第11話 根拠なきプロテイン 11-1
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黄昏れ時、シャッター街と化した商店街に一店舗だけ営業している店があった。
その店の店名は今宵薬局と書かれている。
店名が書かれた看板は古いが、店内はありふれた薬局の様子での薬が所狭しと並べられている。ただ、その薬は一般的に流通している市販品とは違う印象がある。
そしてカウンターの向こうに男がひとり座ってなにやら水晶球をじっと眺めている。
男は20代後半で顔は整っている。しかし、よく見ると化粧で誤魔化されているが口の周囲にうっすらと縫合の傷跡がある。その男はこちらに気づくと、にこやかな顔になった。
「やあこんにちわ、いや、もうこんばんわかな、今宵薬局へようこそ。私はここの店主の「 」です。ここに訪れるお客様は、みんな悩みを抱えた方ばかり。
今回のお客さまは、肉体にコンプレックスを感じており、自分に自信が持てないでいる方です。この方には、新しく入手したあれを処方してみましょうかね」
「 」が眺める水晶球の中には、一人の青年が映っている。
居酒屋の喧騒の中で、笑顔を作りながら、でも心の中では深く傷ついている青年。
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金曜の夜、居酒屋の喧騒の中で、斉藤作弥は笑っていた。
26歳。営業職。入社4年目。
同期の大塚が、ビールのジョッキを片手に笑いながら言った。
「作弥、お前ホントひょろいよな〜。風邪吹いたら飛んでいきそう」
周囲が笑う。悪気はない。いつもの冗談。
作弥も笑顔で返した。
「はは、そうだね」
でも、心は痛んでいた。
隣に座る大塚は、肩幅が広く、腕も太い。スポーツジムに通っていて、体格が良い。同期の中でも一番頼りになる存在として、周囲から一目置かれている。
作弥は違う。
細い首。華奢な肩。貧相な体。
飲み会が終わり、夜道を歩きながら、作弥はコンビニのガラスに映る自分の姿を見た。
(……情けない)
作弥は俯いて、家へ向かった。
月曜の朝。
営業部の会議室で、重い荷物を運ぶ場面があった。
先輩の木村が気を遣って言う。
「作弥、無理すんなよ。俺が運ぶから」
「あ……すみません」
ありがたい。
でも、惨めでもある。
自分は力がないから、いつも誰かが手伝ってくれる。それが当たり前になっている。
水曜の商談。
取引先の担当者が初対面の挨拶で言った。
「斉藤さん、若く見えますね」
悪気のない言葉。
でも作弥には「頼りなく見える」と聞こえた。
(やっぱり、自分は頼りなく見えるんだ)
金曜の合コン。
友人に誘われて、渋々参加した。
女性たちは、隣に座る大塚に興味津々だった。
笑顔で話しかけ、大塚が話すたびに楽しそうに笑う。
作弥には誰も話しかけてこなかった。
帰り道、作弥は鏡に映る自分を見て呟いた。
「……変わりたい」
2
翌週、作弥はジムに入会した。
トレーナーが丁寧に説明してくれた。
「最初は軽めから始めましょう。週3回、無理なく続けることが大事です」
「はい、わかりました」
作弥は真面目に通い始めた。
月曜、水曜、金曜。仕事が終わった後、必ずジムへ行く。
プロテインも飲んだ。食事も気をつけた。鶏むね肉、ブロッコリー、白米。栄養バランスを考えて食べた。
でも、1ヶ月経っても、体はほとんど変わらない。
2ヶ月経っても、同じだった。
(筋肉がつかない……)
鏡を見るたびに、失望した。
細い。
相変わらず、細い。
(元が細すぎるのか。自分には無理なのか)
3ヶ月目に入ると、作弥は焦り始めた。
(このままじゃ、何も変わらない)
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