第5 才能の目薬 5-3
投稿が遅くなりました
4
拓海は、有名になるにつれて、忙しくなった。
個展の準備、取材の対応、依頼された絵の制作。
毎日、絵を描いた。でも、楽しくなかった。
いや、楽しいはずなのに、感じられなかった。
昔は、絵を描くこと自体が楽しかった。何の見返りも求めず、ただ描くことで満足できた。
でも、今は違う。
評価されるため、売れるため、期待に応えるために描いている。
絵を描く喜びが、どこかに消えてしまった気がした。
絵を描くことがただの作業となっていた。
ある日、美大時代の友人、佐々木美里が拓海のアトリエを訪ねてきた。
「拓海、すごいね!雑誌で見たよ」
「美里、久しぶり」
拓海は笑顔で迎えた。
美里は、今はデザイン会社で働いている。絵は趣味で描いているが、プロにはならなかった。
「拓海の絵、見せて」
「いいよ」
拓海は、最近描いた絵を見せた。
美里は絵を見つめて、少し首を傾げた。
「すごく上手だね。技術は完璧」
「でも?」
「でも……なんか、拓海らしくない気がする」
美里は困った顔で言った。
「以前の拓海の絵は、この絵みたいな技術はなかったけど、楽しそうだったっていうか、拓海らしい思いがキャンバスに浮かんでいた」
拓海は何も言えなかった。
「怒らないで聞いてね。今の絵は、多分頭のイメージをそのまま写真にしただけって感じで、そこに拓海の思いがのせられている感じがない。」
美里の言葉が、拓海の胸に刺さった。
「ごめん、ケチをつけるようなこと言って。わたし拓海の絵に嫉妬しているのかも」
「いや、いいんだ」
拓海は俯いた。
「俺も、何か違うって思ってたから」
美里が帰った後、拓海はひとりで考えた。
自分は、何のために絵を描いているんだろう。
評価されるため? お金のため? 有名になるため?
それもあるが、根幹は子供の頃から同じ、描いていて楽しい、自分のイメージをいかにキャンバスに試行錯誤して描き切るか。
でも、その喜びが、もう感じられない。
ただ依頼があって、それに応じた絵を、頭の浮かんだものを写真のようにキャンバスに埋める作業。ただの作業、試行錯誤とか思いとかキャンバスに投影できない。
拓海は目薬を手に取った。
残り、4分の1ほど。
これがなくなったら、自分はどうなるんだろう。
間話
今宵薬局のカウンターで「 」が水晶から拓海の様子を眺めている。
水晶に映る拓海はキャンバスの前で筆を取りながら、動かない。
「お客さまは目薬の力で描かれた絵と本来の絵のギャップに悩んでおられるようです。目薬が無くなる前に、そのギャップを埋めていく方法か、ほかの道を模索する必要があるでしょう。
わたしがお渡しする薬は、すぐに解決できる薬のようで、実は似て非なるもの。本当の解決策に辿り着くのは、ご自身で見つけてもらうしかありません」
「 」はそう呟き、引き続き拓海の行末を水晶で眺めるのだった。




