対話
獣人国ギルドに行ったら、想定通り手紙があった。
その手紙には竜人国へ来るように書かれている。
「まあそうだろうな」
カトレアが人質にされているのは確定だった。
「だが、話はできるかもしれないな」
文章から知性が感じられる。
こちらを刺激せず、理性的に要求を出してきている。
手紙の主は切れ者に違いなかった。
そして、しばらく移動し、竜人国に着く。
「ロイ様お待ちしておりました」
国境には兵士が数人お迎えに来ていた。
「宰相閣下のところには私どもで案内いたします」
魔石車が一台停まっているのを確認した。
「さあお乗り下さい」
言われるままに魔石車に乗る。
魔石車から見る景色は好きだったが、今は何も感じなかった。
俺に対する対応を見る限り、手紙に書かれていたことは事実だろう。
カトレアに手荒な真似はしていない。
少しだけ緊張を解いた。
しばらくすると、魔石車が変形して空を飛んだ。
「な、なにが起きた!?」
想定していなかったため、驚いてしまった。
「ご案内する場所は宮廷、空の上になりますので」
魔石車はどんどん上空に昇っていく。
しばらくすると、地面に降り立った。
「到着いたしました。
竜人国宮廷になります」
壮大な建物からは威圧感を感じる。
だが、今回は観光に来たわけではない。
気を引き締めなければ。
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目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。
何があったかを思い出す。
睡眠魔法を食らって、意識を失っていたはず。
「ここはどこだ?」
起き上がって周りを見渡すと、見知らぬ部屋だった。
ふかふかの布団に柔らかい枕。
備え付けの家具は高級感がある。
まるで宮廷の客室のようだった。
外に出ようと試みるが、扉は鍵がかかっている。
窓もなく、抜け出せそうにもない。
「参ったな……」
武器もなければ、防具もない。
鏡を確認すると、振袖のようなものを着せられている。
かなり動きづらかった。
「一体何が起きているんだ」
すると、扉が開いた。
竜人の兵士が三人、部屋に入ってくる。
私はその隙に脱出しようとしたが、兵士たちの隙がまるでなかった。
それも外にも兵士が控えている。
脱出は不可能だった。
「カトレア殿。
この度は大変なご無礼をお許しください」
兵士が深々と頭を下げる。
少なくとも敵意は感じられなかった。
「すまないが、話が見えない。
説明してもらうことは可能だろうか?」
「それは私から説明させていただきます」
外から一人の竜人の老紳士が入ってきた。
「私は竜人国の宰相をしているものです。
どうぞよろしく」
「ああ、よろしく頼む」
国の宰相クラスがわざわざ来るなんて。
相当重要な話だろう。
「あなたは竜人国の厄災についてご存知でしょうか」
「そういうことか……」
私は人質だった。
厄災のため、姫巫女の子、もといリンちゃんが必要である。
そのリンちゃんを返さなかったことで、竜人国が実力行使に出たのだろう。
「姫巫女の子を返して頂かなければ、国が滅亡してしまいます。
ロイ殿との交渉までの間、あなたにはここにいてもらう必要があります」
予想は的中していた。
「人質のつもりだろうが、それは無駄だ」
獣人として、人質になるくらいなら自ら命を絶つ。
ロイには恨まれるだろう。
それに森のみんな、シラン、お母さんも悲しませてしまう。
それでも私は舌を噛み切ろうとした。
その時――
「閣下!ロイ様がお見えになりました」
その言葉に私は動きを止める。
「わかった、すぐ行く」
宰相と兵士が出ていく。
再び部屋には鍵がかけられた。
「ロイ……」
緊張が解けて崩れ落ちる。
私は安堵と申し訳なさで涙を流した。
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応接室に通されて、しばらく待っていると。
「お待たせして申し訳ございません」
竜人の老紳士が入ってきた。
「私が竜人国の宰相をしているものです。
どうぞよろしく」
彼が手紙の主だった。
「早速にはなりますが、姫巫女の子を返して頂けないでしょうか」
まずは本題から入る。
「それはできません。
もう立派な我々の家族ですから」
断られるのは想定内という反応だった。
「厄災のことがある以上、私どもも引き下がることはできません。
それはご理解ください」
宰相の空気が変わった。
おそらくカトレアの身柄についての交渉に入ろうとしている。
「その前に一つ聞きたいことがあります。
もし、姫巫女の子を犠牲としなくとも厄災を解決できるとすればどうしますか?」
「もちろんそのような方法があれば良いのですが……」
既に諦めた者の目をしていた。
おそらく何度か挑戦し、その度に失敗を重ねている。
彼も同じ気持ちを持っていたことがわかった。
「俺たちは厄災を鎮めます。
そして、その根源である本体も完全に封印するつもりです」
宰相がピクッと反応した。
「どうしてそのことを知っているのですか?」
おそらく厄災の本体については重大機密だろう。
国王以下、その臣下にしか知らないことを、見ず知らずの人間が知っているのだ。
驚くのも無理もないだろう。
「俺は本気です。
俺の家族だけではなく、竜人国も救うつもりです」
宰相は少し柔らかな表情を見せたが、すぐに表情を変える。
「そんなことできるわけないでしょう。
それに、そのような無謀な賭けに国民を巻き込むわけにはいきません」
無表情ながら強烈な圧を感じる。
普通の人なら、その空気には耐えられないだろう。
「それではこれで信じてくれますか?」
俺は手の甲の紋章に魔力を流す。
魔力に反応し、紋章が光り輝く。
宰相は静かにその光景を見守っている。
「《召喚》!」
紋章から白髪の少女が姿を現した。
「ここの魔力、久しく感じるのう……。
竜人国。それも上空というところか」
宰相が目を見開く。
「その姿……まさか、先々代の姫巫女様!?」
先ほどまでとは打って変わって宰相は狼狽している。
「ほお、わらわのことを知っておるのか……。
お主の生まれる前には既に封印されておったのに」
「私の祖父があなたに仕えておりまして、あなた様の姿見を見たことがあるのです」
先々代の姫巫女が宰相の顔を見る。
「ああ、あやつの孫か。
よく見れば似ておるな……」
「祖父はずっとあなたのことを悔いてました。
そして二度とあなたと同じような者を出さないようにと……」
そこまで口にして宰相はハッと気づく。
「そうじゃな、今お主がしようとしていることはどうじゃ?
あやつの意志に反するのではないか?」
「その通りでございます。
長い年月の間、失敗を重ねるうちに志を忘れてしまっておりました」
宰相の目には再び意志が宿っていた。
「ロイ殿。大変なご無礼をお許しください。
是非とも話を聞かせて頂けないでしょうか」
先々代の姫巫女により、宰相の中で消えかかっていた意志が再び灯った。
こうして、また一歩前進しようとしているのであった。




