第11話 根拠なきプロテイン 11-2
間話を追記しました
3
3ヶ月目のある夜、ジムからの帰り道。
作弥は疲れ果てていた。
体の疲れだけじゃない。心の疲れも。
(頑張ってるのに、何も変わらない。自分には無理なのか……)
そんな時、見たことのない薬局が目に入った。
――『今宵薬局』
薄暗い商店街の中で、その店だけが柔らかな光を放っている。
不思議と、足が向いた。
扉を開けると、柔らかな鈴の音が鳴った。
店内は静かで、落ち着いた雰囲気に包まれていた。
ガラス戸を開けると、カラン、カラン、と鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
穏やかな声。店の奥から、一人の人物が現れた。
年ごろは20代後半だろうか、中性的な顔立ち。眼鏡をかけ、黒髪を後ろで結び白衣を着ている。
「ようこそ、今宵薬局へ」
店主は、作弥を見て静かに微笑んだ。
「いらっしゃいませ」
作弥は気づくと、自分の悩みを話していた。
「僕は……筋肉をつけたいんです。でも、全然つかなくて。周りからはヒョロガリってからかわれて……変わりたいのに、変われなくて」
店主は静かに頷き、棚の奥から大きめの容器を取り出した。
「これとかどうでしょうか」
容器には「Basis Protein」と記載されていた。
それは見たこともないメーカー製のプロテインだった。
「いや、プロテインなら持っているんで」
「いえいえ、お客さまこれは特別なプロテインです」
「特別な……?」
「そのへんで売っているプロテインとは違うものです。これを飲めば、必ずあなたの望む体が手に入るでしょう」
作弥は店主に胡散臭そうな目で見た。
「本当ですか?」
「ええ、本当です」
店主は少し間を置いて続けた。
「このプロテインは素晴らしい肉体をあなたにもたらすでしょう。そして自信がつくことにもなります。でも、その自信が本物かどうかは、あなた次第です」
「そこまで言うなら使ってみます。」
作弥はポケットから財布を取り出した
「いえ、お代は結構です。試供品とでも思ってください」
「いや、こんな容量のプロテインをただでもらっちゃて良いんですか」
「ええ、あくまで試供品ですから。」
「分かりました。じゃあこのプロテインもらっていきます」
作弥はプロテインを受け取り、店を出た。
鈴の音が、静かに響いた。
3
翌日から、作弥はプロテインを飲み始めた。
最初は何も感じなかった。
でも、1週間後。
「おっ、斉藤さん、少し締まってきたんじゃない?」
ジムのトレーナーが驚いた声を出した。
作弥も鏡を見て驚いた。
確かに、胸板が厚くなっている。腕にも筋肉がついている。
(本当だ……!)
2週間後、変化は誰の目にも明らかになった。
「作弥、マジで変わったな!どうしたの?」
大塚が驚いた顔で聞く。
「ジム通ってるんだ」
「いや、でもこの短期間でここまで変わる?すごいな」
作弥の体は見違えるように変わっていた。
細かった腕は太く、華奢だった肩は広く、貧相だった胸は厚くなった。
そして、何より。
自信がついた。
鏡を見るたびに、湧き上がる自信。
(俺は変われた。俺はできるんだ)
4
会社でも変化が現れた。
月曜の会議。
以前なら黙って聞いているだけだった作弥が、積極的に発言するようになった。
「この企画、僕にやらせてください!」
上司の山口部長が驚いた顔をする。
「お、作弥、積極的だな。いいぞ」
水曜の商談では、以前なら控えめだった作弥が、堂々と提案した。
「この条件で進めさせていただきたいです」
取引先の担当者も、作弥の変化に驚いていた。
そして、重い荷物を一人で運ぶ作弥を見て、先輩の木村が心配そうに声をかけた。
「作弥、大丈夫か?」
「大丈夫です!これくらい余裕ですよ!」
作弥は軽々と運んでいった。
木村は少し安心したように見えたが、その目には何か引っかかるものがあった。
1ヶ月後、作弥の体は完全に変わっていた。
ジムでも一目置かれる存在になっている。
「斉藤さん、すごいですね。どんなトレーニングしてるんですか?」
初心者に聞かれて、作弥は得意げに答えた。
「継続が大事ですよ。俺も最初は弱かったけど、今じゃこの通り」
実際には、プロテインの力。
でも作弥は、自分の努力の結果だと思い込んでいた。
しかし、少しずつ変化が起きていた。
周囲の声を、聞かなくなった。
「作弥、この企画、もう少し慎重に進めたほうが……」
先輩の木村がアドバイスする。
「大丈夫です!俺に任せてください!」
作弥は聞かない。
「作弥、取引先の意見も聞いたほうが……」
「いや、この方向で間違いないです。俺が責任持ちます」
作弥は自信満々だった。
間話
今宵薬局・店主の水晶球
今宵薬局の奥で、「 」は水晶球を覗いていた。
球の中に映るのは、ジムで自慢げに語る作弥の姿。
会社で周囲の意見を聞かずに突き進む作弥の姿。
「 」は静かに呟いた。
「……これは、良くない方向に向かっていますね」
でも、「 」はただ見守るだけ。
「致命的なことに陥る前に気づいてもらえると良いのですが」
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