02-06.方向性の違い
無事に領境を越えた。
だいぶ時間は掛かってしまったが、その甲斐あって誰にも発見されることなく領境の大河を乗り越えた。
私たちはあいも変わらず道無き道を歩き続けている。
「退屈にゃ」
「我慢してください」
「情報を集めに行かにゃいか?」
「無茶言わないでください。暇つぶしでやることじゃないでしょう」
「人生はまだまだ長いにゃ。何でも挑戦してみるべきにゃ」
「なんですかそれ。一発アウトだと言った筈です」
「大丈夫にゃ。スフィアなら取り戻してくれるにゃ」
「あのですねぇ……」
いかんにゃ。そろそろムッときてるにゃ。
「あ! あれは何にゃ!?」
「え? ああ。泉が湧いているようですね。丁度良いです。ここで休憩にしましょう」
「なんなら今日はもうここでキャンプしちゃうのはどうかにゃ?」
「まだだいぶ早い時間ですが……お疲れですか?」
いや。ぶっちゃけ全然にゃ。獣人だからか、基礎スペックは人間より遥かに高いっぽいにゃ。私にゃセンスがにゃいから使いこなせにゃいけど。
「スフィアの方が疲れているように見えるにゃ。マッサージしてやるから少し休むにゃ」
「……はい。アズキ」
嬉しそうにはにかんだ。
キャンプの準備を済ませた私たちは、早速テントに籠もることにした。
「ふにゃな~♪」
……あれ?
「……待つにゃ」
「待ちません♪」
「ゴロゴロみゃぁ~♪」
違っ!?
「こうじゃないにゃ!」
「わっ!? なんですか。もう」
「違うにゃ違うにゃ! 私が撫でられる番じゃないにゃ! 私がスフィアを癒やす番にゃ!」
「はい♪ とっても癒やされていますよ♪」
「じゃないにゃ! このごっどふぃんがーが癒やすにゃ! 超絶テクを見せてやるのにゃ! 昇天間違い無しにゃ!」
いざ覚悟!
「結構です♪」
「なんでにゃ!?」
「私は人に触れられ慣れていないので」
「だからなんにゃ!? 人のことは散々撫で回しておいてにゃ!? 自分は触られたくないにゃ!?」
「はい。すみません」
「にゃにゃ!? 酷いにゃ! あんまりにゃ!」
「え? また何か誤解をさせてしまいましたか?」
「散々弄んでポイする気にゃ!?」
「するわけないじゃないですか。一生大切にします」
「一方通行にゃ!」
「アズキも私を愛してくださっているのですか?」
「愛は! ……まだにゃが」
「ならば身体に触れるのはおかしいですよね」
くっ……。
「安心してください。私はアズキを愛しています。だから触ります。私の愛を流し込み続けます」
「そんなのズルいにゃ!」
「ズルくないです。アズキが軽薄なだけです」
「お堅過ぎにゃ! こんなの相棒同士のコミュニケーションにゃ! 友達感覚にゃ! 別に変なところ触るだなんて言ってないにゃ! 自意識過剰にゃ!」
「そんなことはありません。アズキが鈍すぎるだけです。私の想いを汲み取れていないだけです。現に手を繋いだり、抱き合って寝たりはしているじゃないですか。私はちゃんと線引が出来ています。今は愛するアズキを愛でる時間です。だからアズキには触れさせません。私を愛してくれないアズキに身体を許すつもりはありません」
「私にそんなつもりは無いにゃ! 勝手に決めるにゃ!」
「勝手なことを言っているのはアズキの方です。少しは私の気持ちも慮ってください。変なところを触られたら意識してしまうじゃないですか」
「にゃっ!?」
マジか!?
「いや! それはおかしいにゃ! だったら毎晩襲われている筈にゃ!」
「ですから私は線引が出来ています。しかし今は邪な気持ちを抱いているので、アズキの要望に応えられません」
えぇ……。
「怖くなりましたか? 身の危険を感じますか?」
「……信頼はしているにゃ」
「それは何よりです♪」
「にゃけど」
「諦めてください。いえ。もちろんアズキが真剣に考えてくださるなら拒否なんてしません。喜んで触れ合います」
マジだ……こいつマジで言ってやがるにゃ……。
やっぱりスフィアの愛は一方的にゃ。そんなやり方しか知らにゃいなんてダメなのにゃ。
「お前は間違っているにゃ」
「何故ですか?」
「無償の愛が欲しいと言いつつ、結局対価とセットでしか考えられていないのにゃ」
「……酷いことをおっしゃいますね。どうしてそう思うのです? 私何か変なことを言いましたか?」
「スフィアは今、私には対価が支払えないから愛を出し惜しむと言ったのにゃ」
「穿ちすぎです」
「駆け引きの仕方がズレているにゃ」
「そんなつもりはありません。私はただアズキを傷付けたくないだけです」
「そんな事を口にしているのがおかしいのにゃ。本当に好きならドキドキワクワクしながら受け入れたらいいにゃ。内心邪な気持ちを抱いていたって構わないのにゃ。それを我慢する苦しみと触れられる喜びを楽しむのが恋の醍醐味にゃ」
「私のこれは恋ではありませんから」
「割り切りすぎにゃ。切り分けすぎにゃ。愛や恋というのはもっと複雑怪奇なものなのにゃ」
「難しいですね」
「簡単にゃ。必要なのはパッションにゃ。衝動的行動にゃ。心に委ねるにゃ。その先にしか無償の愛は存在せんのにゃ」
理屈で切り分けて整理している時点で真っ当な愛とは呼べんのにゃ。愛はそんな風に割り切れるものではないのにゃ。
「マッサージしてやるにゃ」
「結構です」
「遠慮……うんにゃ?」
なんだ? 何か聞こえる? 子供の声?
「……困りましたね」
スフィアも気付いたようだ。スフィアの場合は常に使用している探知魔術の効果にゃろうけど。流石の完璧超人も、猫獣人に匹敵する聴力まで持っているわけでもあるまいし。
「近くに村でもあるのかにゃ?」
「おそらくは」
「ちょうど良いにゃ。少し寄り道していくにゃ。社会科見学にゃ」




