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今宵薬局  作者: 蟷螂
57/65

第11話 根拠なきプロテイン 11-2

間話を追記しました

3


3ヶ月目のある夜、ジムからの帰り道。


作弥は疲れ果てていた。


体の疲れだけじゃない。心の疲れも。


(頑張ってるのに、何も変わらない。自分には無理なのか……)


そんな時、見たことのない薬局が目に入った。


――『今宵薬局』


薄暗い商店街の中で、その店だけが柔らかな光を放っている。


不思議と、足が向いた。


扉を開けると、柔らかな鈴の音が鳴った。


店内は静かで、落ち着いた雰囲気に包まれていた。


ガラス戸を開けると、カラン、カラン、と鈴が鳴った。


「いらっしゃいませ」


穏やかな声。店の奥から、一人の人物が現れた。


年ごろは20代後半だろうか、中性的な顔立ち。眼鏡をかけ、黒髪を後ろで結び白衣を着ている。


「ようこそ、今宵薬局へ」


店主は、作弥を見て静かに微笑んだ。


「いらっしゃいませ」


作弥は気づくと、自分の悩みを話していた。


「僕は……筋肉をつけたいんです。でも、全然つかなくて。周りからはヒョロガリってからかわれて……変わりたいのに、変われなくて」


店主は静かに頷き、棚の奥から大きめの容器を取り出した。


「これとかどうでしょうか」


容器には「Basis Protein」と記載されていた。


それは見たこともないメーカー製のプロテインだった。


「いや、プロテインなら持っているんで」


「いえいえ、お客さまこれは特別なプロテインです」


「特別な……?」


「そのへんで売っているプロテインとは違うものです。これを飲めば、必ずあなたの望む体が手に入るでしょう」


作弥は店主に胡散臭そうな目で見た。


「本当ですか?」


「ええ、本当です」


店主は少し間を置いて続けた。


「このプロテインは素晴らしい肉体をあなたにもたらすでしょう。そして自信がつくことにもなります。でも、その自信が本物かどうかは、あなた次第です」


「そこまで言うなら使ってみます。」


作弥はポケットから財布を取り出した


「いえ、お代は結構です。試供品とでも思ってください」


「いや、こんな容量のプロテインをただでもらっちゃて良いんですか」


「ええ、あくまで試供品ですから。」


「分かりました。じゃあこのプロテインもらっていきます」


作弥はプロテインを受け取り、店を出た。


鈴の音が、静かに響いた。


3


翌日から、作弥はプロテインを飲み始めた。


最初は何も感じなかった。


でも、1週間後。


「おっ、斉藤さん、少し締まってきたんじゃない?」


ジムのトレーナーが驚いた声を出した。


作弥も鏡を見て驚いた。


確かに、胸板が厚くなっている。腕にも筋肉がついている。


(本当だ……!)


2週間後、変化は誰の目にも明らかになった。


「作弥、マジで変わったな!どうしたの?」


大塚が驚いた顔で聞く。


「ジム通ってるんだ」


「いや、でもこの短期間でここまで変わる?すごいな」


作弥の体は見違えるように変わっていた。


細かった腕は太く、華奢だった肩は広く、貧相だった胸は厚くなった。


そして、何より。


自信がついた。


鏡を見るたびに、湧き上がる自信。


(俺は変われた。俺はできるんだ)


4


会社でも変化が現れた。


月曜の会議。


以前なら黙って聞いているだけだった作弥が、積極的に発言するようになった。


「この企画、僕にやらせてください!」


上司の山口部長が驚いた顔をする。


「お、作弥、積極的だな。いいぞ」


水曜の商談では、以前なら控えめだった作弥が、堂々と提案した。


「この条件で進めさせていただきたいです」


取引先の担当者も、作弥の変化に驚いていた。


そして、重い荷物を一人で運ぶ作弥を見て、先輩の木村が心配そうに声をかけた。


「作弥、大丈夫か?」


「大丈夫です!これくらい余裕ですよ!」


作弥は軽々と運んでいった。


木村は少し安心したように見えたが、その目には何か引っかかるものがあった。


1ヶ月後、作弥の体は完全に変わっていた。


ジムでも一目置かれる存在になっている。


「斉藤さん、すごいですね。どんなトレーニングしてるんですか?」


初心者に聞かれて、作弥は得意げに答えた。


「継続が大事ですよ。俺も最初は弱かったけど、今じゃこの通り」


実際には、プロテインの力。


でも作弥は、自分の努力の結果だと思い込んでいた。


しかし、少しずつ変化が起きていた。


周囲の声を、聞かなくなった。


「作弥、この企画、もう少し慎重に進めたほうが……」


先輩の木村がアドバイスする。


「大丈夫です!俺に任せてください!」


作弥は聞かない。


「作弥、取引先の意見も聞いたほうが……」


「いや、この方向で間違いないです。俺が責任持ちます」


作弥は自信満々だった。


間話


今宵薬局・店主の水晶球

今宵薬局の奥で、「 」は水晶球を覗いていた。


球の中に映るのは、ジムで自慢げに語る作弥の姿。


会社で周囲の意見を聞かずに突き進む作弥の姿。


「 」は静かに呟いた。


「……これは、良くない方向に向かっていますね」


でも、「 」はただ見守るだけ。


「致命的なことに陥る前に気づいてもらえると良いのですが」

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