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今宵薬局  作者: 蟷螂
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第13話 華麗なる女優 13-5

6


結果の連絡は三日後に来た。


合格だった。


紗英はメールを三回読み返した。見間違いではない。たしかに自分の名前がある。脇役ではあるが、物語の転調を担う重要な人物と書かれていた。


手が震えた。


すぐに誰かに伝えたいと思った。けれど最初に浮かんだのは、家族でも友人でも劇団の仲間でもなく、あの夜の薬局のことだった。


紗英はその日の夕方、レッスンを早めに切り上げると、今宵薬局へ向かった。


扉を開けると、あの柔らかな光が迎えてくれた。


店主はいつものようにカウンターの奥にいた。


「いらっしゃいませ」


「……あの、覚えてますか」


「ええ。スポットライト・トローチのお客様ですね」


紗英は思わず笑ってしまった。


「合格したんです。この前のオーディション」


「それは、おめでとうございます」


「薬のおかげです」


紗英はそう言いかけて、少し言い直した。


「……いいえ、違う。きっかけをもらったんだと思います」


葉月は何も言わず、続きを待ってくれた。


「最初は本当に、薬のおかげで見てもらえたんです。あれがなかったら、多分まだ自分の声が届くって信じられなかった。でも……この前のオーディションでは、使いませんでした」


「そうですか」


「使いたかったです。すごく。でも、たぶんあそこで使ったら、この先もずっと、肝心な時に自分だけじゃ立てなくなる気がして」


紗英はバッグから銀の缶を取り出した。


中にはまだ三粒残っている。


「これ、返したほうがいいですか」


葉月は缶を見たあと、穏やかに首を横へ振った。


「お持ちになっていて構いません。薬は道具ですから。使うか使わないかを決められるなら、もうそれに使われることはありません」


紗英はほっとしたような、少し寂しいような顔をした。


「私、ずっと“華のある人”が羨ましかったんです。入ってきただけで空気を変える人。しゃべっただけでみんなが聞く人。そういう人になれない自分が嫌でした」


「羨望は、悪い感情ではありません」


「でも最近、少しだけ分かったんです。私には私の光り方があるのかもしれないって。派手じゃなくても、静かに残るみたいな……まだ全然足りないですけど」


葉月は水晶球に手を添えた。


「舞台照明には強いものもあれば、柔らかなものもあります。同じ明るさでなくとも、必要な光はそれぞれ違います」


紗英はその言葉を胸の中で転がした。


「もっと頑張ります」


「ええ」


「いつか、薬がなくても、“あの人を見たい”って思ってもらえる役者になります」


店主は初めて、ほんの少しだけ表情を和らげた。


「それは、きっと良い目標ですね」


紗英が帰ったあと、店内は再び静けさを取り戻した。


店主は水晶球を覗き込む。


球の中には、撮影現場で立ち位置を確認する紗英の姿が映っていた。以前のような頼りなさはない。まだ不器用ではあるが、自分の足で床を踏み、誰かの視線を恐れすぎずに受け止めている。


「……借りた光で、自分の灯を見つける方もいらっしゃるのですね」


店主はそう呟いた。


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