七つの宝具
厄災が出現する当日の朝。
俺たちは竜人国に古くから伝わる祠のある遺跡に来ていた。
ここが厄災の本体が封印されている場所であり、分身体が出現する場所でもある。
分身体の出現は満月が空の頂きに到達した瞬間。
それまでは待機となっている。
「それにしてもすごいな……」
周囲を見渡したカトレアが言葉を漏らした。
竜人国軍の兵士たちが、数千人規模で動いている。
国民の避難や警備、そして厄災への対応。
せわしなく動いているが統率が取れている。
その光景は一種のパレードだった。
「ロイさん、こちらにいらっしゃいましたか」
俺に話しかけてきたのはカムイさん。
姫巫女の弟であり、リンちゃんの叔父にあたる。
凛々しい顔つきの青年で、和服を着こなしている。
「どうもです。カムイさん」
俺は会釈をして近づく。
カムイさんたちには分身体に対応すべく、一族に伝わる宝具を持ってきてもらっている。
今は竜人国の兵士たちがそれを並べているところだった。
「あそこにいる少女は姉の娘かい?」
カムイさんがリンちゃんを指さした。
どこか姉の面影があるのだろう。
一目見ただけで気づいていた。
「あの人はだれ?」
リンちゃんがルナの背中に隠れるようにしてこちらを窺っている。
ルナもリンちゃんの前に立ち、守るような体勢を取る。
「彼は姫巫女の弟。
リンちゃんの叔父だよ」
「初めまして、カムイと申します。
姉の娘を保護し、今まで育てて頂きありがとうございます」
カムイさんは深々と頭を下げる。
リンちゃんはルナの背中に隠れたままだが、ルナは少し警戒を解いた。
「確かにどことなく、リンちゃんに似てるかも」
「そうだな、髪の色とか目元とか似てる気がするな」
シアとネモがカムイさんを見て納得していた。
確かに先々代の姫巫女といい、代々顔つきが似ている気がする。
そう思っていると、カムイさんが急にそわそわしだした。
「もしよかったらなんだが、抱っこさせてくれないか?」
カムイさんが懇願していた。
姉の子供を抱きかかえるのが夢だったらしい。
「リンちゃん、抱っこさせてだって」
「抱っこ?いいよ!」
ルナがリンちゃんに確認をし、リンちゃんが了承した。
リンちゃんは成長するにつれ、人見知りではなくなっていた。
最初はルナにしか懐かなかったが、今は誰とでも仲良く接することができる。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて」
カムイさんがリンちゃんを抱きかかえた。
壊れそうなものを扱うような慎重な手つきだった。
「おじさんどうして泣いてるの?」
「……いや、なんでもないよ」
リンちゃんがカムイさんの涙に気づいた。
姉のことを思い出しているのかどうなのかはわからない。
だが、カムイさんにとって、とても幸せなことだったに違いない。
表情はどこか晴れやかだった。
リンちゃんをゆっくりと下ろす。
「ありがとう……」
それだけ言って、カムイさんは去って行った。
去り際の表情は何か決意したように感じられた。
「ねえ……リンちゃん。
リンちゃんはあの人のことどう思う」
「うーんとね、優しい人だとは思うよ」
ルナがリンちゃんに尋ねていた。
もしかしたら、リンちゃんは血縁者の元で暮らした方が幸せなのかもしれないと、
心のどこかで思ったのだろうか。
ルナはとても寂しそうな表情を浮かべていた。
「リンちゃんはあの人のところに行きたい?」
「ママは一緒?」
「ママは一緒じゃないの」
「じゃあ行かない!うちはママとずっと一緒にいるの!」
リンちゃんが笑顔でルナに笑いかけた。
ルナはそれを見て、耐えきれずに泣いてしまった。
リンちゃんを抱き締めて、「うん、うん」って頷いていた。
「ママ、どこか具合悪いの?」
「何でもないよリンちゃん」
俺たちは互いに目配せをすると、ルナのそばへ集まった。
ルナが落ち着くまでの間、俺たちはルナに寄り添った。
俺は宝具を見に来ていた。
魔道具の原型とも言われる宝具だ。
全部で七つ。
どれも楽器の形をしていた。
これを魔力を込めて奏でることで、奇跡を起こす。
カムイさんからそう聞いていた。
「これまた懐かしいものじゃな」
先々代の姫巫女である白髪の少女が懐かしむように見ていた。
彼女なら何か知っているかもしれない。
「奇跡ってなんなんだ?」
「なんじゃ、今そんな伝わり方をしているのか」
この宝具は姫巫女の血が絶えるか、力が衰えた時のためのものである。
膨大な魔力を持つ数人で力を合わせて、厄災の分身を迎え撃つためのものだと教えてくれた。
それを聞いてふと思った。
「それなら姫巫女が犠牲にならなくても、姫巫女と魔力に優れたものがいれば大丈夫では?」
「そうはいかぬ。この宝具を使うのに適した者はどの世代も七人もおらん。
結局は姫巫女の力に頼らざるを得ないのじゃ」
この宝具を扱うことができるのは、相当な魔力の持ち主か、魔力制御に長けたものだけである。
国内で賄うには限界があり、実現しなかったという。
「今回は七人揃っているんだよな」
「そうじゃな。わらわが見立てでは、ちゃんと七人おる」
事前に彼女に鑑定をしてもらっている。
適合者は俺、ルナ、アーティ。
そしてカムイさん、竜人国国王、宰相、先々代の姫巫女。
合わせて七人だった。
当日はこの七人で宝具を使うことになる。
そうこうしているうちに夕日が沈もうとしていた。
日が沈み、月が昇れば、厄災が現れる。
「もうすぐ夜になるな」
「そうじゃな、そろそろ準備せねばな」
俺たちは再び祠の前に向かう。
持ち場につき、宝具を受け取る。
それぞれの立ち位置を線で結ぶと七芒星が出来上がる。
月はそろそろ頂きに達する。
これより七重奏の儀を執り行う――




