第6話 眠らなくても良い薬 6-4
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次の日、真理は仕事を減らすことにした。
2つのバイトのうち、深夜清掃を辞めた。
でも、薬は飲み続けた。まだ、睡眠は必要ないと思っていた。
ある週末、真理は悠太と公園に行った。
悠太はブランコに乗りながら、嬉しそうに笑っていた。
「ママ、見て! 高く揺れてるよ!」
真理は笑顔を作った。でも、顔の筋肉をそう動かしているだけ、何も嬉しくない。
悠太の笑顔が、遠くに感じられた。
まるで、ガラス越しに見ているような感覚。
真理は気づいた。
自分は、悠太の笑顔に何も思うことがない、感情が動かない。
以前は、悠太の笑顔を見るだけで、疲れが吹き飛んだ。悠太の「ママ、大好き」という言葉が、何よりの活力だった。
でも、今は違う。
何も感じない。
真理は、自分が空っぽになった気がした。
その夜、真理は薬の瓶を手に取った。
残り、10錠ほど。
真理は考えた。
時間は増えた。お金も増えた。生活も楽になった。
でも、眠らないことで感情が欠落してしまったようだ。
悠太への愛情。生きる喜びも感じなくなった。
自分は、何をしているんだろう。
悠太のために頑張っているはずなのに、悠太の笑顔に癒やされなくなっている。
それは、本末転倒じゃないか。
真理は悠太が寝ている寝室に行った。
悠太は、すやすやと眠っていた。
真理は、悠太の寝顔を見つめた。
可愛い、愛おしい、はずなのだ。
でも、その感情が、起きない。
このままではいけない。
真理は決心した。
薬を、やめよう。




