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【完結済】転生したら猫耳美少女メイドだった。悪役令嬢に攫われた。 ー 愛知らぬ光の悪役令嬢と気まぐれポンコツ猫娘。南国の楽園を目指す ー  作者: こみやし
02.寄り道

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02-10.刻み込まれた情念


 翌朝、私たちは村を後にした。



「少しくらい滞在してもよかったにゃ」


「ダメです。何言ってるんですか」


 だって。赤ちゃん見たかったにゃ。もうすぐ産まれるって言ってたにゃ。



「心配は要りませんよ。たとえローゼンバーグ伯爵が王家と争おうと、このノルド王国が他国に責め滅ぼされようと、あの小さな村の人々の生活が大きく変わることはありません」


「それはなんでにゃ?」


「あの村が小さすぎるからです。それに立地の問題もあります。わざわざ攻め滅ぼす旨味がありません。味方の軍が逃げ込むこともありません。あそこは袋小路ですし、王都への進路上ですらないのですから」


「……それはスフィア自身が安心するために考えたにゃ? それとも私を安心させるために考えてくれてたにゃ?」


「なんですかその質問」


「やっぱり首突っ込むにゃ」


「ダメですってば。私たちは南へ向かいます」


「けど心配なんにゃろ? 私も心配にゃ」


「心配は無いと言いました」


「ママさんは妊娠中にゃ。近くで戦争が起こるかもなんて耳にしたら気が気じゃいられないにゃ」


「届きませんよ」


「わからんにゃ。あのポンコツトリオが漏らすかもしれないにゃ。あいつらは町にも出入りしているにゃ」


「彼らとて、気を遣っていたではないですか」


「ポンコツを甘く見るにゃ」


「……そうですね。それは否定できませんね」


 何故私をそんな目で見るにゃ。



「それでもです。私は戦争に介入するつもりはありません」


「意地っ張りにゃ」


「どうか理解してください。あなたを危険に巻き込みたくはないのです」


「スフィアがいれば大丈夫にゃ」


「……アズキが守ってくれるのではなかったのですか?」


「お互いに守りあうにゃ♪」


「……それは素晴らしい関係ですね」


 ジト目にゃ。私には無理だと言いたげにゃ。



「戦い方を教えてくれにゃ」


「必要ありません。アズキがケガでもしたらどうするのですか」


 過保護すぎにゃ。



「いい加減話を変えましょう。もうウンザリなんです」


「……すまんにゃ。押し付けるつもりはなかったにゃ」


「わかっています。アズキが何より私を想ってくれているのだと理解していますよ」


「……当然にゃ」


 私にはスフィアしかいにゃいんだから……。



「もっと愛を囁いてください」


「愛はお預けにゃ」


 気を紛らわせるための求愛なんて、スフィアの求めているものなんかじゃないのにゃ。



「酷いです。あんまりです。私はこんなに尽くし……いえ」


「流石にゃ。私が指摘するまでもなく気付いたにゃ」


「……ズルいです」


「それにゃら問題無いにゃ♪」


「ズルいです。ズルいです。アズキばっかり。私だって愛が欲しいんです」


「愛ならあるにゃ。私はスフィアを愛しているにゃ」


「……え?」


「何を呆けることがあるにゃ」


「だって……まだって……」


 いつの話してるにゃ。つい最近にゃ。猫は気まぐれにゃ。


 違うにゃ。そんにゃじゃにゃいにゃ。スフィアが言ったにゃ。私たちは恋人にゃ。言葉一つで意識も変わるものにゃ。スフィアから目が離せにゃいにゃ。スフィアに夢中にゃ。きっとこれが愛なのにゃ。猫って単純にゃ。もとからにゃ。



「愛しているからといって愛情たっぷりに接したりしないのにゃ。人それぞれの距離感ってものがあるにゃ」


「そういう問題じゃ」


「そういう問題にゃ。スフィアが私の愛を実感出来ないのと同じ話にゃ」


「……意地悪です」


「だからお預けにゃ。ちゃんと理解できるまでは勿体ぶるにゃ」


「いっぱい向けてくれれば実感出来るじゃないですか」


「嘘にゃ。スフィアはきっと逃げるにゃ」


「そんなわけないじゃないですか!」


「そんなわけがあるのにゃ。私のスフィアを見る目は正しいのにゃ」


「間違ってます! 全然何もわかってません!!」


「私はもう、愛しているだなんて口にしないにゃ」


「意味がわかりません!」


「だからこう言うにゃ。ありがとう、スフィア。いつも隣に居てくれて。手を握ってくれて。助けてくれて。美味しいご飯を作ってくれて。眠る時に抱きしめてくれて。私のことを一番大切にしてくれて。ありがとう。スフィア。大好き♪」


「……なんですかぁ……それぇ」


 へにゃへにゃなっちゃったにゃ。



「やっぱりにゃ。思った通りにゃ。スフィアにはこっちの方がちゃんと伝わるにゃ」


「……む~ぅ~!」


 ぽかぽかぽか。痛いにゃ。



「形に拘り過ぎるのはよくないにゃ。私は『愛してる』にゃんて一言で済ませたくにゃいにゃ。もっともっとスフィアへの『好き』を伝えていきたいにゃ。一つ一つに感謝を以ってスフィアと接したいにゃ。私の想いはにゃにか間違っているかにゃ? スフィアには焦れったいものでしかにゃいか?」


「……」


 にゃんか言えにゃ。



「スフィア」


 繋いだ手を握りしめる。そのまま頬に持っていき、擦り付ける。



「スフィアの手は温かいにゃ。私の大好きな手にゃ。いつも私を気持ちよくしてくれるにゃ。撫でるの上手にゃ。美味しいご飯も作れるにゃ。魔物だって一撃にゃ。にゃにより、ずっと私に触れてくれているにゃ。それが何より嬉しいにゃ。こんなの好きになって当然にゃ。大好きにゃ。スフィア」


 スフィアは別に、自己肯定感が低いわけじゃない。自分には何でも出来ると自負しているし、自身の美しさもちゃんと理解している。ただ、今までは選ぶ権利が無かっただけだ。


 だから追放されるまではあの学園を飛び出すことだって出来なかった。スフィアならとっくに逃げ出せていたのに。その力があるのに。そんな簡単なことが出来なかった。


 もちろん優しさもある。スフィアはとっても優しい子だ。いつも誰かのために思い悩んでいる。本当は今すぐにでも走り出したい筈だ。戦争を止めたい筈だ。


 けれどそれは出来ない。スフィアは怖いのだ。またあの生活に戻るのが。自分を殺して滅びゆく国に仕えることが。争いを止めようとすれば、最後に行き着くのは再びあの場所になるのだとわかっているのだ。



 スフィアが逃げ出したいのは本当だ。それでも私は囁き続けるだろう。別にスフィアを英雄にしたいわけじゃない。ノルド王国の玉座に着けたいわけでもない。


 私と二人で旅を続けて欲しい。私だけのスフィアでいてほしい。それが私の本音だ。


 けどそれじゃあダメだと思うんだ。スフィアはきっと後悔し続ける事になるんだと思うんだ。


 別に後悔したっていい。私が慰めてあげればいい。それで平和に暮らせるなら何の問題もありはしない。そうとも思いはするけれど。


 やっぱりスフィアには笑っていてほしいから。何の憂いもなく生きていてほしいから。私に何が出来るわけでもないけれど。せめて……。



「にゃんで無言でテント張ってるにゃ?」


 開けた場所に出るなり、何故かスフィアはテントを設置した。今はまだ真っ昼間なのに。



「昼休憩かにゃ?」


 何も答えず、私の手を引いてテントに入っていく。



「待てにゃ」


「……」


 おい待つにゃ!? 何無言で脱ぎだしてるにゃ!?



「そういうのは気が早いにゃ! もっと段階を踏ん……で……え?」


「……見たがっていたではないですか。私の身体を」


「……なん……で」


「安心してください。これは奴隷紋ではありません。誰かに刻み込まれたものでもありません。自分で施したのです」


「……」


 スフィアの全身には紋様が刻まれていた。ある種の美しさと同時に痛々しさすら感じる不思議な紋様だ。



「魔力を抑えれば不可視化も容易です」


 あっさり紋様は消え去った。後にはスフィアの美しい肢体だけが残った。



「……引きますか? 私を嫌いになりましたか?」


「なるわけないにゃ。ちょっと面食らっただけにゃ。もっと見せるにゃ。話も聞かせるにゃ」


「私の伝えたいことはわかりますか?」


「スフィアは……囚われてなんていなかったにゃ。自分の肉体を国と王に捧ぐべき神聖なものだなんて思ってないにゃ」


「アズキ!!」


 抱きついてきた。正解だったらしい。



「やわやわにゃ。ぐへへ♪」


「もう! 茶化さないでください!」


 唇を押し付けてきた。強引過ぎにゃ。はしゃぎすぎにゃ。



「私は私のやりたいようにやってきました。見くびらないでください。私がやらないと言ったらやらないのです。私はあなたの言葉に従うだけの恋人になりたくはありません。私の望みは南へ行き、あなたと不自由無く暮らすことです。それ以外の全てを置き去りにしてでもです。もちろん悩みもします。心を痛めもします。けどそれでもです。私はまっすぐ進み続けます。信じた道を歩み続けます。私を舐めないでください。私は強いんです。決して惑わされはしないのです」


 再び唇を押し付けてきた。ロマンの欠片も無いキスだ。


 いや。これこそ、スフィアにとってはロマンチックなキスなのかもしれない。私がスフィアの全てを受け入れたから嬉しくて堪らないのかもしれない。


 けれどそれは誤解だ。私こそスフィアに翻弄されているのだ。私にスフィア程の熱量はない。だからスフィアには物足りないのだろう。感じられないのだろう。



「アズキ」


 今度は唇を離して見つめてきた。


 やめるにゃ。目を合わせ続けるのは危険にゃ。本能が身体を支配しそうになるにゃ。警戒心なんて抱きたくないにゃ。きっと誤解させてしまうにゃ。


 スフィアはまた傷付くにゃ。言う程強くなんてないのにゃ。この子はただ強がっているだけなのにゃ。私にはそれがわかるのにゃ。


 この紋様こそが何よりの証にゃ。ある種、子供らしい反抗的な心の発露なのにゃ。自らの身体に傷を付けて当てつけただけなのにゃ。次代の王が手にすべき完璧な肉体に瑕疵を刻むことで「ざまあみろ」と言いたかっただけなのにゃ。きっと本人すらも無意識に。


 だから怖がっているにゃ。私が受け入れなければ、この子は酷く落ち込むにゃ。自分で見せつけておいて、裏切られたと悲しむにゃ。今の私なら受け入れてくれると燥いでいるのにゃ。居ても立っても居られなくて、こうして見せつけてきたのにゃ。想像以上に屈折しているのにゃ。想像以上に普通の子だったのにゃ。



「スフィア。もっと身体を見せてほしいにゃ」


「はい♪ いくらでも♪」


 なんとか視線を外してくれた。



「凄いにゃ。よく見るとやっぱり綺麗にゃ」


「触っても構いませんよ♪」


「え? いいのにゃ?」


「はい♪ だってアズキは私を愛してくれたのですから♪」


 盛り上がってるにゃ。置いてけぼりにゃ。



「にゃら遠慮なく」


 それはそれにゃ。こっちも気になるにゃ。



「ふにふににゃ」


「ふふ♪ 何処触ってるんですか♪ もう♪」


 おっと間違えたにゃ。



「すべすべにゃ」


「きゃきゃっ♪ くすぐったいです♪」


 違ったにゃ。



「これはどういう効果があるにゃ?」


「一種の魔法陣です。魔術の効率的運用に不可欠でして」


 話が長くなりそうにゃ。

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