第8話 リピート錠 8−4
8
春子は六回目のループを迎えた。
だが、今回は違った。
春子は誠一と映画を観て、喫茶店でコーヒーを飲み、夕暮れの公園を散歩した。
そして、誠一が春子の手を握ったとき、春子は言った。
「誠一さん……ありがとう」
「ん? 何が?」
「私……あなたに会えて、本当に幸せでした」
誠一は優しく微笑んだ。
「俺もだよ」
春子は涙を拭った。
「でも、私……もう行かなきゃ」
誠一は頷いた。
「ああ。お前、明日からも頑張れよ」
春子は深く頷いた。
「……はい」
そして、夜が訪れた。
春子は目を閉じた。
9
春子は目を覚ました。
自宅のベッドの上。
手の中には、空になった小瓶があった。
春子は静かに起き上がり、病院へ向かった。
病室に入ると、誠一はベッドに横たわっていた。
春子は誠一の手を握った。
「誠一さん……ただいま」
誠一は春子を見たが、やはり何も言わなかった。
だが、春子は微笑んだ。
「私……ちゃんとここにいるから」
春子は誠一の手を握りしめた。
10
今宵薬局の奥で、「 」は水晶球を見つめていた。
球の中には、誠一の手を握る春子の姿が映っている。
「 」は静かに微笑んだ。
「春子さん。あなたは、正しい選択をされましたね」
水晶球の中で、春子は誠一の手を握りながら、穏やかな表情を浮かべている。
「 」は静かに呟いた。
「過去は、逃げ込む場所ではありません。思い出す場所です」
そして、「 」は水晶球から目を離し、静かに店の灯りを落とした。
「また、次のお客様が来られるまで……」
今宵薬局は、静かに時の狭間に佇み続ける。
困りごとを抱えた人が、再びこの店を見つける日まで。
第8話 リピート錠 了




