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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十章 竜人国の厄災
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自身の成長

 厄災が現れる前日となった。

 俺含め、各々でやるべきことをやっている。

 焦りというより、静かな緊張が漂っていた。

 明日への備えの最終段階と言ったところだ。


 俺は月光の森を散歩している。

 魔力を蓄えるために、森の空気を吸っている。

 日中こうして歩くのは久しぶりだった。

 深淵の森と呼ばれていた頃から見違えるほど、明るい場所だった。

 空気が澄んでおり、新鮮な魔力が漂っている。

 この魔力は世界樹が生み出したものだ。

 自然エネルギーを取り込み、魔力として吐き出す。

 それを世界樹の呼吸と呼んでいる。


「世界樹ってすごいよな」


 枯れた世界樹に触れて呟く。


 過去の戦争で焼き払われて世界樹は燃えた。

 おそらく原型を留めるため、大量の魔力を使い、

 その結果消滅は免れたが、枯れてしまっている。

 枯れてもなお、呼吸をし続けている。


「魔力ってなんなんだろうな……」


 魔力視開眼を使った後から、魔力について考えるようになった。

 魔法を使うために当たり前に使っているもの。

 生まれた時に例外を除き、身体に宿しているもの。

 当たり前のように思っているが、謎が多い。


「魔力について解き明かせさえすれば、過去の俺みたいな人間も救われるんだろうな」


 魔法についてばかり重要視されるが、本来軽視してはいけないものだ。

 俺は魔力について学びたいと思った。


 しばらく、物思いに耽っていると、声が聞こえてきた。


「リンちゃん、魔法はこうやって打つんだよ」

「こう?」


 ルナがリンちゃんに魔法を教えている。

 いろいろ試しているところみたいだった。


 リンちゃんが手で水の球を作り、放った。

 威力はまだ弱いが、形にはなっている。

 紛れも無く、水球だった。


「そう、すごいね」

「うちすごい?」


 ルナがリンちゃんを撫でていた。

 リンちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしている。

 リンちゃんはあれからさらに成長している。

 精神的な年齢はまだ幼いが、身体的にはシアくらいになっている。


「これは!」

「うーん、だめかも……」


 炎属性の魔法も試しているがうまくはいっていないようだった。

 一緒にいたアーティに聞くと、リンちゃんは水属性を得意としていて、

 風属性も副適性として持っているとのことだった。


「次はアーティちゃんに、空飛ぶのを教えてもらってね」

「わかった、アーちゃんに教えてもらう!」


 アーティとリンちゃんは広い場所へ歩いていった。

 ルナは切り株の上に座って休憩している。


「ルナ、お疲れ様」

「お兄ちゃん、ありがとう!」


 俺はルナの隣に腰掛ける。

 リンちゃんばかりに意識が向いていたが、ルナも心身ともに成長していた。

 顔つきが少し大人びた感じがする。

 エルフの特徴なのか身長はほとんど伸びていないが、全体的に少し大きくなったように感じる。

 だが、特筆すべき点は心の成長の方だ。

 人に教える立場になっている。

 それに、最近は自主練として魔法を一人で撃っているところも見かけている。


「ルナはさ、どういった魔術師になりたい?」

「うーんとね、みんなを守れる魔術師になりたいかな」


 俺が前に言った言葉がルナを変えたのだろうか。

 ルナの中での目標が少しずつ明確になりつつある。


「そっか……。

 じゃあ難しい質問になるかもだけど、守れる魔術師になるためにはどうすべきだと思う?」

「たくさん練習して、たくさん勉強して、たくさん経験を積むことかな?」


 ルナの回答は優等生的な模範解答だった。

 魔法というのは練習と勉強という努力と実践によって培われる。

 それは紛れもない事実だ。


「そうだね、まだ半分ってところかな。

 もちろん魔法は上達すると思う」

「えー、じゃあ何が必要なの?」


 ルナが首を傾げる。


「それはね、守るためにはどういう魔法を選択すべきか考えることだよ」


 守り方にはいろいろな方法がある。

 シアのように回復魔法で傷を癒すというのが王道ではある。

 だが、ネモのように脅威から力で守るという選択肢もある。


「確かに、カトレアちゃんとシアちゃんは明確だね」


 彼女たち姉妹は互いを守るため、それぞれ異なる道を選んだ。

 実際の適性は逆だったが、それでもその道を極めた。


「その二つ以外にだって、まだまだあるんだ」


 俺の実の母親のように感知を極める方法もある。

 補助魔法で仲間を強化する者もいる。

 仲間の魔法を組み合わせて力を引き出す道だってある。

 細かく分ければ無限に存在している。


「ほぇぇ……魔法って奥が深いんだね」

「まあ、これでも回答としては八十点ってところなんだよ」


 感心するルナには申し訳ないが、俺も百点にはたどり着いていない。

 百点の回答を追い求めている最中というのが正しいだろう。


「それを踏まえてルナはどういう魔術師になりたい?」

「そうだね……ルナは……」


 ルナの口から語られた言葉は俺にとって衝撃的なものだった。


「これって形を決めたくないかな?

 型にはまったら、それしかできなくなりそうだもん」


 ルナは不器用だからと言って、舌を出しておどけてみせた。


「もちろん守るための方法を知るのは大事だと思うよ。

 だけど決めた方法で助けたい人を助けられるとは限らないもん」


 ルナは俺が思う以上に聡明だった。

 考え一つにしても立派な大人だった。


「すまんルナ。

 俺はルナの成長を見くびっていたのかもしれない」

「えっへん!ルナのこと見直した?」


 ルナが得意げな表情で胸を張る。

 こういう行動は年相応だと感じて微笑ましく思う。


「でもこうしたいっていうのはお兄ちゃんを見て思ったことなの。

 お兄ちゃんはたくさんの人を助けて来たけど、方法はいつも違ったから」


 ルナに言われてハッと気づいた。

 既に俺は答えにたどり着いていたのかもしれない。

 守る方法に正解などない。

 助けたい相手に合わせて選び続けることこそ大事だということに。


「答えにたどり着けた気がする。

 ありがとうルナ先生」

「せ、先生だなんて、照れるよ……」


 こうして俺はまた一つ成長することができた。

 世界樹から漂う魔力を見上げながらそう思ったのだった。

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