第6話 眠らなくても良い薬 6−2
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家に帰ると悠太は居間で寝ていた。
悠太の手元には折り紙があった。やや不恰好な折り鶴が2羽、真里の帰りを待っている間に折り紙で遊んでいるうちに寝てしまったのだろう。その息子の寝顔を見て真里は微笑む。そして悠太を抱き上げて布団に寝かしつける。
居間に戻った真理は、2羽の折り鶴をテレビ台の横に置いて、ちゃぶ台のうえに小箱を置いた。
それは今宵薬局でもらった薬の眠らなくても良い薬であった。
箱を開けるとプセルの錠剤が入っている瓶が出てきた。
真里は瓶を開け、錠剤を一錠水で飲む。
無味無臭。でも、飲み込んでしばらくすると体にまとわりつくような眠気が無くなった。
それだけではない、頭が冴えている。体も軽い。
真理は布団に入らず、溜まっていた家事を片付けた。洗濯物を畳み、キッチンを掃除し、明日の夕飯の下ごしらえをした。
あっという間に、全て終わった。
時刻は午前3時。まだ時間がある。
真理は本を読んだ。久しぶりだった。結婚前は読書が好きだったのに、最近は時間がなくて読めなかった。
午前6時。悠太が起きてきた。
「ママ、おはよう」
「おはよう、悠太」
真理は笑顔で迎えた。
不思議なことに、全く疲れていなかった。一睡もしていないのに、体は元気だった。
真理は悠太に朝食を作った。今日は時間があるから、手作りのホットケーキ。
「わあ、美味しそう!」
悠太は嬉しそうに食べた。
真理は満足した。これなら、ちゃんと悠太の世話ができる。
それから、真理は毎日1日1錠薬を飲んだ。
睡眠時間がゼロになった分、自由な時間が増えた。
真理は、さらにもうひとつアルバイトを増やした。深夜の清掃のバイト。収入が増えた。
生活は、前より楽になった。
悠太にも、おもちゃを買ってあげられるようになった。服も新しいものを。
真理は満足していた。
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今宵薬局。
店の奥で、店主は水晶球を眺めていた。
球の中には、真理の姿が映っている。深夜の清掃現場で働いている真理。疲れた顔をしていないが、どこか表情が硬い。
「順調に見えますが……」
店主は水晶球をじっと見つめた。
球の中で、真理が家に帰り、悠太を起こしている。悠太は眠そうな顔をしているが、真理は気づいていないようだ。
「眠らないことで、時間は増えました。でも……」
店主は小さくため息をついた。
「夢を見ることができなくなっている。それが、どう影響するか」
水晶球の中で、真理が機械的に家事をしている。笑顔がない。
「早く気づいてくれればよいのですが」
店主は水晶球を布で覆った。




