第5話 才能の目薬 5-4
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次の個展が近づいていた。
拓海は、毎日のように絵を描いた。目薬を差して、機械的に。
完成した絵は、どれも完璧だった。頭のイメージ通りではある。
でも、拓海は満足できなかった。
何かが足りない。何かが、欠けている。
ある夜、拓海は目薬を使わずに絵を描こうとした。
もう一度、自分の力だけで描いてみたかった。
キャンバスに向かい、筆を取る。
でも、やはり描けなかった。
線一本、引けない。
手が震える。頭が真っ白になる。
拓海は隣にあるベッドに入り込み布団をかぶってしまう。
目薬がなければ、自分は何もできない。
目薬なしの状態だと前より描けなくなっている。
それは才能なのか、実力なのか。
多分違う。
拓海は、自分の才能も実力もどうだったか分からなくなった。
自分は、何をしているんだろう。
画家になりたかったはずなのに、今の自分は本当の画家なのだろうか。
目薬の力で描いた絵は、自分の絵なのだろうか。
なにより目薬がなくなった時自分はどう絵を描いたら良いのだろうか。
拓海は立ち上がり、窓を開けた。
冷たい夜風が、部屋に流れ込んできた。
拓海は、目薬を見つめた。
残り、わずか。
でも、これを使い続けても、幸せにはなれない。
拓海は決心した。
個展を、中止しよう。
もう一度、一から始めよう。
目薬に頼らず、自分の力で。
ギャラリーのオーナーに断りの連絡を入れるのは本当に心苦しいが、これ以上誤魔化していくと致命的なことになりなねない。




