04-02.きなこ餡蜜
「スフィア。偽名を考えるにゃ」
「偽名? アズキのですか?」
「何言ってるにゃ。スフィアのに決まってるにゃ」
「私はスフィアが偽名ですよ?」
「それは愛称にゃ。偽名とは言わんにゃ」
「だとしても、オルフェスフィア・アルビオンを名乗らなければ問題ありませんよ」
「今からおみゃあは『きなこ』にゃ」
問答無用にゃ。
「なんですかそれ」
「アズキと双璧を為す菓子の材料にゃ」
美味しいやつにゃ。
「ふふ♪ 可愛らしい名前ですね♪ いいですよ♪ 潜入時のコードネームとして利用させて頂きますね♪」
「それでいいにゃ」
最低限の体裁は保てるにゃ。
「キナコ♪ ふふ♪ いっそ改名してしまいましょうか♪」
浮かれてるにゃ。浮かれポンチにゃ。
「スフィアがいいにゃ。呼び慣れてるにゃ」
「そうですか? そうですか♪」
フルーツポンチにゃ。食べたいにゃ。
「ロースハンバーグ定食の家はもうすぐにゃ?」
「ローゼンバーグ伯爵の屋敷は通り過ぎました」
なんで!?
「下を見てください。戦争は伯爵が勝利したのです」
そうなの? 思っていたより荒れてないなってくらいにしか感想無いんだけど。
「足跡を見ればわかります。伯爵側は整然とした足跡が続き、王国側は乱れています。これは敗走によるものでしょう。加えて言うなら、死体を乗り越えた跡も、踏み止まって争った深い窪みもありませんでしたから」
なるほどにゃ。賢いにゃ。
なんなら私の観察眼も中々のものにゃ。私も賢いにゃ。
「このまま進軍の形跡を辿りましょう。軍か拠点を見つけたら伯爵を探します。既に王都へ入った後であれば……乗り込むしかありませんね」
「伯爵に拘る必要はあるんかにゃ? 私の顔見せて家令にでも聞けばいいんじゃにゃいか?」
戦場で総大将を尋問するなんてきっと簡単じゃないにゃ。いっそ手薄になった屋敷に潜り込んだ方が楽ちんにゃ。
「……それもそうですね」
本当に気付いてなかったにゃ?
スフィアは戸惑っている。気付かなかったことに驚いているみたいにゃ。
「いいんにゃよ。王都に乗り込んで仕返しするでも。どんな地獄にだって付き合ってやるにゃ」
「……いえ。引き返しましょう」
余計なこと言ったかもしれないにゃ。いや。言ったにゃ。
「ダメにゃ。このまま行くにゃ。もっと素直になるにゃ。自分の心の声に耳を傾けるにゃ」
「心の声……」
「スフィアは無意識に思ったにゃ。これは好都合だと。やっぱり燻ったままなのにゃ。燃やし尽くしたいにゃ。燃え残りは今ここで精算するにゃ」
「……ダメです。約束した筈です。アズキだって口にしたことですよ。戦争に首を突っ込むつもりはありません」
「臨機応変にゃ」
「初志貫徹は大切です。何度も蒸し返さないでください」
「……わかったにゃ」
「結構です」
……正直、スフィアはとことん運が悪いと思うにゃ。そういう星の下に生まれたんだと思うんにゃ。
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「どうして……よりによって……何故……」
やっぱりにゃ。やっぱこうなったにゃ。
なんかもう、薄々そんな気がしていたにゃ。運命がスフィアを誘導しているのにゃ。
私たちは首尾よくグラシアを売った奴隷商の情報を聞き出した。更にその奴隷商もあっさりと見つけ出し、母ちゃんの行方を掴むに至った。
母ちゃんが売られたのはノルド王家だった。
彼女は今城に居る。私たちの向かうべき場所も定まった。
「悪いにゃ。スフィア」
「……アズキのせいではありません」
「なら観念するにゃ。堂々と乗り込むにゃ」
「いいえ。隠密作戦です」
あんみつ。食べたいにゃ。
「きなこ餡蜜。食べたいにゃ」
「なんですって?」
いかんにゃ。つい口に出してたにゃ。
「流石にどうかと思います。もう少し緊張感を持ってください」
スフィアこそピリピリしすぎにゃ。気持ちはわかるにゃけど。
「すまんにゃ」
「……あとで好きなだけごちそうしてあげますから」
え? あるんかにゃ?
いや。あったとしてもスフィアは知らんにゃ。きなこ知らんかったにゃ。……にゃんか勘違いしてにゃいか? ツッコまにゃいよ?




