実力行使
彼からの返答はなかった。
「もしや厄災のことを知っているのではないか?」
現姫巫女亡き今、先々代姫巫女が行ったとされる手段を取るしかなかった。
姫巫女の子を人身御供として捧げ、厄災を鎮める。
そして姫巫女の子ともども封印する。
気が引けるような方法だった。
それしか手段が残されていなかった。
「実力行使に出るしかないか……」
できればその選択肢は取りたくなかった。
ただ、国のことを考えれば、背に腹は代えられなかった。
「とはいえ、どうするべきか」
手荒な真似をしてしまえば、姫巫女の子は確実に返ってこない。
それだけは何としてでも避けなければならない。
「本当は行いたくなかったが、仕方ない」
何度も書いては消した手段の一つ。
最後の最後まで消しきれなかった。
竜人国の宰相は部下へと指示を出した。
「本当にやるのですか?
宰相らしくない……」
「国のため、致し方ないことだ」
部下もこの作戦に抵抗があるようだった。
「この役目が終わったら辞職する」
責任を感じ、辞職届を書きしたためていた。
それが自分なりの責任の取り方だと思った。
「……承知いたしました」
私の覚悟を感じてくれたようだった。
「世話をかける」
私は深々と頭を下げ、部下を見送った。
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獣人国のギルドに依頼完了の報告に来ていた。
「カトレアさん、いつも本当にありがとうございます」
ビオラさんが頭を下げる。
「ああ、困ったことがあれば言ってくれ」
ビオラさんに見送られてギルドを後にする。
月光の森へ向かう前に一度自宅に寄るつもりだった。
その道中。
「何者だ」
誰かの視線を感じる。
それも一人や二人ではなかった。
「どこにいる……」
警戒するが、姿は見えない。
構えを取ろうとするが、今いる場所に気づく。
「ちっ……ここでは戦えない」
目の前には獣人国初等学校。
子供たちが楽しそうに遊んでいる。
「場所を変えるしかないか」
私は人通りの少ない場所へと走る。
気配も追ってきている。
そして、人通りの少ない場所に着いた瞬間。
「カトレア殿。悪く思わないでくだされ」
「なっ!しまった!」
声がした方を向いた瞬間、何かの魔法を受けてしまった。
わざと音を出して意識を向けさせられたのだ。
「ハメられたか……」
まんまと誘い込まれてしまった。
「人通りの少ない場所へ誘導するためか」
目撃者を作らないように。
おそらく気配を完全に消すこともできたのだろう。
あえて勘付かせて来たのだった。
身体が動かない。
そして、意識がどんどん遠のいていく。
「……睡眠魔法か」
不意を突かれてしまった。
「すまない、ロイ……」
私の意識は完全に落ちていった。
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「……以上が我が知りうる情報だ」
「助かります」
姫巫女の弟から必要な情報を聞いていた。
厄災の本体が封印されている場所。
一族の伝わる秘技について。
「これだけの情報があれば、問題無さそうです」
先々代姫巫女から求められていた情報は手に入った。
後は当日うまくやるだけだ。
「それでは厄災の日にお願いします。
えっと……」
「すまない、名を名乗っていなかったな。
我の名はカムイ」
カムイさんは名乗ると竜の姿に変身する。
「近くまで送ろう」
そう言って背中に乗るよう促す。
竜が背中に人を乗せるのは信頼の証だった。
無碍にはできない。
「それではお言葉に甘えて」
カムイさんの背中に乗ると、空高く舞い上がった。
獣人国一面を見渡すことができた。
栄えている首都スーベニアと、放棄された廃村の跡地の対比がはっきりと見える。
今回うまくいかなければ、竜人国が廃村と同じ道を辿ることになる。
失敗は許されない。
その後、カムイさんと別れ、月光の森へと帰ってきていた。
相変わらずルナとアーティがリンちゃんと遊んでいる。
シアとネモも装備の手入れをしていた。
だが、カトレアの姿が見えない。
「そういえば、カトレアは今日は来ない日だっけか?」
「いや、そんなことは聞いてないな」
ネモに聞いたがそういう話もないらしい。
「今日依頼を受けた後、ここに寄るって言ってたよ」
シアが答える。
今日は来る日らしい。
その時、俺の中で胸騒ぎがした。
「依頼が長引いてるんじゃないか?」
ネモはそう言うが、俺は依頼の内容を簡単に聞いている。
カトレアが手こずる内容ではなかったはずだ。
「杞憂ならいいが……」
もう少しだけ待ってみることにする。
その間、俺は《魔法創造》について考えていた。
「今回は特に難しいな」
厄災は、世界樹を食らった竜人が負の感情を取り込み続けた、なれの果て。
肉体は滅び、根源だけが封印されている。
カムイさんから聞いた情報だった。
「そうなると有効になりそうなのは……」
そう言って創造をしようとした、その時。
「ロイさん!お姉ちゃん来てませんか?」
シランさんが森へ飛び込んできた。
「今日は森に来ていないけど、どうした?」
シランさんの慌てっぷりから、雲行きが怪しくなる。
「お姉ちゃんが武器を構えたまま、人通りの少ないところに走って行ったのを見たって、友達が言ってて。
今日一度、自宅に帰るって話だったのに帰ってこないから、ロイさんたちのところに来てないかなって」
不安は的中した。
もしかすると竜人国が実力行使に出たのかもしれない。
カトレアの行動からその可能性は高かった。
「どこで見たか教えてくれないか?」
「私が通っている獣人国の初等学校だよ」
涙目になりながら心配そうにしているシランさんの頭を撫でる。
「カトレアは急な依頼を受けたのかもしれない。
だからちゃんと帰ってくるよ」
心配させないために嘘をついた。
おそらく目的がリンちゃんなら、カトレアに危害は加えないだろう。
「すまん!ネモとシアはルナたちのこと頼む」
「おう!」
「頼んだよ!」
ネモとシアも会話から察してくれていた。
俺は獣人国ギルドへ向かう。
おそらく竜人国からの手紙が預けられている。
「すまん、カトレア……」
俺の失態である。
自分の詰めの甘さを再認識させられたのだった。




