魔力視
厄災の日まで後二日。
俺は魔法創造で作った新しい魔法を試していた。
「カトレア!ちょっと来てくれるか?」
「ああ、もちろん」
カトレアがウキウキで歩いてきた。
俺に頼られて嬉しいという感じだろうか。
「私に何か用か?」
「実は新しい魔法を試したくて」
この前作った《魔力視開眼》をうまく作戦に取り込むため、色々と試しておきたかった。
「魔法か!よし来い!いつもの鍛錬場でいいか?」
カトレアは攻撃魔法だと思ったのだろう。
訓練場を薦めてきた。
「いや、今回は攻撃魔法ではないんだ」
カトレアに魔力視開眼について説明した。
カトレアは何故か顔を赤らめる。
「それは……人の身体の内側を見るのと同じことではないのか?」
「!?」
意味がわからなかった。
一体何と勘違いしているのだろうか。
「誤解だ!魔法の性能を確かめたいだけなんだ!」
「そ、そんな……私の恥ずかしいところを見たいというのか!」
確かに魔力は他人には見えない、身体の内部構造に近い。
それを見ようとするのは確かにデリカシーに欠けるのかもしれない。
元々魔法の適性がなく、魔力も皆無だった自分には無い視点だった。
「ごめん!そんなつもりじゃなかったんだ」
カトレアに必死で謝る。
だが、カトレアは小さな声で。
「……いいよ」
よく聞かないと聞き取れないくらいか細い声だった。
協力してくれるということらしい。
「ありがとうカトレア」
「ロイの役に立てるのなら、見ていいから!」
目をぎゅっと閉じて恥ずかしそうにしている。
素の口調に戻るくらい恥ずかしいのだろう。
「《魔力視開眼》!」
カトレアの魔力が浮かび上がってくる。
緑色の細い魔導回路だった。
細いが、しっかりと魔力が流れている。
「そういう感じか……」
ある程度仮説が立てられた。
まず色は属性。
カトレアの場合は風属性だから緑だろうか。
そして、太さは出力。
太ければ太いほど出力が強そうだ。
そして最後に魔導回路の形。
これが複雑であればあるほど、魔法の適性が高いのだろうか。
わからない点はまだいくつかあるが、おおよそカトレアの能力から、想定することができた。
「あれ?」
魔導回路と連結はしていないが、糸のような細い赤い光を見つけた。
手荒に扱えば切れてしまいそうなほど細い。
その魔力の波長は俺のものによく似ていた。
「これがカトレアの中の俺の魔力か」
その時、あることが脳裏をよぎった。
魔力に干渉することができる。
……それなら。
この赤い糸をカトレアの魔導回路に繋ぐことができれば、どうなるのだろうか。
どうしても試してみたくなった。
「すまんカトレア、ちょっと魔力に触れてもいいか?」
「……わかった。
その、乱暴にはしないでくれ」
赤い糸に手を触れて、魔導回路に繋ぎ合わせる。
「んっ……!」
「!?」
カトレアから色っぽい声が聞こえた。
「だ、大丈夫か……」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと身体の力が抜けただけだ」
話を聞くと、マッサージをされた時の感覚に近いようだった。
おそらく魔力は第二の神経といったところだろう。
魔術回路は拒絶反応を起こすことなく、赤い糸と結合した。
ひとまずは成功のようだ。
だが、改めてこの力の恐ろしさに気付くことができた。
魔導回路は、俺が思っていた以上に人体そのものと深く結び付いていた。
もし誤って魔導回路を傷つければ、魔法を失うだけでは済まない。
命に関わる可能性すらある。
今回は独立していた糸状の魔力であり、さらにカトレアの魔導回路も拒絶反応を示さなかったから良かったものの、
一歩間違えれば大惨事になっていた可能性だってある。
「《魔力視閉眼》!」
視界がぼやけだしたので慌てて解除する。
カトレアの魔導回路は見えなくなった。
視界は再び元に戻る。
「もういいのか……?」
「ありがとう。
そうだ一つ試してもらいたいことがあるんだ」
カトレアに初級魔法の本を見せる。
俺がギルドの初任給で買った魔術本だった。
「これを試してもらえないか?」
そこに記された火球のページを試すように促す。
「えっ!?私は炎属性の適性なんてないぞ?」
もちろん適性がないため、カトレアは難色を示した。
だが、試しにやってみてくれるらしい。
「《火球》!」
すると指先大の大きさの火の球が作られた。
火球には程遠いものではあったが、確かに炎属性の魔法だった。
「ロイ、これは一体……」
カトレアは困惑している。
無理も無かった。
炎属性の適性が無ければ、どんな小さな火球であろうと作ることはできない。
だが、実際にカトレアが作って見せた。
「何をしたんだ?」
「カトレアの魔力を見た時に、俺の魔力がほんの僅かに残っていて、
それをカトレアの魔導回路に繋げてみたんだ」
カトレアは目を丸くした。
そんなことができるなんてといった表情だった。
「だけど、これ以上は勘弁してくれ……。
私の精神がもたない」
精神的な負担が大きそうだった。
それに、失敗したときのリスクが非常に怖かった。
気軽に試すことはできそうにもない。
やはり、そう都合よくはいかなかった。
「だけどこれで良い方法が思いついた」
この魔法を使った作戦を思いつくことができた。
厄災に対してはリスクを考える必要はない。
ただ、制約にある干渉がどれだけ自分も受けるかだけが懸念だった。
そこは実際にやってみるしかないだろう。
「ありがとうカトレア。
おかげで良い方法が見つかった」
「あ、ああ……お役に立てて良かったよ」
カトレアは顔を真っ赤にしたまま去っていった。
「ロイくん……最低」
シアにカトレアを辱めたと誤解をされたのはまた別の話だった。




