第12話 嘘を見抜く目薬 12-1
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黄昏れ時、シャッター街と化した商店街に一店舗だけ営業している店があった。
その店の店名は今宵薬局と書かれている。
店名が書かれた看板は古いが、店内はありふれた薬局の様子での薬が所狭しと並べられている。ただ、その薬は一般的に流通している市販品とは違う印象がある。
そしてカウンターの向こうに男がひとり座ってなにやら水晶球をじっと眺めている。
男は20代後半で顔は整っている。しかし、よく見ると化粧で誤魔化されているが口の周囲にうっすらと縫合の傷跡がある。その男はこちらに気づくと、にこやかな顔になった。
「やあこんにちわ、いや、もうこんばんわかな、今宵薬局へようこそ。私はここの店主の「 」です。ここに訪れるお客様は、みんな悩みを抱えた方ばかり、組織を維持、発展するために奔走されている方です。彼を見ていると、わたしの古き友人を思い出しますねぇ。しかし、結果が芳しくない。その要因に気付きながらもどうすべきか苦悶されている方です。さて、この方にはどのような処方がよいでしょうか。」
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村上誠一郎は、52歳の中小企業の社長である。
父親から引き継いだ精密部品メーカー。従業員は150名。創業40年の会社を、誠一郎は25年かけて守り続けてきた。
しかし、ここ数年で何かが変わっていた。
業績が、じわじわと悪化している。
売上は3年連続で前年割れ。利益率は年々下がり、今期は赤字転落の危機に瀕していた。
誠一郎は理由がわからなかった。
いや、薄々はわかっていた。
でも、証拠がない。
取締役会議室。
月例会議が始まった。
営業部長の佐伯が、資料を広げながら報告する。
「今月の売上は、前月比96%です。市場環境が厳しく、やむを得ない状況です」
製造部長の堀内が続ける。
「製造コストは、原材料費の高騰により増加しています。改善は困難な状況です」
経営企画部長の高橋が締めくくる。
「来期の見通しも、厳しい状況が続くと予測されます」
誠一郎は資料を見ながら、黙っていた。
全員が、もっともらしいことを言っている。
でも、何かが引っかかる。
数字の裏に、何かが隠れている気がする。
(……本当のことを言っているのか?)
誠一郎は三人の顔を見渡した。
佐伯は目が泳いでいる。
堀内は資料ばかりを見ている。
高橋は自信満々な顔をしているが、どこか作り物めいている。
でも、証拠がない。
「わかった。引き続き、改善策を検討してくれ」
誠一郎は会議を締めくくった。
その夜、誠一郎は一人で社長室に残っていた。
コンサルタントを入れて社内改革を試みた。
成果報酬制度を導入した。
業務プロセスを見直した。
でも、数字は改善しない。
それどころか、悪化している。
(おかしい)
誠一郎は窓の外を見つめた。
(何かが、根本的におかしい)
幹部たちが、既得権益のために改革を骨抜きにしているのではないか。
自分に都合の良い数字だけを報告して、不都合な真実を隠しているのではないか。
でも、証拠がない。
証拠がない限り、社内で25年以上勤めてきた幹部たちを切ることはできない。
(証拠さえあれば……)
誠一郎は深く息を吐いた。
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