第6 眠らなくても良い薬 6−3
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一ヶ月後。
真理の生活は、表面上はうまくいっていた。
3つの仕事を掛け持ちし、収入は増えた。家も綺麗に保たれている。悠太にも、欲しいものを買ってあげられる。
でも、真理は何かが変だと感じていた。
感情が、鈍くなっている気がする。
悠太の笑顔を見ても、以前ほど嬉しくない。美味しいものを食べても、感動しない。
全てが、機械的に感じられる。
ある朝、悠太が真理に抱きついてきた。
「ママ、大好き」
「うん、ママも」
真理は答えたが、心がこもっていなかった。自分でもわかった。
悠太は、不思議そうに真理を見上げた。
「ママ、最近冷たいよ」
「え?」
「前はもっと、優しかった」
悠太の言葉が、真理の胸に刺さった。
「ごめんね、ママ疲れてるのかも」
でも、疲れてはいなかった。体は元気だった。
問題は、心だった。
真理は、自分が変わってしまったことに気づいていた。でも、どうすればいいのかわからなかった。
ある夜、真理は仕事から帰って、悠太が一人で泣いているのを見つけた。
「悠太、どうしたの?」
「ママ……怖い夢見た」
悠太は涙を拭いた。
「ママが僕を置いて鶴さんと遠くへ飛んでいっちゃうんだ。」
真理は悠太を抱きしめた。でも、以前のように気持ちが動かない。
ただ、機械的に抱きしめているだけ。
真理は気づいた。
自分は、寝ていない。
寝ていないから、感情が鈍くなっているのだろうか。
人間は、寝ている時に記憶を整理している。感情も整理する。
でも、真理はもう一ヶ月、寝ていなかった。
だから、感情が鈍くなっているのかもしれない。
真理はここにきて眠らなくて良い薬の副作用を気づき、ゾッとした。
このままでは、自分は感情が欠けた何かになってしまうのではないか。




