第11話 根拠なきプロテイン 11-4
7
案の定、プロジェクトは破綻し始めた。
2週間後。
「作弥、納期に間に合わないぞ!」
「大丈夫です!何とかします!」
3週間後。
「作弥、製造コストが予算を大幅に超えてる!」
「何とかなります!」
4週間後、納期当日。
製品は完成しなかった。品質も基準を満たしていない。コストは予算の1.5倍に膨れ上がっていた。
取引先の社長が会社に乗り込んできた。
「どういうことだ!約束の納期に間に合わない上に、届いたサンプルは基準以下!」
会議室に、作弥、山口部長、そして会社の常務が呼ばれた。
社長は怒りで震えていた。
「我々は貴社を信じて、他社の案件を断ったんだ!それなのにこの有様!」
「我が社は大きな損害を被った!損害賠償を請求する!」
常務の顔が真っ青になった。
「斉藤!どういうことだ!」
作弥は初めて、現実を突きつけられた。
「あ……その……」
言葉が出ない。
社長の怒りは収まらない。
「このような企業とは、もう取引できない!」
そのとき、山口部長が土下座した。
「申し訳ございません!全て私の管理責任です!」
続けて、木村も頭を下げた。
「私も先輩として、止めるべきでした!」
他の同僚たちも、次々と頭を下げた。
「どうか、斉藤だけの責任にはしないでください!」
作弥は呆然と見ていた。
(みんな……僕のために……)
社長は深く息を吐いた。
「……山口部長、あなたの顔に免じて、損害賠償は求めません」
「ただし、今後の取引は白紙です。そして、斉藤さん」
社長は作弥を真っ直ぐに見た。
「あなたは、力を持っても、それを使う知恵がなかった」
「力だけでは、何も成し遂げられないんですよ」
社長は去っていった。
会議室に重い沈黙が流れた。
常務が厳しい声で言った。
「斉藤、お前は首だ」
作弥の心臓が止まりそうになった。
しかし、山口部長が言った。
「常務、お願いします。もう一度だけチャンスを」
「部長!こんな無責任な……」
「彼は、まだ若い。今回のことで、必ず学びます」
木村も続けた。
「作弥は、元は真面目な奴です。最近少しおかしかっただけで……」
常務は長い沈黙の後、言った。
「……分かった。しかし、減給処分だ。そして、しばらくは補佐業務のみだ」
「はい……」
作弥は初めて、声が震えた。
8
その夜、作弥は自分のアパートで一人座り込んでいた。
プロテインの容器が目の前にある。
(俺は……何をしていたんだ)
部長や木村、同僚たちの頭を下げる姿が蘇る。
(みんなが助けてくれた)
(俺のせいで、みんなに迷惑をかけた)
作弥は気づいた。
(俺は、強くなったんじゃない)
(ただ、根拠のない自信だけが膨れ上がっていただけだ)
筋肉はついた。
でも、それは本当の強さじゃなかった。
(このプロテインのせいだ……)
いや、違う。
(プロテインのせいじゃない。それを盲信した俺のせいだ)
店主の言葉が、今になって蘇った。
――力は、人を強くもしますが、盲目にもします。
(そういうことだったのか)
(あの時、ちゃんと聞いていれば……)
作弥はプロテインの容器を手に取った。
少し迷った。
でも、ゴミ箱に捨てた。
容器がゴミ箱の底に当たる音が、静かなアパートに響いた。
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