第9話 ココロの絆創膏 9−6
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数週間後、拓也は新しい取引先との交渉を任された。
会議室で、相手の担当者が厳しい条件を出してくる。
「この納期は厳しいですね」
以前なら、絆創膏で痛みを消して、強く出ていた。
でも今は違う。
拓也は、胸の痛みを感じながら答えた。
「確かに厳しいですね」
拓也は深く息を吐いた。
「でも、御社の事情も分かります。一緒に、双方にとって良い方法を探しませんか?」
相手は少し驚いた顔をして、それから笑った。
「分かりました。それなら、こちらも譲歩します」
交渉は、以前よりも時間がかかった。
でも、最終的には双方が納得できる形で終わった。
オフィスに戻ると、山田が笑顔で言った。
「お疲れ様です、佐々木さん!」
拓也は笑顔で答えた。
「ありがとう。山田さんのアドバイスのおかげです」
一人じゃない。
チームがいる。
ある日、田村が職場に顔を出した。
「お久しぶりです」
まだ完全復帰ではないが、様子を見に来たという。
拓也は駆け寄った。
「田村君!」
「佐々木さん」
田村は少し照れくさそうに笑った。
「僕も、もうすぐ戻れそうです」
「本当に? 良かった…」
「佐々木さん、変わりましたね」
拓也は微笑んだ。
「うん…痛みを、ちゃんと感じられるようになった」
田村も微笑んだ。
「その方が、佐々木さんらしいです」
二人は笑い合った。
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仕事帰り、拓也は商店街を通った。
あの薬局を探したが、見つからなかった。
シャッター街の中に、明かりはない。
拓也は少し寂しく、でも少しホッとした。
(…もう、見えなくなったのかな)
拓也は立ち止まった。
(もう、必要ないってことかな)
拓也は空を見上げた。
星が綺麗だった。
拓也は静かに呟いた。
「ありがとうございました」
風が、優しく吹いた。
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今宵薬局の奥で、「 」は水晶球を見つめていた。
球の中には、星空を見上げる拓也の姿が映っている。
「 」は静かに微笑んだ。
「客は戻ってきた。痛みを抱えて、でも彼は前を向いています」
水晶球の中で、拓也は歩き出す。
「傷つくことは弱さではありません。傷ついても立ち上がることが、強さなのです」
水晶球の中で、拓也は笑顔で同僚と話している。
店主は深く息を吐いた。
「ほんとうに人というのは面白いですね」
店主は水晶球から目を離し、静かに呟いた。
第9話 ココロの絆創膏 -了-
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