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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第九章 竜人族の子供
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実力行使

 彼からの返答はなかった。


「もしや厄災のことを知っているのではないか?」


 現姫巫女亡き今、先々代姫巫女が行ったとされる手段を取るしかなかった。

 姫巫女の子を人身御供として捧げ、厄災を鎮める。

 そして姫巫女の子ともども封印する。

 気が引けるような方法だった。

 それしか手段が残されていなかった。


「実力行使に出るしかないか……」


 できればその選択肢は取りたくなかった。

 ただ、国のことを考えれば、背に腹は代えられなかった。


「とはいえ、どうするべきか」


 手荒な真似をしてしまえば、姫巫女の子は確実に返ってこない。

 それだけは何としてでも避けなければならない。


「本当は行いたくなかったが、仕方ない」


 何度も書いては消した手段の一つ。

 最後の最後まで消しきれなかった。

 竜人国の宰相は部下へと指示を出した。


「本当にやるのですか?

 宰相らしくない……」

「国のため、致し方ないことだ」


 部下もこの作戦に抵抗があるようだった。


「この役目が終わったら辞職する」


 責任を感じ、辞職届を書きしたためていた。

 それが自分なりの責任の取り方だと思った。


「……承知いたしました」


 私の覚悟を感じてくれたようだった。


「世話をかける」


 私は深々と頭を下げ、部下を見送った。


-----------------------------------------------------------


 獣人国のギルドに依頼完了の報告に来ていた。


「カトレアさん、いつも本当にありがとうございます」


 ビオラさんが頭を下げる。


「ああ、困ったことがあれば言ってくれ」


 ビオラさんに見送られてギルドを後にする。

 月光の森へ向かう前に一度自宅に寄るつもりだった。

 その道中。


「何者だ」


 誰かの視線を感じる。

 それも一人や二人ではなかった。


「どこにいる……」


 警戒するが、姿は見えない。

 構えを取ろうとするが、今いる場所に気づく。


「ちっ……ここでは戦えない」


 目の前には獣人国初等学校。

 子供たちが楽しそうに遊んでいる。


「場所を変えるしかないか」


 私は人通りの少ない場所へと走る。

 気配も追ってきている。

 そして、人通りの少ない場所に着いた瞬間。


「カトレア殿。悪く思わないでくだされ」

「なっ!しまった!」


 声がした方を向いた瞬間、何かの魔法を受けてしまった。

 わざと音を出して意識を向けさせられたのだ。


「ハメられたか……」


 まんまと誘い込まれてしまった。


「人通りの少ない場所へ誘導するためか」


 目撃者を作らないように。

 おそらく気配を完全に消すこともできたのだろう。

 あえて勘付かせて来たのだった。

 身体が動かない。

 そして、意識がどんどん遠のいていく。


「……睡眠魔法か」


 不意を突かれてしまった。


「すまない、ロイ……」


 私の意識は完全に落ちていった。


-----------------------------------------------------------


「……以上が我が知りうる情報だ」

「助かります」


 姫巫女の弟から必要な情報を聞いていた。

 厄災の本体が封印されている場所。

 一族の伝わる秘技について。


「これだけの情報があれば、問題無さそうです」


 先々代姫巫女から求められていた情報は手に入った。

 後は当日うまくやるだけだ。


「それでは厄災の日にお願いします。

 えっと……」

「すまない、名を名乗っていなかったな。

 我の名はカムイ」


 カムイさんは名乗ると竜の姿に変身する。


「近くまで送ろう」


 そう言って背中に乗るよう促す。

 竜が背中に人を乗せるのは信頼の証だった。

 無碍にはできない。


「それではお言葉に甘えて」


 カムイさんの背中に乗ると、空高く舞い上がった。

 獣人国一面を見渡すことができた。

 栄えている首都スーベニアと、放棄された廃村の跡地の対比がはっきりと見える。

 今回うまくいかなければ、竜人国が廃村と同じ道を辿ることになる。

 失敗は許されない。


 その後、カムイさんと別れ、月光の森へと帰ってきていた。

 相変わらずルナとアーティがリンちゃんと遊んでいる。

 シアとネモも装備の手入れをしていた。

 だが、カトレアの姿が見えない。


「そういえば、カトレアは今日は来ない日だっけか?」

「いや、そんなことは聞いてないな」


 ネモに聞いたがそういう話もないらしい。


「今日依頼を受けた後、ここに寄るって言ってたよ」


 シアが答える。

 今日は来る日らしい。

 その時、俺の中で胸騒ぎがした。


「依頼が長引いてるんじゃないか?」


 ネモはそう言うが、俺は依頼の内容を簡単に聞いている。

 カトレアが手こずる内容ではなかったはずだ。


「杞憂ならいいが……」


 もう少しだけ待ってみることにする。

 その間、俺は《魔法創造》について考えていた。


「今回は特に難しいな」


 厄災は、世界樹を食らった竜人が負の感情を取り込み続けた、なれの果て。

 肉体は滅び、根源だけが封印されている。

 カムイさんから聞いた情報だった。


「そうなると有効になりそうなのは……」


 そう言って創造をしようとした、その時。


「ロイさん!お姉ちゃん来てませんか?」


 シランさんが森へ飛び込んできた。


「今日は森に来ていないけど、どうした?」


 シランさんの慌てっぷりから、雲行きが怪しくなる。


「お姉ちゃんが武器を構えたまま、人通りの少ないところに走って行ったのを見たって、友達が言ってて。

 今日一度、自宅に帰るって話だったのに帰ってこないから、ロイさんたちのところに来てないかなって」


 不安は的中した。

 もしかすると竜人国が実力行使に出たのかもしれない。

 カトレアの行動からその可能性は高かった。


「どこで見たか教えてくれないか?」

「私が通っている獣人国の初等学校だよ」


 涙目になりながら心配そうにしているシランさんの頭を撫でる。


「カトレアは急な依頼を受けたのかもしれない。

 だからちゃんと帰ってくるよ」


 心配させないために嘘をついた。

 おそらく目的がリンちゃんなら、カトレアに危害は加えないだろう。


「すまん!ネモとシアはルナたちのこと頼む」

「おう!」

「頼んだよ!」


 ネモとシアも会話から察してくれていた。

 俺は獣人国ギルドへ向かう。

 おそらく竜人国からの手紙が預けられている。


「すまん、カトレア……」


 俺の失態である。

 自分の詰めの甘さを再認識させられたのだった。

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