04-09.小さな国の生存戦略
「アズキは何故そこまで頑張るのですか?」
唐突な質問にゃ。
「もちろん憂いなく旅立つためにゃ。早くポルカに会いたいにゃ」
妹と父ちゃんにもにゃ。早く母ちゃんを会わせてやりたいにゃ。
「終わりなんて見えませんよ」
それがかつてのスフィアが見ていた光景かにゃ。
「そこまでは責任持てないにゃ。どこかしらで区切りは付けるにゃ」
「簡単に言いますね」
「心配するにゃ。私に考えはにゃいが、次にやるべきことくらいはわかっているにゃ」
今のこの状況で未来のことばかり心配しても仕方がないにゃ。場当たり的に対処していくのも時には必要なことなのにゃ。
「幸いここは守りに適した土地にゃ」
大きな川か山脈を越えなきゃ侵略してこれないにゃ。逃げ場のない袋小路であると同時に、天然の要塞でもあるにゃ。自給自足さえ叶うなら十分渡り合っていけるにゃ。
「きっと最初のノルドもここだけだったにゃ。にゃら同じことを繰り返すだけにゃ」
「食料はいずれ尽きるでしょう。肥大化したこの国は、十分な生産力を備えておりません」
「地熱を利用するにゃ。どこか温泉地はないかにゃ? 山を開いて源泉を見つけるにゃ。そこで畑を耕すにゃ」
「……驚きました。アズキもその考えに至るなんて。実は既に見つけてあるんです」
「じゃあ行ってみるにゃ♪ たまには少し温泉にも浸かって息抜きするにゃ♪」
「はい♪ すぐ行きましょう♪」
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「にゃ~……極楽にゃ~……」
「ふふ♪ 猫なのに温泉まで好きなんですね♪」
「当然にゃ。私は半分以上人間にゃ」
「そういえばそうでしたね。ポルカたちは無事に南大陸へと辿り着いたのでしょうか」
「父ちゃんに任せとけば心配要らんにゃ」
「グラシアの両親は凄いですね」
「自慢の父ちゃんと母ちゃんにゃ」
行動力半端ないにゃ。似たもの同士のお似合い夫婦にゃ。
「せめて手紙を出せないでしょうか」
「なんならスフィア一人で行ってくるにゃ」
わんわんもいるにゃ。支持率高い内がチャンスにゃ。
「嫌です! 絶対に離れません!」
背もたれになっていたスフィアが、私を抱きしめる腕に力を込めた。
「ちょっとしたお使いにゃ。けど無理にとは言わんにゃ」
私だって何日もスフィアと離れてやっていけないにゃ。
「先ずは飛行技術の発展を優先するにゃ。日帰りで行って帰ってくるにゃ」
「ぷっ♪ あはは♪ それはいいですね♪」
にゃふふ♪ 上手に笑えるようになったにゃ♪
「いっそ飛行船を作るにゃ。外から物資を仕入れるにゃ」
幸いここは木も水も鉱山も事欠かないにゃ。川沿いに巨大な工場を作るにゃ。冬でも凍りつかない急流にゃ。きっと素晴らしいエネルギー源にもなる筈にゃ。水車を作って工場を作るにゃ。ゆくゆくは貿易国家を作るにゃ。世界の中心として栄えさせるにゃ。夢が広がるにゃ。
「スフィアはもう政治なんてやらなくていいにゃ。一介の技術者として頑張るにゃ。あの店主も呼び戻すにゃ。新しい職場を用意してやるにゃ」
「ふふ♪ 本当にあなたは♪」
イチャイチャタイムが始まった。我慢できなくにゃったのにゃ。ふふ♪ 好きなだけ貪るにゃ♪ スフィアも毎日頑張ってくれてるからご褒美あげるにゃ♪
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すぐに専門チームを組み、飛行船の製造を始めた。
先日の防衛戦におけるスフィアの活躍は誰もが知るところだ。当然飛行技術の汎用化に反対する者はいなかった。むしろそれしか生き残る術は無いと、誰もが本気で取り組んでくれた。
この国の民は流されやすいけれど、それは同時に御しやすいということでもある。国の中枢が健全でさえあるなら、あっという間に社会全体が良い方に転がっていく。
なんだか拍子抜けする程にゃ。もちろんまだまだ先は長いにゃが、少しずつ希望も見えてきた。
メガネ君の案をベースに、時間稼ぎの策も講じることにした。いっそのことと思い、橋も完全に破壊した。
敢えて残して敵の進軍経路を固定するのも策だけど、強引に川を越えようとする者たちを潰した方が手っ取り早いだろう。そもそもそんな考えを起こさせない方が重要だ。
敵はスフィアの高威力魔術を恐れてもいる。橋はそのためのダメ押しにも利用した。デモンストレーションだ。たった一発の魔術で完全に燃やし尽くしたのだ。
解放した伯爵にもその光景をしっかりと見せつけた。不可侵条約締結のために集まったお歴々にもだ。完全な断絶とバカげた魔術の威力は誰もが直接目にすることになった。
これで彼らも我々の覚悟が理解出来ただろう。生半可な覚悟で攻め込んでくることはあるまい。いっそ自滅を待った方が彼らにとっては都合が良い。放っておけば食糧難により、この冬を乗り越えられないと考えるだろう。
だが彼らは知らない。スフィアは収納魔術も扱えるのだ。いよいよとなったら単身で補給だって出来るのだ。これは本当に最後の秘策だけど。基本はスフィアに頼らない国を作らないと意味がないし。
飛行船の製造は急務だ。結局スフィアの力には頼らざるを得ない。けどこれは技術提供だ。頼り切るわけじゃない。巣立ちのための準備だ。それを彼らに理解させることも私の大切な仕事だ。
この国はむしろ力を付けすぎてしまうかもしれない。かつての侵略国家に逆戻りしてしまうかもしれない。山と川に囲まれた安全地帯から、世界中に向かって飛行船を放つのだ。空の支配が始まるのだ。
全ての力と財力が集まるだろう。技術レベルも他国の遥か先を行くことになるだろう。これこそまさに小さくとも強大な国ってやつだ。いつかメガネ君が言ってたやつだ。そんな夢物語が現実のものになろうとしている。調子に乗ってまた嫌われ者にならんといいのだが。
なんだかんだと言いつつ、最近ではスフィアが側を離れることも多くなった。工場で研究に勤しんでいるのだ。たまに国境周辺の警備までしてくれている。
その間の私の護衛担当は銀狼だ。サイズは変幻自在らしい。普段は子犬のように小さくなって頭に乗っている。
「それでは行ってきます。くれぐれもお願いします」
『うむ。主のことは我に任せよ』
「すまんにゃ。二人とも」
最近のスフィアは働きすぎにゃ。けど止められないにゃ。そんな余裕は無いにゃ。
わんわんも私の護衛のために勧誘したわけじゃないにゃ。こいつも元盗賊たちと同じにゃ。その見た目で恐れられるにゃ。だから今のうちに国民の印象を良くしておくべきにゃ。本当はもっと人々に寄り添えることをさせてやりたいにゃ。
「いいんですよ♪ アズキ♪ 私も楽しんでいますから♪」
『うむ。我もだ。主の働きは見ていて飽きぬ』
そうかにゃ? にゃらお言葉に甘えるにゃ。
「にゃら今日も気合い入れていくにゃ!」
「『お~!!』」




