04-07.獣人の王
「国王陛下! 万歳!!」
「「「「「「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」」」」」」
にゃんでこうにゃった……。
いや……おかしいにゃろ……迫害どころか王様にされちゃったにゃ……どうしてこうなるにゃ……。
「やりすぎです……」
スフィアも頭抱えてるにゃ。いかんにゃ。今のスフィアはキナコちゃんだったにゃ。きなこ餅食べたいにゃ。城下に売ってないかにゃ? いや。今の私にゃら城のキッチンに言えば作ってくれるにゃ。いっそ国策として……悪くないにゃ。
「アズキ王! 万歳!!」
「「「「「「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」」」」」」
「「「「「「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」」」」」」
「「「「「「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」」」」」」
あかんにゃ。現実逃避してる場合じゃないにゃ。
「どうするんですか。これ」
「長居しすぎたにゃ。そろそろ潮時にゃ」
「お母様が許しませんよ」
「……まずったにゃ」
母ちゃんおっかないにゃ。
先日「やるからにはしっかりやりなさい」って言われてにゃんのことかと思ったら、王様のことだったにゃ。
違うんにゃ。やる気は無かったにゃ。尽く逃げ道を塞がれ続けてきただけなのにゃ。
「ごほん」
「皆の者! 新王陛下のお言葉である!」
察しが良いにゃ。ついでにゃ。即位も取り消してにゃ。
「あ~……おみゃあら。この国の現状はわかってるにゃ?」
「恐れながら!」
メガネ君にゃ。一番乗りとはにゃかにゃかガッツがあるにゃ。
「良い胆力にゃ。おみゃあの考えを言ってみるにゃ」
「ははっ! 崩壊秒読みかと!」
「素晴らしい意見にゃ。おみゃあ今まで何してたにゃ?」
「一兵卒でありました! 上官は全滅致しました!」
「完結な回答にゃ。気に入ったにゃ。おみゃあに続けて質問にゃ」
「光栄であります!!」
「ノルドは次に何をすべきだと思うにゃ?」
「規模を縮小すべきかと!」
ほぉぅ。
「続けるにゃ」
「はっ! 交渉を持ちかけるべきかと! 要求は不可侵条約の締結及び人質交換であります! こちらの切れる手札は伯爵領並びに謀反に加担した領地の独立! 伯爵の解放! そして国号の譲渡であります! 陛下の存在も圧力としては効果的かと!」
彼の言い分にどよめきが広がる。中々思い切ったことを言うものだ。
「その先は? どう考えているにゃ?」
ただの降伏宣言なら長くは続かないにゃ。
「先ずは国家基盤の回復を! 我らは小さくとも強大な国家を目指すべきかと!」
「反乱したやつらは身代わりかにゃ? 民ごと? 切り捨てられた領民たちはどうなるにゃ。諸外国に切り取られればまともな扱いを受けられるとは限らんにゃ」
「力無き正義は論ずるだけ無意味であると考えます!」
青いにゃぁ……。
「なっ!?」
「それではあまりにも!」
けどここで驚きを示す連中よりは現実が見えているにゃ。
「ふむ。参考になったにゃ」
私が呟くと、どよめきが収まった。単純な奴らにゃ。
「光栄であります!」
こいつは使えそうにゃ。覚えておくにゃ。
「聞いての通りにゃ。このままじゃまたいつ攻め滅ぼされるかもわからんにゃ」
またどよめきが広がった。
「静粛に! 静粛に!」
司会役(仮)がどよめきを収め、私に話の続きを促した。
「先に言っておくにゃ。メガネ君の考えは見事に現実を直視したものであったにゃ。この場で口にするクソ度胸には敬意を評するにゃ。そこは皆も見習うにゃ」
またどよめきが……来なかった。皆悲痛な面持ちで沈黙している。
「しかし一つ問題があるにゃ。これは大きな問題にゃ」
本当は一つどころじゃないけど。まあ細かいことはいい。
「メガネ君の想定は個人の力を多分に当てにしたものにゃ。流石に無理があるにゃ。比較的可能性が高いからと言って、そもそもの実現可能性が低いなら意味がないにゃ」
スフィアがこの国を守護し続ける前提だ。不可侵条約なんて気休めにゃ。
そんなの困るにゃ。私たちにも都合があるにゃ。
そもそもにゃ。セル坊たちが住むあの小さな村はローゼンバーグ伯爵領に含まれるにゃ。丸ごと切り捨てるのは反対したいにゃ。極めて個人的な都合でにゃ。それが人の心というものにゃ。心を持つ人であるからこそ、如何に力を持とうと国一つを守り抜くなんて土台無理な話なのにゃ。
かつてスフィアはそんな無茶を押し付けられていたのにゃ。
スフィアはそれでも耐え続けたにゃ。普通の心をド根性だけで無理矢理支え続けていたのにゃ。
そのスフィアですら、スフィア本人とあの王子のエゴによってこの国を一度は見捨てたのにゃ。この先も同じことが無いと誰に言えるというにゃ。
これは何も、私たちの都合だけの話じゃにゃい。人は案外痛みもすぐに忘れるものにゃ。きっと力のありすぎるスフィアは迫害の対象になるにゃ。護国の要を人々がいずれ自身の手で排斥しようとするのにゃ。
人は責任を転嫁する生き物にゃ。個人個人はともかくとして、大衆となればいずれ必ずそうなるにゃ。苦境に立たされた時は尚の事にゃ。だから次に狙われた時はスフィアが原因だと言い張るにゃ。スフィアに復讐するために敵が再び攻めてきたのだと宣うにゃ。
残念ながらそれが現実にゃ。事実でもあるにゃ。敵も力がありすぎるスフィアを過剰に警戒するにゃ。新たな戦争の口実として、間違いなく利用する筈にゃ。
正直万事休すにゃ。私にこの国を救う方法なんて思いつかないにゃ。そもそも立地も悪いにゃ。橋を越えなきゃ他所の国に逃げることだって出来ないにゃ。
けど、既に橋の向こうは実質的に敵国にゃ。お先真っ暗にゃ。
ついでに言うなら、更に北に逃げるのも不可能にゃ。これより北にあるのは険しい山脈にゃ。人の住めぬ雪山にゃ。海に出て新天地を探すことすら不可能にゃ。どん詰まりにゃ。
なんてのがスフィアから聞いた話にゃ。予習もバッチリにゃ。半端はダメって母ちゃんにも言われたからにゃ。
だからメガネ君の意見を鵜呑みにするわけにもいかんのにゃ。
お葬式みたいな顔で沈黙を続ける人々に視線を向ける。
彼らは私に期待している。そんな私が任せろと言ってくれなかった。どんなことがあっても守り抜いてやると約束してくれなかった。それが信じられないようだ。
なんて甘ったれた連中にゃ。散々迫害してきた獣人である私を王位につけようなんて、素っ頓狂なことを考える連中にゃ。スフィアが投げ出したくなるのもわかるにゃ。きっとまともな連中は皆王子が首を跳ねてしまったにゃ。にゃんて勿体ない。困ったものにゃ。
「問題は一つずつ解決していくにゃ。メガネ君の案の最も優れている点は、何より確実な時間稼ぎが出来るという点にゃ」
少しだけ人々の目に希望が宿り始めた。本当に単純な連中にゃ。案外私でも王様が務まるのかもしれんにゃ。こんな国の王様はごめんにゃが。だからって見捨てるわけにもいかんのにゃ。ここはスフィアが生まれ育った国なのだから。




