表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今宵薬局  作者: 蟷螂
53/65

第10話 休息の湿布薬 10-2

4


その夜、美樹は湿布を脚に貼って寝た。


パッケージを開けると、爽やかなミントの香りがした。


湿布を太ももに貼る。


ひんやりとした感触が、心地よい。


美樹はベッドに横たわり、すぐに眠りに落ちた。


翌朝。


美樹は目を覚ました。


最初に気づいたのは、脚の軽さだった。


(……あれ?)


美樹は起き上がった。


脚が、軽い。


昨日まで感じていた鈍い痛みが、嘘のように消えている。


美樹は立ち上がり、部屋の中を歩いてみた。


痛みがない。


重さがない。


まるで、羽が生えたように軽い。


(本当に……効いたんだ)


5


放課後、部活動。


美樹は恐る恐るトラックを走ってみた。


最初の数歩で、美樹は驚いた。


体が、軽い。


脚が、前へ前へと進む。


呼吸が、楽。


美樹は自然とスピードが上がっていくのを感じた。


タイム計測。


顧問の先生がストップウォッチを持って待っている。


「田中、行けるか?」


「はい!」


美樹はスタートラインに立った。


スタート。


美樹は駆け出した。


体が、軽い。


脚が、羽ばたくように前へ進む。


風が、心地よい。


ゴール。


顧問の先生が驚いた顔でストップウォッチを見つめている。


「田中……これ、自己ベストだぞ! しかも、かなり更新してる!」


美樹は信じられなかった。


「本当ですか?」


「ああ! このタイムなら、次の大会で確実に結果が出せる!」


美樹は嬉しかった。


でも、同時に不安も感じた。


(あの湿布のおかげ……?)


その日から、美樹は毎晩湿布を貼るようになった。


翌日も、その次の日も、記録は順調に伸び続けた。


顧問の先生は大喜びだった。


「田中、このタイムなら大学のスポーツ推薦も確実だぞ!」


チームメイトたちも、美樹の変化に驚いていた。


「美樹、すごいね! 何かトレーニング変えたの?」


「いや……特には……」


美樹は湿布のことを言えなかった。


6


記録が伸びて周囲の評価が上がる一方で、美樹の心は晴れなかった。


ある夜、美樹は部屋で湿布のパッケージを見つめていた。


淡い青色の包装紙。


白い羽根の模様。


(これは……自分の実力じゃない)


美樹は唇を噛んだ。


(あの不思議な湿布薬のおかげだ)


罪悪感が、膨らんでいく。


(これって……ドーピングみたいなものなんじゃないか?)


美樹は不安になった。


(こんなズルをして、スポーツ推薦をもらって……)


(大学に入っても、この湿布がなくなったら、元の遅い自分に戻ってしまう)


(そんなの……意味がない)


美樹は湿布を握りしめた。


大会の1週間前。


美樹は湿布の残りが少なくなっていることに気づいた。


パッケージを開けると、あと3枚しか残っていない。


(これが無くなったら……)


美樹は恐怖に駆られた。


(元の遅い自分に戻ってしまう)



(もう一度、あの薬局に行こう)


(追加の湿布を買おう)


7


その夜、美樹は『今宵薬局』を探して街を歩き回った。


あの商店街。


あの路地。


でも、見つからない。


美樹は何度も何度も、同じ道を歩いた。


でも、薬局はない。


(どこだ……)


(どこに行ったんだ……)


美樹は焦った。


大会の3日前。


ついに湿布が尽きてしまった。


美樹は絶望した。


その夜、美樹は部屋で泣いた。


(もうダメだ……)


(湿布がなくなったら、元の遅い自分に戻ってしまう)


(大会で結果が出せない)


(推薦がもらえない)


(大学に行けない)


美樹は顔を覆った。


作品・続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら下の★をクリックしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ