第10話 休息の湿布薬 10-2
4
その夜、美樹は湿布を脚に貼って寝た。
パッケージを開けると、爽やかなミントの香りがした。
湿布を太ももに貼る。
ひんやりとした感触が、心地よい。
美樹はベッドに横たわり、すぐに眠りに落ちた。
翌朝。
美樹は目を覚ました。
最初に気づいたのは、脚の軽さだった。
(……あれ?)
美樹は起き上がった。
脚が、軽い。
昨日まで感じていた鈍い痛みが、嘘のように消えている。
美樹は立ち上がり、部屋の中を歩いてみた。
痛みがない。
重さがない。
まるで、羽が生えたように軽い。
(本当に……効いたんだ)
5
放課後、部活動。
美樹は恐る恐るトラックを走ってみた。
最初の数歩で、美樹は驚いた。
体が、軽い。
脚が、前へ前へと進む。
呼吸が、楽。
美樹は自然とスピードが上がっていくのを感じた。
タイム計測。
顧問の先生がストップウォッチを持って待っている。
「田中、行けるか?」
「はい!」
美樹はスタートラインに立った。
スタート。
美樹は駆け出した。
体が、軽い。
脚が、羽ばたくように前へ進む。
風が、心地よい。
ゴール。
顧問の先生が驚いた顔でストップウォッチを見つめている。
「田中……これ、自己ベストだぞ! しかも、かなり更新してる!」
美樹は信じられなかった。
「本当ですか?」
「ああ! このタイムなら、次の大会で確実に結果が出せる!」
美樹は嬉しかった。
でも、同時に不安も感じた。
(あの湿布のおかげ……?)
その日から、美樹は毎晩湿布を貼るようになった。
翌日も、その次の日も、記録は順調に伸び続けた。
顧問の先生は大喜びだった。
「田中、このタイムなら大学のスポーツ推薦も確実だぞ!」
チームメイトたちも、美樹の変化に驚いていた。
「美樹、すごいね! 何かトレーニング変えたの?」
「いや……特には……」
美樹は湿布のことを言えなかった。
6
記録が伸びて周囲の評価が上がる一方で、美樹の心は晴れなかった。
ある夜、美樹は部屋で湿布のパッケージを見つめていた。
淡い青色の包装紙。
白い羽根の模様。
(これは……自分の実力じゃない)
美樹は唇を噛んだ。
(あの不思議な湿布薬のおかげだ)
罪悪感が、膨らんでいく。
(これって……ドーピングみたいなものなんじゃないか?)
美樹は不安になった。
(こんなズルをして、スポーツ推薦をもらって……)
(大学に入っても、この湿布がなくなったら、元の遅い自分に戻ってしまう)
(そんなの……意味がない)
美樹は湿布を握りしめた。
大会の1週間前。
美樹は湿布の残りが少なくなっていることに気づいた。
パッケージを開けると、あと3枚しか残っていない。
(これが無くなったら……)
美樹は恐怖に駆られた。
(元の遅い自分に戻ってしまう)
(もう一度、あの薬局に行こう)
(追加の湿布を買おう)
7
その夜、美樹は『今宵薬局』を探して街を歩き回った。
あの商店街。
あの路地。
でも、見つからない。
美樹は何度も何度も、同じ道を歩いた。
でも、薬局はない。
(どこだ……)
(どこに行ったんだ……)
美樹は焦った。
大会の3日前。
ついに湿布が尽きてしまった。
美樹は絶望した。
その夜、美樹は部屋で泣いた。
(もうダメだ……)
(湿布がなくなったら、元の遅い自分に戻ってしまう)
(大会で結果が出せない)
(推薦がもらえない)
(大学に行けない)
美樹は顔を覆った。
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