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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十章 竜人国の厄災
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七重奏

 満月の夜、月が頂きに到達する。

 その瞬間、祠から禍々しい魔力が噴き出す。

 そして少しずつ形を成していく。


「うわぁ……」

「何と言うことだ……」

「ひぃぃ……」


 分身体はキメラの姿へと変貌した。

 竜人国の兵士たちの一部が恐怖で声を漏らす。

 分身体は人々の脅威となる姿として具現化する。

 何人かは、かつてそのおぞましい姿を目の当たりにしている。

 その畏怖が、形となって現れたのだろう。


「なるほど、あの時の魔物の姿か」

「忌々しいな」


 宰相と竜人国国王が呟く。

 大事な兵士の命だけでなく、国の英雄の亡骸まで奪われている。

 因縁の相手と言っても差し支えなかった。

 分身体は完全に実体化を果たす。


「よし、今じゃ!宝具を奏でるのじゃ!」


 先々代の姫巫女の合図で七人は一斉に宝具を奏でる。

 俺に与えられた宝具は横笛だった。

 生まれてこの方、一度も奏でたことはなかった。

 だが、慣れ親しんだ物のように身体が馴染む。

 宝具の方から導いてくれているようだった。

 魔力の強弱や、流す経路によって音を変化させる。

 俺の役割は主旋律であり、この演奏の土台となる。


 壮大な演奏だった。

 練習もしていないというのに、全員の息が完璧に合っている。

 七つの音が重なり、一つの旋律となる。

 誰か一人でも欠ければ成立しない。

 それぞれ違う音色でありながら、不思議と調和していた。

 これは演奏であり、魔法であった。


「素敵な音色だね……」

「ああ、なんだか泣きそうだ……」

「心が洗われるようだ……」


 シアとネモとカトレアは演奏に心を奪われていた。

 三人だけではない。

 竜人の兵士たちも同様にその音色に静かに耳を傾け、各々思いに耽っている。

 そして、その音は風に乗り、遥か遠くへ届く。

 避難所で不安を抱える国民の心さえも癒していった。


 俺は視線を隣に向ける。

 ハープに似た宝具を奏でるのはルナ。

 先々代姫巫女いわく、箜篌という楽器に近いものらしい。

 奏でる姿は王女の風格を感じさせ、靡く金髪は満月と同じ輝きを見せる。

 目を閉じ、周りの空気を支配するような音色を指先で操る。


 箏を奏でるのはアーティ。

 魔力制御の精密さが演奏にも表れており、弦すべてがまるで生きているようだった。

 演奏しているというより、歌っているという表現の方が相応しかった。


 縦笛を奏でるのはカムイさん。

 凛とした佇まいには、姫巫女の血筋を感じさせるものがある。

 力強さと優しさの両方を兼ね備えた音色だった。

 副旋律として俺の音に厚みを加えてくれている。


 弓で弦を弾き音を奏でるのは竜人国の国王。

 先々代姫巫女いわく、胡弓という楽器に近いものらしい。

 国を治める者としての覚悟や決意が音に乗り伝わってくる。


 鼓の宝具を奏でるのは宰相。

 派手さは無いが拍の中心であり、全体を支える、縁の下の力持ちである。

 拍を刻むことで七人の演奏に安定感を持たせている。


 そして、この宝具の中心であり、主役である神楽鈴を奏でるのは先々代姫巫女。

 その姿は舞うように美しく、妖艶さを感じさせる。

 音に込められた魔力は、この鈴によってさらに強められる。


「おお!魔物が苦しんでいるぞ」

「力が抜けていくようだ」


 分身体は音の魔力で縛り付けられ、身動きが取れなくなっている。

 苦しみから漏れる悲鳴さえ、その神聖な旋律に呑み込まれ、演奏の一部になっていた。

 演奏が進むにつれ、負の感情が浄化される。

 それにより分身体は徐々に力を失う。

 演奏が終わる頃には存在を維持するのがやっとの状態だった。


「これでしまいじゃ」


 先々代姫巫女が最後の鈴を鳴らす。

 その音が聞こえなくなるまでが長く感じられる。

 一瞬の静寂。

 そして拍手の代わりと言わんばかりに兵士たちの士気が高まる。

 それを見た竜人国の国王が号令を出す。


「皆の者!国を脅かす厄災を討ち取れ!」


 その一言で兵士たちは一斉に分身体に攻撃を開始する。


「あたしたちも行くぞ!」

「みんなに負けてられないね!」

「ああ、私も力がみなぎるようだ」


 ネモとシアとカトレアも加勢する。

 激しい攻撃に、分身体は為す術なく崩れ落ちていく。

 そして最後には完全に消滅した。

 これでリンちゃんは人身御供にならなくて済む。

 俺は胸を撫で下ろした。


「やったぞ!厄災を倒した」

「我々が倒したのか……」


 あちこちで兵士たちの歓声が上がる。

 厄災の対処に、姫巫女以外の者が関わった初めての偉業となった。

 今日という日は竜人国にとって記念すべき日として刻まれることなるだろう。


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「陛下、やりましたね」

「ああ……」


 私と宰相は、感慨深く兵士たちを見ていた。

 そして、私はふと満月を見上げた。


「もし時の巡りが違っていたなら、君は私の隣にいたのだろうか」


 前回の厄災で犠牲となった幼馴染に思いを馳せる。

 あの明るい笑顔を今も忘れてはいない。


 そして、今代の姫巫女も思うところがあった。

 彼女は娘を守るために命を落とした。

 もう少しだけ時代が違っていれば、彼女も犠牲にならずに済んだのだろうか。


「奴も、我が子をこの手で抱きかかえることができたはずだ」


 母娘が共に生きられる未来も、あったのかもしれない。


「陛下、まだ終わっておりませんぞ」

「そうだな」


 あくまで分身体を倒しただけだ。

 問題の先延ばしでしかない。

 本命は、不完全な封印を施された本体。

 これを倒さねば本当の解決とは言えない。


「この宝具で本体も弱体化させられないだろうか」

「無理じゃな、本体を縛れるほどの力はない。

 それに、本体と戦いながら演奏することなどできんじゃろう」


 先々代姫巫女が答えた。

 宝具自体が対分身体用に作られた代物である。


「ここからはそなたと、ロイ殿に頼るしかない。

 是非国のために力を貸してくれ」


 私は深々と頭を下げる。

 宰相もそれに続き頭を下げた。


「まあわらわもこの国の生まれじゃしな。

 それにこれはわらわの仇討ちでもある」


 彼女は先々代の姫巫女で、厄災を鎮めるため人身御供となった。

 だが、紆余曲折を経て、こうしてここに立っている。


「このような機会を与えてもらって、奴には感謝しておる。

 人生何があるかわからんものじゃ……」


 先々代姫巫女は祠へ歩いていく。

 その背中を見送りながら、私は無事に解決することを祈るしかなかった。

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