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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第九章 竜人族の子供
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ルナの成長

 竜人国の国王に了承を得て、厄災の対応が決まった。

 厄災は満月の夜に現れる。

 封印とは異なり、魔力が最も高まる時期である。

 今宵の月を見るに、厄災まであと三日である。


 俺とカトレアは森に帰ってきた。

 森へ入ると、人影が飛び出してきた。


「お姉ちゃん!」


 シランさんがカトレアに抱きついた。


「心配したんだよ……」

「すまない、シラン……」


 カトレアもシランさんを抱き締め返した。

 シランさんはあれからずっと森で待っていたという。

 カトレアが人間国に出稼ぎに行ったきり、帰ってこなかった時のことが、

 シランさんの中ではトラウマになっていたのだろう。


「ただいま」


 俺の声でみんなが一斉に振り返る。


「お兄ちゃんおかえり!」

「おかえりなさいデス」

「おかえり?」


 ルナとアーティと白髪の少女が俺に迎えてくれた。

 だが、違和感を感じた。


「誰だ!?」


 アーティくらいの背丈の白髪の少女に見覚えが無かった。

 だが、先々代姫巫女にどことなく雰囲気が似ているような気がする。


「リンちゃんだよ」

「リンサマデス」


 この白髪の少女はリンちゃんであった。


「もう人間の姿になれるようになったのか……」


 竜人はある程度成長すると人の姿になれるというが、想像よりも早かった。


「どうしたの?」


 リンちゃんが俺の顔を覗き込む。


「いや、なんでもない」


 この幼気な少女の命を握っていると思うと、胸が痛んだ。

 絶対に成功させなければならない。


「リンちゃん!ルナが魔法を教えるよ」

「ワタシもお手伝いします」


 ルナとアーティが遠くで手を振っている。

 いつの間にか移動していた。


「ママ!アーたん!いまいく!」


 リンちゃんは二人の元へ駆け出して行った。

 それを見届けていると。


「ロイくん!難しい顔してるよ」

「ロイ!これ飲まないか?」


 シアとネモが近づいてきた。

 ネモは片手にお茶を持っている。


「いただくよ」


 受け取って飲み干す。


「美味しい……」


 身体の隅々まで染み渡るような味だった。

 心なしか身体が軽くなったような気がする。

 俺の言葉を聞いてネモが胸をなでおろした。


「やったねお姉ちゃん」

「ああ、良かった……」


 どうやらネモが淹れてくれたらしい。


「ネモ、ありがとう。美味しかった」

「あ、ああ……喜んでくれて嬉しいよ」


 ネモがパッと笑顔になる。


「最近ロイくんが忙しそうだったから、何かできることはないかって相談を受けて。

 疲れを取れるお茶を淹れてあげたらってアドバイスしたの」


 このお茶に使われている茶葉は効能は高いものの、美味しく淹れるのが難しいらしい。

 相当練習したのだということがわかった。


「心配かけてすまなかったな。

 今日はゆっくり休むことにするよ。

 話はまとまったから明日話す」

「そうした方がいい」

「そうだね、それがいいかも」


 疲れているのが目に見えてわかるらしい。

 おそらく先々代姫巫女の召喚に魔力と体力を消耗しているからだろう。

 お言葉に甘えてゆっくり休むことにした。



 そして早朝。

 かなりぐっすりと眠ることができた。

 身体の疲れはすっかり取れていた。

 睡眠とネモが淹れてくれたお茶のおかげだろう。

 ネモが淹れてくれたお茶を自分でも淹れてみる。

 普段淹れているお茶の要領で進める。


「苦っ!!!!」


 出来上がったお茶を口に入れると、かなりの渋みを感じる。

 効果は出てそうだが、かなり飲みづらかった。


「ネモは相当頑張ってくれたんだな……」


 今度何かお返しをしなければと思った。

 そして、先延ばしにしていた《魔法創造》について考える。


「実体をもたないものに対して使える魔法が欲しいな」


 色々考えたが、厄災の本体は実体をもたない。

 実体をもたないものに対する回答が《霊体化魔術》しかなく、実用性が無い。

 何かもう一つあれば心強いだろう。


「試す価値はあるな……」


 俺は《魔法創造》を使い、実体をもたない相手に通じる魔法を生み出した。

 そこで作り出されたのが――


 《魔力視開眼》


 魔力を視ることができるようになる。

 また、視た魔力に干渉することができるようになる。


 制約:

『開眼している時間に比例して目に負荷がかかる』

『魔力に干渉する場合、魔力量によって身体に負荷がかかる』


 制約は比較的軽めだった。

 だが、この魔法が有用かどうか判断がつかなかった。

 魔力自体は魔法適正が高いものであれば感じ取ることができる。

 ある程度の魔力量や属性もわかる。

 わざわざ視ることの意義がわからなかった。


「視るだけではなく、干渉できる点に着目すべきか」


 これなら応用の幅はありそうだ。

 厄災までに活用法を見つけなければ。



 そして時間は過ぎ、昼になった。

 森にはメンバー全員が揃った。


「明後日竜人国に厄災が現れる。

 俺たちでそれを退けて、本体を再封印する」


 当日について、そして竜人国での出来事についてを簡単に説明した。


「まあ、リンちゃんが救われる方法がそれしかないなら、やるしかないな」

「そうだね、頑張らないといけないね」

「私も同意だ」


 ネモとシアとカトレアは肯定的な反応を返した。


「やだよ!失敗しちゃったらリンちゃん死んじゃうよ!」


 ルナは珍しく否定的な反応を見せた。

 リンちゃんを強く抱きしめて首を振る。

 厄災を退けられなかった場合、リンちゃんは人身御供にされてしまうからだ。

 最悪のパターンを想像してしまうのも無理はないだろう。


「ルナサマ……」


 アーティがルナに声をかけられないでいる。

 ルナにとってリンちゃんは娘と言っても過言ではない存在だ。

 大切な人を失いたくないという気持ちは痛いほどわかる。

 だが、何もしないわけにはいかなかった。


「ルナ……このまま何もしなかったら、リンちゃんはずっと自由に生きられない。

 なら、俺たちの手でリンちゃんを自由にしてあげるべきじゃないか?

 家族として……いや、大事な娘として」

「それは……そうだけど……」


 ルナだって本心ではわかっている。

 でも不安なんだろう。


「俺を信じてくれ。

 大切な人を失いたくない、その思いで今まで守り抜いてきた。

 今度も絶対守ってやる」


 ルナの目を見て答える。


「ルナもリンちゃんの母親なら……。

 リンちゃんを全力で守ってくれ。

 母親とはそういうものだろう」


 ルナはハッとした表情になる。


「そうだね、いつもみんなに守ってもらってたね。

 ルナもみんなを守らないと、守られてばかりじゃダメだよね」


 ルナはリンちゃんと向き合う。


「リンちゃん。ルナはリンちゃんのこと絶対守るからね。

 リンちゃんはルナの大事な娘だから」

「うん、ママだいすき」


 ルナは涙を流してリンちゃんを強く抱きしめる。


「ママあたたかい」


 リンちゃんは言葉の意味は理解していないだろう。

 だが、気持ちは伝わったのか笑顔を返す。

 みんなもその光景を温かく見守る。

 遠くでネモがもらい泣きをしていた。


 こうしてルナはまた一つ大人になった。

 そして、もう誰一人失わない。

 その思いだけは、この場にいる全員が同じだった。


 そして、まもなく厄災の日を迎えるのであった。



――第九章 完――

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