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今宵薬局  作者: 蟷螂
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第9話 ココロの絆創膏 9−1

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黄昏れ時、シャッター街と化した商店街に一店舗だけ営業している店があった。

その店の店名は今宵薬局と書かれている。


店名が書かれた看板は古いが、店内はありふれた薬局の様子での薬が所狭しと並べられている。ただ、その薬は一般的に流通している市販品とは違う印象がある。

そしてカウンターの向こうに男がひとり座ってなにやら水晶球をじっと眺めている。


男は20代後半で顔は整っている。しかし、よく見ると化粧で誤魔化されているが口の周囲にうっすらと縫合の傷跡がある。その男はこちらに気づくと、にこやかな顔になった。


「やあこんにちわ、いや、もうこんばんわかな、今宵薬局へようこそ。私はここの店主の「 」です。ここに訪れるお客様は、みんな悩みを抱えた方ばかり。


今回のお客様は傷つきやすく、些細なことでも気になり、必要以上に相手の言葉を深読みしてしてしまう方です。さて、このお客さまにはどのような処方が良いでしょうか。うん、あれを処方してみましょう。」



1


月曜日の朝。


佐々木拓也は朝礼の中、憂鬱な気持ちを抱えていた。


28歳。営業部に所属して6年目。決して無能ではないが、特別に優秀というわけでもない。


どこにでもいる平凡な社員。ただ一つ、他の人と違うことがあるとすれば、それは――



「佐々木、昨日の取引先との交渉はどうなっているんだ。すぐに報告をしてもらわないと困るだろ。」


上司の田中部長のやや厳しい言い回し。


田中部長はいつもこんな調子で話す。


なので、特に拓哉を責めているわけでもない。



でも、拓也の頭の中はパニックになっている。


部長に報告を忘れていた自分はダメな人間だ、と。


拓也のマイナス思考は加速する。


部長に指摘されたことも気になるし、同僚にどう思われたかも気になる。


みんな、ぼくを呆れているだろう。



実際には、誰も気にしていない。周囲の同僚たちは自分の仕事に忙しい。


でも拓也には、周囲の視線すべてが批判に感じられた。


「11時に空き時間があるから、その時わたしに交渉内容をまとめて報告するように」


そう田中部長は言って後、別の部下に指示をしている。


拓也頭の中には部長の言葉やなぜ報告をしなかったのか、との言葉が延々と繰り返されていた。



昼休み。


拓也は昼休憩時間、デスクでコンビニ弁当を食べていた。


デスクの周囲では同僚たちが楽しそうに話している。


そのとき、同僚の山田が通りかかった。


「佐々木さん、お昼休憩中に悪いんだけど」


佐々木は声をかけてきた山田に顔を向ける。


「……、何でしょう」


「佐々木さん、また資料の数値に間違いがあったよ。あとで資料の数値の修正して、共有ファイルに再アップしといて」


山田の言葉には非難めいたものはなかった。


その程度のミス。


しかし、拓哉はそう捉えない。


バタバタと弁当をどかせて、ノートパソコンを操作しようとする。

その様子を見て山田は少し焦る。


「ああ、佐々木さん、今やる必要ないから。お昼休憩後にお願いね」


「そ、そうですね」


拓也はまたやってしまった、とひとり反省するのだった。



午後、取引先との商談。


拓也はプレゼン資料を広げていた。


取引先の担当者――中年の男性が、資料に目を通しながら言った。


「この提案、もう少し具体的にしてもらえますか?」


正当な要望。ビジネスとして当然の指摘。


でも拓也には、否定に聞こえた。


(やっぱり自分の企画はダメなんだ)


拓也は資料をめくる手が震えた。


「は、はい……すぐに修正します」


担当者は特に気にした様子もなく、次のページに目を移した。


でも拓也の頭の中では、取引先の言葉・同僚の言葉・上司の言葉がぐるぐる回っていた。


夕方の打ち合わせ。


後輩の田村が、資料を持って拓也の席に来た。


「佐々木さん、この処理方法で合ってますか?」


確認しているだけ。新人が先輩に聞く、ごく普通の質問。


でも拓也は、責められている気がした。


(ど、どこをミスしたんだろう)



拓也は資料に目を通した。


「……うん、大丈夫だと思うよ」


田村は安心した様子で席に戻った。


拓也は深く息を吐いた。


こんな事でもビクつく自分が情けなかった。


金曜日の夜。


拓也は疲れ果てていた。


デスクに一人残り、今週の出来事を反芻する。


上司の指摘。


同僚の冗談。


取引先の要望。


後輩の確認。


どれも、普通の出来事。


でも、すべてが拓也の心に重くのしかかる。


(なんで自分はこんなに弱いんだろう)


拓也は顔を覆った。


(ちょっとしたことで深く考え込んで、それが頭から離れない)


(こんな自分が嫌だ。こんな自分じゃ、この仕事は続けられない)


涙が溢れそうになる。


拓也は急いで荷物をまとめ、オフィスを出た。



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