表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今宵薬局  作者: 蟷螂
59/65

第11話 根拠なきプロテイン 11-4

7


案の定、プロジェクトは破綻し始めた。


2週間後。


「作弥、納期に間に合わないぞ!」


「大丈夫です!何とかします!」


3週間後。


「作弥、製造コストが予算を大幅に超えてる!」


「何とかなります!」


4週間後、納期当日。


製品は完成しなかった。品質も基準を満たしていない。コストは予算の1.5倍に膨れ上がっていた。


取引先の社長が会社に乗り込んできた。


「どういうことだ!約束の納期に間に合わない上に、届いたサンプルは基準以下!」


会議室に、作弥、山口部長、そして会社の常務が呼ばれた。


社長は怒りで震えていた。


「我々は貴社を信じて、他社の案件を断ったんだ!それなのにこの有様!」


「我が社は大きな損害を被った!損害賠償を請求する!」


常務の顔が真っ青になった。


「斉藤!どういうことだ!」


作弥は初めて、現実を突きつけられた。


「あ……その……」


言葉が出ない。


社長の怒りは収まらない。


「このような企業とは、もう取引できない!」


そのとき、山口部長が土下座した。


「申し訳ございません!全て私の管理責任です!」


続けて、木村も頭を下げた。


「私も先輩として、止めるべきでした!」


他の同僚たちも、次々と頭を下げた。


「どうか、斉藤だけの責任にはしないでください!」


作弥は呆然と見ていた。


(みんな……僕のために……)


社長は深く息を吐いた。


「……山口部長、あなたの顔に免じて、損害賠償は求めません」


「ただし、今後の取引は白紙です。そして、斉藤さん」


社長は作弥を真っ直ぐに見た。


「あなたは、力を持っても、それを使う知恵がなかった」


「力だけでは、何も成し遂げられないんですよ」


社長は去っていった。


会議室に重い沈黙が流れた。


常務が厳しい声で言った。


「斉藤、お前は首だ」


作弥の心臓が止まりそうになった。


しかし、山口部長が言った。


「常務、お願いします。もう一度だけチャンスを」


「部長!こんな無責任な……」


「彼は、まだ若い。今回のことで、必ず学びます」


木村も続けた。


「作弥は、元は真面目な奴です。最近少しおかしかっただけで……」


常務は長い沈黙の後、言った。


「……分かった。しかし、減給処分だ。そして、しばらくは補佐業務のみだ」


「はい……」


作弥は初めて、声が震えた。


8


その夜、作弥は自分のアパートで一人座り込んでいた。


プロテインの容器が目の前にある。


(俺は……何をしていたんだ)


部長や木村、同僚たちの頭を下げる姿が蘇る。


(みんなが助けてくれた)


(俺のせいで、みんなに迷惑をかけた)


作弥は気づいた。


(俺は、強くなったんじゃない)


(ただ、根拠のない自信だけが膨れ上がっていただけだ)


筋肉はついた。


でも、それは本当の強さじゃなかった。


(このプロテインのせいだ……)


いや、違う。


(プロテインのせいじゃない。それを盲信した俺のせいだ)


店主の言葉が、今になって蘇った。


――力は、人を強くもしますが、盲目にもします。


(そういうことだったのか)


(あの時、ちゃんと聞いていれば……)


作弥はプロテインの容器を手に取った。


少し迷った。


でも、ゴミ箱に捨てた。


容器がゴミ箱の底に当たる音が、静かなアパートに響いた。


作品・続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら下の★をクリックしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ