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今宵薬局  作者: 蟷螂
27/64

第5話 才能の目薬 5-5

すいません、昨日は飲み会で更新できませんでした。

なので、本日はちょっと増量しています。

6


翌日、拓海はギャラリーのオーナーに電話した。


「すみません、個展、中止させてください」


「え? 何言ってるの、安藤君。もう告知も出してるし、チケットも売れてるんだよ」


「本当に申し訳ありません。僕はもうあのような絵を描くことが出来なくなったのです。」


「え、どういうこと?」


「くわしくはお話できませんが、あの絵は一種のズルなのです。僕の頭の中のイメージをそのままキャンバスに描くズルを使っていました。もうその方法が取れなくなったのです。」


「なので、あの絵は僕の絵ではありますが、僕の実力ではありません。ズルなしで僕があの絵に辿り着くことは多分まだ先のことです。」


オーナーは黙って聞いていた。


「しかしだね、安藤君……」


「ズルした絵はもう描けないんです。いや描きたくない。あれは僕の実力を反映したものではありません。でも僕は描きたい、もう一度ちゃんした自分の実力で絵を描きたいんです。自分の本当の絵を描きたいんです」


拓海は後半、自分が何を言っているのか分からない状態になっていた。



オーナーは、ため息をついた。


「わかった。個展は延期しよう」


「延期……?」


「中止じゃなくて、延期。安藤君が、本当の自分の絵を描けるようになったら、その時にやろう」


拓海は涙が出そうになった。


「ありがとうございます」


「期待してるよ、安藤君」


電話を切った拓海は、目薬を手に取った。


これを、捨てよう。


拓海はゴミ箱に瓶を捨てた。


「ありがとう、そしてさようなら」


拓海は深呼吸した。


これで、もう戻れない。


でも、それでいい。


拓海は、新しいキャンバスに向かった。


目薬なし。自分の力だけで。


筆を取る。


もうキャンバスに絵が投影されない。


手が震えた。でも、描き始めた。


線は歪んだ。色は思い通りにならなかった。


でも、描き続けた。


何時間も、何日も。


少しずつ、朧げながらも感覚が戻ってきた。


描くことの、楽しさ。


完璧じゃなくても、自分の手で描く喜び。


それが、少しずつ戻ってきた。


7


1ヶ月を過ぎたあたり


拓海は、一枚の絵を完成させた。


海の絵。夕暮れの海。


技術的には、目薬を使っていた頃の絵には及ばない。でも、温かみがあった。

拓海の思いが、試行錯誤のあとがそこにあった。


拓海は満足した。


これが、自分の絵だ。


拓海は美里に連絡した。


「美里、絵が完成したんだ。見に来てくれない?」


「本当? 行く!」


美里が拓海の部屋に来て、絵を見た。

美里は、じっと絵を見つめた。そして、笑顔になった。


「これだよ、拓海」


「え?」


「これが、拓海の絵だよ。有名になる以前の拓海の絵」


美里は嬉しそうに言った。


「前の絵は完璧だったけど写真のようにそのままだった。でも、この絵は拓海の気持ちが伝わってくる」


拓海は涙が出そうになった。


「ありがとう、美里」


拓海は、もう一度絵を描くことが楽しくなった。


毎日、自分のペースで描いた。評価されることも大事だけど、その根幹はただ描きたいから描く。作業ではない。


少しずつ、技術も戻ってきた。いや、以前より良くなった気がした。


自分で考えて、自分で試行錯誤して、自分で描く。


それが、多分成長というものだろう。


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