幼き日の誓い
応接室は打倒厄災についての話し合いの場となった。
「……なるほど。そういう方法が」
俺と先々代の姫巫女で考えた方法について、宰相に話す。
「確かにそれは良い方法だと思いますが、それを実現できる者など皆目見当もつきません」
宰相は難しい表情をしている。
「それが実現できる者がいるのじゃよ。この少年がな」
先々代の姫巫女が俺を指さす。
「俺は膨大な魔力を保持しています。
魔力については問題ありません」
スキルである《魔力無限》により無限に魔力を持っている。
だが、無限では信憑性に欠けるため、膨大と伝えるようにしている。
「確かに契約魔術を結んだ先々代姫巫女様を召喚及び維持するのに、途方もない量の魔力を必要とする。
それができるのであれば魔力は申し分ない」
宰相は肯定の姿勢を見せる。
「それにカムイ殿にもご協力いただけるのであれば、陛下にも話を通せます」
カムイさんも協力者であることは伝えている。
「ですが、一つだけ条件があります。
万が一分身体の厄災を退けられず、侵攻を許してしまった場合、その時は姫巫女の子を人身御供とさせて頂きます」
竜人国としては最大限の譲歩だった。
国民の命を見ず知らずの人物に賭けることになるからだ。
この条件は飲まざるを得ないだろう。
「もちろん。最大限の譲歩に感謝します」
「あくまで陛下にはロイ殿たちに猶予を与えるという交渉までしか行えません。
申し訳ございませんがご了承下さい」
こうして竜人国国王へ進言してもらえることが決まった。
それに伴い、今回の取り決めについて盟約を締結した。
「今から陛下に話を通しに行ってきます。
しばらくお待ちくださいませ」
宰相は部屋から出て行った。
その後、入れ違いにカトレアが連れられてきた。
「ロイ!」
カトレアが俺に向かって走ってくる。
盟約の締結に伴い、人質が不要になり、解放されたのだろう。
俺はカトレアを受け止めて抱き締める。
「すまない……迷惑をかけた……」
カトレアは涙で顔を濡らしていた。
「いや、俺こそすまなかった」
強く抱きしめる。
普段凛々しく頼もしい存在であるが、胸の中で泣いているのは、
か弱い少女に他ならなかった。
そのままカトレアが落ち着くまでの間、抱き締め続けたのだった。
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その頃。
私は陛下に盟約締結の件を奏上した。
「……以上になります」
陛下の表情は険しかった。
「お主は何をしたかわかっておるのだろうな?
国民の命を見ず知らずの者に賭けるなど言語道断だ!」
想定通りの反応だった。
「もちろんわかっております。
ですが、万が一先々代姫巫女様のように子に恵まれず、今回のようにこの世を去った場合、
厄災をどうすべきだとお考えでしょうか」
彼らに心を動かされ、若いころの思いが蘇ってくる。
「姫巫女という制度に依存するのも限界かと思われます。
ですので我々の代でこの負の遺産を未来ある若者たちに残さないことが必要であると考えます」
陛下の眼光に一切ひるむことなく目を見据えて話す。
「もちろんそれができれば苦労はせぬが、お主が若い頃に何度も失敗を重ねたではないか」
元々は陛下もこのしきたりには疑問を持っていた側だった。
だが、度重なる失敗や、圧力により、保守的となってしまった。
「だからこそ、賭ける価値があると判断いたしました」
「他国のそれも人間などを信用できると思うのか!
これ以上戯けたことを抜かすようなら斬るぞ」
陛下は爪を私に向ける。
おそらく私の言葉では心を動かすことはできないだろう。
では先々代姫巫女様に出てきてもらうしかない。
呼び出そうと思った瞬間、祖父の言葉を思い出す。
『いいか、男として大事なことは、思いは自分の口で伝えることだ』
祖父は先々代姫巫女様に好意を寄せていた。
だが、結果として一生その思いを告げることは叶わなかった。
だからこそ、孫である私に、後悔しないよう伝えたのだろう。
今回は状況は異なるが、後悔はしたくなかった。
「陛下。私とて国民のことを第一に思っております。
ただそこに姫巫女の子も含まれているというだけです」
私は立ち上がる。
「もし一人であっても大切な国民に仇を成すようであれば、陛下であれ許すことはできません。
私の命を賭してでも陛下を止めてみせます」
私も爪を伸ばし、全身に魔力を纏わせた。
「お主も焼きが回ったか!」
玉座の間の空気は一変する。
お互い一歩も引かない。
やがて陛下は小さくため息をついた。
「もうよい、わかった。
お主も我の大事な国民の一人だ。
仇を成すつもりはない」
そう言って爪をしまった。
「聡明なお主がなぜそこまで無謀なことをする」
「私は失敗続きで忘れかけていた意志を思い出したのです。
誰も犠牲にすることがない、皆が笑って暮らせる国にすると」
幼い私と陛下で誓った言葉だった。
「懐かしいな……。
国王としての重責からすっかり失念していたようだ」
先代姫巫女の子と私たちは幼馴染でよく遊んでいた。
私たちはその子に好意を寄せていた。
だが、厄災の日、その子は先代姫巫女に食い殺された。
厄災は無事封印されたが、私たちは大切な者を失った。
だからこそ同じ思いをしないために、胸に刻んだ意志だった。
「私もついこの前まで忘れておりました。
ですが、少年と先々代姫巫女様に思い出させてもらったのです」
陛下も立ち上がった。
「認めよう。分身体を退け、そして本体を再封印し、
皆が笑って暮らせる国になるよう尽力しようではないか。
お主も命の賭ける時期を見誤るなよ」
「承知いたしました」
こうして竜人国国王の協力も取り付けることができた。
作戦は最終段階へと突入する。
果たして厄災を無事封印することはできるのだろうか。




