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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十章 竜人国の厄災
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成就

 俺の中の負の感情は跡形もなく消えていた。

 そして、目の前の負の感情たちも力なく蠢いている。

 正の魔力が俺を守ってくれていた。

 身体に正の魔力が溢れてくる。

 温かい。

 心の底まで浸透するようなぬくもり。


 竜人国の国民、兵士、それに国王や宰相、カムイさん。

 誰かを愛する気持ち、国を愛する思いが流れ込んでくる。

 そして全員が俺のことを応援してくれているのも伝わってきた。

 先々代姫巫女、それに海巫女の思いも流れ込んでくる。

 言葉ではそっけなかったが、本心では俺の無事を願ってくれていた。

 一人ひとりは小さいかもしれないが、みんなの思いが集まって、とても強大な魔力になっていた。


「カトレア、ルナ、ネモ、シア、アーティ……」


 みんなの気持ちも流れてきた。

 全員が俺の身を案じてくれている。

 それに必ず帰ってくると、信じてくれている。

 一度でも諦めかけた自分が許せなくなった。


 そして幼い頃の俺。

 心の奥底に残っていた、小さな願い。

 負の感情に完全に飲まれなかったのも、その存在があったからだ。

 ならば、彼の願いを叶えてあげなければ。


「幼き頃の俺よ、見てるか?

 お前が描いた魔法がみんなを癒すところを!」


 過去の記憶でみた魔法陣の形を思い浮かべる。

 子供が見よう見真似で書いた魔法陣なんて、本来は成立するはずがないものである。

 だが、俺には確信があった。

 絶対にこの魔法は発動する。

 魔導回路でその形を再現し、魔力を込める。

 正の感情が生み出した魔力が呼応する。


「《慈愛(ブレス)(オブ)祝福(アフェクション)》!」

 詠唱すると頭上に魔法陣が展開される。

 幼き日に壁に描いたものだ。

 魔法陣は輝きを放ち、聖歌のような音色となる。

 その音色が負の感情を浄化していく。

 浄化される間際、みんな笑顔を浮かべているようにも見えた。


 音色は結界の外にも響き渡り、人々の心を優しく包み込む。

 ある者は涙を流している。

 心に燻る負の感情が、涙として流れ落ちていくようだった。

 最後にはみんな穏やかな表情になっていた。


 心の中で、幼い頃の俺が微笑みながら「ありがとう」と言ったような気がした。


「やってくれたのう」

「奇跡を見せてもらったね」


 二人の巫女も結界の中に温かい視線を送っていた。

 ようやく二人の表情が和らいだ。

 彼は負の感情に打ち勝ったのだ。


 音が止む頃には厄災の本体だけが残されていた。

 もう負の感情は残っていない。

 本体だけが力なく立ち尽くしていた。


「これで終わりだ!」


 俺は刀を振り下ろす。

 抵抗もなく、本体は二つに裂かれた。

 魔導回路が完全に分断されたのを確認した。

 目的は果たせた。

 後は巫女の二人に任せるだけだ。


「すみません!封印お願いします!」


 俺は結界から飛び出して叫ぶ。

 それを見た、二人の巫女が詠唱を始める。


「「《巫女式結界封印術》!」」


 結界が光を放つとどんどん縮小していく。

 そして、合わせて中の厄災の本体も縮小する。

 最後には、結界とともに厄災の本体は消滅した。


 しばらくの静寂の後、一斉に歓喜の声が広がる。


「やった!この国は救われたぞ!」

「もう怯えなくて済むんだな!」

「厄災で亡くなった両親も報われる……」


 兵士たちが歓声を上げる。


「やりましたね、陛下」

「ああ、やったな!」


 宰相と国王も感慨深くその光景を見守っている。

 今度は心の底から喜んでいた。

 これでもう誰かを犠牲にする必要はなくなったのだ。

 二人が長年背負ってきた願いが、ようやく報われた。


「これで姉上も浮かばれるだろう……」


 カムイさんは懐からロケットペンダントを取り出す。

 胸元で抱き締めながら、涙を流していた。

 中の姉の写真が微笑んだように見えた。


「よくやった!」


 先々代姫巫女に声をかけられる。

 興奮しているようで、普段見せないような表情をしていた。


「みんなのおかげです。

 みんなの祈りが無ければ、負の感情に屈していました」

「それでもやったのはお主の功績じゃ。

 本当に、よくぞ戻ってきてくれたのう」


 ふと辺りを見渡すが海巫女の姿が見えなかった。


「海巫女様は?」

「あやつならさっさと消えおったわ。

 相変わらず素直じゃないやつじゃ」


 海巫女の分身は封印完了と同時に消えたようだった。

 後で直接お礼をしなければいけないな。


「それにしてもやったんだな……」


 まだ実感が湧かなかった。

 しばらく感傷に浸って立ち尽くしていると。


「ほれ、ぼさっとしてないで、お主の仲間の元へ行ってやれ!」


 先々代姫巫女に背中を押された。

 振り返ると向こうではみんなが待っていた。


「ロイ、無事で良かった……!」

「お兄ちゃん!すごかったよ!」

「やったな!ロイ!」

「ロイくんさすがだよー!」

「ロイサマ……」


 カトレア、ルナ、ネモ、シア、アーティ。

 みんなが笑顔で俺を出迎えてくれた。

 本当にみんなには感謝してもしきれない。

 謝りたいこともあるけど、まず言うべきことは一つ。


「ただいま」

「「「「「おかえりなさい!」」」」」


 こうして厄災は封印され、俺はみんなの元へ戻ってくることができたのだった。

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