始める。
「「《巫女式結界封印術》!」」
結界が光を放つとどんどん縮小していく。
そして、合わせて中の厄災の本体も縮小する。
最後には、結界とともに厄災の本体は消滅した。
しばらくの静寂の後、一斉に歓喜の声が広がる。
「やった!この国は救われたぞ!」
「もう怯えなくて済むんだな!」
「厄災で亡くなった両親も報われる……」
兵士たちが歓声を上げる。
「やりましたね、陛下」
「ああ、やったな!」
宰相と国王も感慨深くその光景を見守っている。
今度は心の底から喜んでいた。
これでもう誰かを犠牲にする必要はなくなったのだ。
二人が長年背負ってきた願いが、ようやく報われた。
「これで姉上も浮かばれるだろう……」
カムイさんは懐からロケットペンダントを取り出す。
胸元で抱き締めながら、涙を流していた。
中の姉の写真が微笑んだように見えた。
「よくやった!」
先々代姫巫女に声をかけられる。
興奮しているようで、普段見せないような表情をしていた。
「みんなのおかげです。
みんなの祈りが無ければ、負の感情に屈していました」
「それでもやったのはお主の功績じゃ。
本当に、よくぞ戻ってきてくれたのう」
ふと辺りを見渡すが海巫女の姿が見えなかった。
「海巫女様は?」
「あやつならさっさと消えおったわ。
相変わらず素直じゃないやつじゃ」
海巫女の分身は封印完了と同時に消えたようだった。
後で直接お礼をしなければいけないな。
「それにしてもやったんだな……」
まだ実感が湧かなかった。
しばらく感傷に浸って立ち尽くしていると。
「ほれ、ぼさっとしてないで、お主の仲間の元へ行ってやれ!」
先々代姫巫女に背中を押された。
振り返ると向こうではみんなが待っていた。
「ロイ、無事で良かった……!」
「お兄ちゃん!すごかったよ!」
「やったな!ロイ!」
「ロイくんさすがだよー!」
「ロイサマ……」
カトレア、ルナ、ネモ、シア、アーティ。
みんなが笑顔で俺を出迎えてくれた。
本当にみんなには感謝してもしきれない。
謝りたいこともあるけど、まず言うべきことは一つ。
「ただいま」
「「「「「おかえりなさい!」」」」」
こうして厄災は封印され、俺はみんなの元へ戻ってくることができたのだった。




