第5話 才能の目薬 5-5
すいません、昨日は飲み会で更新できませんでした。
なので、本日はちょっと増量しています。
6
翌日、拓海はギャラリーのオーナーに電話した。
「すみません、個展、中止させてください」
「え? 何言ってるの、安藤君。もう告知も出してるし、チケットも売れてるんだよ」
「本当に申し訳ありません。僕はもうあのような絵を描くことが出来なくなったのです。」
「え、どういうこと?」
「くわしくはお話できませんが、あの絵は一種のズルなのです。僕の頭の中のイメージをそのままキャンバスに描くズルを使っていました。もうその方法が取れなくなったのです。」
「なので、あの絵は僕の絵ではありますが、僕の実力ではありません。ズルなしで僕があの絵に辿り着くことは多分まだ先のことです。」
オーナーは黙って聞いていた。
「しかしだね、安藤君……」
「ズルした絵はもう描けないんです。いや描きたくない。あれは僕の実力を反映したものではありません。でも僕は描きたい、もう一度ちゃんした自分の実力で絵を描きたいんです。自分の本当の絵を描きたいんです」
拓海は後半、自分が何を言っているのか分からない状態になっていた。
オーナーは、ため息をついた。
「わかった。個展は延期しよう」
「延期……?」
「中止じゃなくて、延期。安藤君が、本当の自分の絵を描けるようになったら、その時にやろう」
拓海は涙が出そうになった。
「ありがとうございます」
「期待してるよ、安藤君」
電話を切った拓海は、目薬を手に取った。
これを、捨てよう。
拓海はゴミ箱に瓶を捨てた。
「ありがとう、そしてさようなら」
拓海は深呼吸した。
これで、もう戻れない。
でも、それでいい。
拓海は、新しいキャンバスに向かった。
目薬なし。自分の力だけで。
筆を取る。
もうキャンバスに絵が投影されない。
手が震えた。でも、描き始めた。
線は歪んだ。色は思い通りにならなかった。
でも、描き続けた。
何時間も、何日も。
少しずつ、朧げながらも感覚が戻ってきた。
描くことの、楽しさ。
完璧じゃなくても、自分の手で描く喜び。
それが、少しずつ戻ってきた。
7
1ヶ月を過ぎたあたり
拓海は、一枚の絵を完成させた。
海の絵。夕暮れの海。
技術的には、目薬を使っていた頃の絵には及ばない。でも、温かみがあった。
拓海の思いが、試行錯誤のあとがそこにあった。
拓海は満足した。
これが、自分の絵だ。
拓海は美里に連絡した。
「美里、絵が完成したんだ。見に来てくれない?」
「本当? 行く!」
美里が拓海の部屋に来て、絵を見た。
美里は、じっと絵を見つめた。そして、笑顔になった。
「これだよ、拓海」
「え?」
「これが、拓海の絵だよ。有名になる以前の拓海の絵」
美里は嬉しそうに言った。
「前の絵は完璧だったけど写真のようにそのままだった。でも、この絵は拓海の気持ちが伝わってくる」
拓海は涙が出そうになった。
「ありがとう、美里」
拓海は、もう一度絵を描くことが楽しくなった。
毎日、自分のペースで描いた。評価されることも大事だけど、その根幹はただ描きたいから描く。作業ではない。
少しずつ、技術も戻ってきた。いや、以前より良くなった気がした。
自分で考えて、自分で試行錯誤して、自分で描く。
それが、多分成長というものだろう。




