第11話 根拠なきプロテイン 11-5
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翌日、作弥は山口部長のもとへ行った。
「部長……本当に申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。
「……分かってくれたか」
「はい。俺は、力だけを求めて、大切なことを忘れていました。周囲の意見を聞くこと。謙虚でいること。チームで働くこと」
山口部長は静かに頷いた。
「お前は変わった。それ自体は悪いことじゃない。でも、変わったことで天狗になった。それが問題だったんだ」
「はい……」
「力は手段だ。目的じゃない。それを忘れるな」
「はい」
木村にも頭を下げた。
「木村さん、すみませんでした。先輩のアドバイスを無視して」
木村は苦笑いした。
「まあ、お前が反省してるなら、いいよ。でも、なんであんなに変わっちゃったんだ?」
作弥は少し迷ったが、正直に答えた。
「実は……特別なプロテインを使ってて」
「特別なプロテイン?」
「うん。それで一気に筋肉がついて、自信もついて……でも、それが行き過ぎた」
木村は真剣な顔で言った。
「作弥、力は大事だ。でも、それ以上に大事なのは、使い方だ。お前は今、大事なことを学んだ。それを忘れるな」
「はい!」
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それから、作弥は地道に働き始めた。
減給処分で給料は減った。補佐業務で、主導的な仕事はできない。
でも、作弥は文句を言わなかった。
「作弥、この資料まとめてくれ」
「はい、分かりました」
「作弥、この商談、付いてきてくれ」
「はい、何でも手伝います」
新人が入ってきた時、作弥は丁寧に教えた。
「最初は分からなくて当然だよ。俺も失敗ばっかりだったから」
以前の自分と、今の自分の違いが、作弥にはよくわかった。
以前の自分は、力があると思い込んで、誰も必要としなかった。
今の自分は、力がないことを知って、周囲を大切にしている。
どちらが本当の強さか、もう迷わなかった。
3ヶ月後、山口部長が作弥を呼んだ。
「作弥、そろそろ小さな案件を任せてみようと思う」
「本当ですか!」
「ああ。でも、今回はチームでやれ。一人で突っ走るなよ」
「はい!」
作弥はチームで丁寧に案件を進めた。
木村がアドバイスをくれる。
「作弥、ここはもう少し慎重にいこう」
「はい、そうですね」
今度は、ちゃんと聞いた。
案件は成功した。
12
仕事帰り、作弥は商店街を通った。
あの薬局を探したが、見つからなかった。
(……もう、見えないのか)
作弥は少し寂しかったが、納得した。
(もう、必要ないってことか)
でも、心の中で呟いた。
(ありがとうございました。あのプロテインがなかったら、僕は変われなかった)
(失敗もしたけど、大切なことを学べた)
風が、静かに吹いた。
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今宵薬局の奥で、「 」は水晶球を見つめていた。
球の中には、商店街を歩く作弥の後ろ姿が映っている。
「筋トレは「やれば」確実に出来るメソッド。お渡ししたプロテインはそれをサポートしただけ。でも、筋トレで出来た自信を仕事への自信と誤謬したのがいけませんでした。」
「しかし、お客さまは破滅する前に周囲の方に助けてもらって、ようやく自分を変えることが出来ました」
水晶球の中で、作弥が空を見上げている。
店主は静かに微笑んだ。
店の扉が、カラン、と鳴った。
さて、次のお客さまがやって来たようだ。
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1年が経った。
作弥は再び、営業の第一線に戻っていた。
ある日、大きな商談を任された。
「作弥、お前に任せる」
山口部長が言った。
「はい!でも……」
「ん?」
「チームで進めさせてください。木村さんと、新人の田中君も連れて行きたいです」
部長は満足そうに頷いた。
「ああ、それがいい」
商談は成功した。
帰り道、木村が言った。
「作弥、お前、本当に変わったな」
「そうですか?」
「ああ。前は一人で突っ走ってたけど、今はチームを大切にしてる。それに、筋肉も適度になった」
作弥は笑った。
「あの頃は、間違ってましたから。力だけじゃ、何もできない。周りの人がいて、初めて力が意味を持つんだって、学びました」
木村は嬉しそうに頷いた。
「お前、いい営業になったよ」
その夜、作弥は空を見上げた。
(僕は、あの失敗があったから、今がある)
(あのプロテインは、僕に本当の強さを教えてくれた)
(力じゃない。謙虚さと、感謝と、仲間を大切にすること)
作弥は、今の自分に満足していた。
ヒョロガリではなくなったけれど、ムキムキでもない。
でも、今はそれでいい。
第11話 根拠なきプロテイン -了-
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